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円形の部屋に、風の唸りが満ちていた。
エルンストの操る嵐は、時が経つごとに勢いを増していく。アルマの張った防御の膜は、絶え間ない風の刃に叩かれ、その明滅の間隔を短くしていった。
「く……っ」
その膜にひびのような光の乱れが走ったかと思うと、次の瞬間、甲高い音とともに砕け散った。
行き場を失った突風が、クレイとアルマの体を容赦なく吹き飛ばす。二人は石畳の上を転がり、崩れた壁へと叩きつけられた。
起き上がる間もなく、無数の風の刃が二人へと殺到する。
「これで終わりだ」
エルンストが、とどめとばかりに手を掲げた。
その手が風を解き放とうとした、まさにそのとき、銀色の光が一筋、宙を裂いてエルンストへと飛んだ。
エルンストの周囲に、瞬時に風の壁が巻き起こる。飛来した短剣は、その壁に阻まれ、甲高い音を立てて床へと弾き落とされた。
「先生、無事ですか!」
部屋の入口に姿を現したのはライルだった。
ライルは駆け込みながら、立て続けに短剣を投げつけていくが、そのことごとくが、エルンストを守る風の壁の前に力なく弾かれていく。
「貴様、邪魔をするな!」
標的をライルへと変えたエルンストの手が、薙ぐように振られると、不可視の刃が、ライルめがけて放たれた。
見えぬはずの風の刃を、しかし、ライルは紙一重で見切っていく。左へ、右へと身を沈めながら風を躱し、一気にエルンストとの間合いを詰めた。
「戦いには慣れていないようだな。手の向きでわかるぞ!」
ライルの短剣が、エルンストへと振り上げられる。
だが、その刃が届くよりも早く、ライルの足元から突風が噴き上げた。
ライルの体が、宙へと高く吹き上げられると、そのまま為す術もなく、硬い石畳へと激しく叩きつけられた。
「小賢しい真似を!」
息がつまり、すぐには起き上がれぬライルへと、新たな風の刃が牙を剥く。
「ライルさん!」
駆けつけたアルマが身を投げ出すように立ちはだかると、両手を突き出し、防御の膜を再び編み上げる。
「無駄なことを。まとめて吹き飛ばしてくれるわ!」
エルンストが、両手を大きく頭上へと掲げた。部屋中の風が、その手のひらへと収束していく。
先ほどまでとは比べものにならない、巨大な力の渦が生まれようとしていた。
「そんな隙を見せるとは、やはり戦いには向いていないな」
ライルの言葉とともに、アルマの陰から、一筋の銀光が投げ放たれる。短剣は逆巻く風をかいくぐり、エルンストの右手の甲を、鋭く切り裂いた。
「ぐあっ……!」
エルンストの手の上で収束しかけた風の渦が、大きく乱れて霧散する。
守りの緩んだその一瞬、アルマは防御の術式を解くと、その手を天井へと向けた。
指先から青白い雷光が放たれ、頭上の崩れかけた天井を穿つ。
轟音とともに、砕けた石材がエルンストの頭上へと降り注いだ。
「おのれ……!」
エルンストが咄嗟に風を巻き上げ、落下する瓦礫を弾き飛ばす。
もうもうと立ち上る瓦礫を払いのけ、エルンストが正面へと向き直ると、アルマはもはや防御の術式を張るのをやめていた。
「ふん、観念したか」
「クレイさん!」
振り向いたエルンストの前には、瓦礫に気を取られた隙に踏み込んでいたクレイの姿があった。
その手には、旅の始まりを告げることとなった古の剣。
クレイの刻印の紋章に反応し、その刃は青白い光をまとっていく。
エルンストの周囲に、風の壁が生まれるが、青白い光を帯びた刃は、その風の壁を紙のように切り裂き、そのままエルンストの体を深く断ち割った。
「ば、ばかな……」
エルンストの目が、大きく見開かれる。
信じられぬ、とでも言うように、エルンストは自らの胸に走った傷へと目を落とした。
そして、糸の切れた人形のように、ゆっくりと床へ崩れ落ちた。




