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「私が本当の歴史を知らないだと?」
「ソルステンの書庫で、僕たちは知りました。星廻りの民が去った後、この地に残った者たちが、その力をどう使ったか。それは、この地に暮らす人々の生活を豊かにするためだった」
クレイは、これまで巡ってきた遺構を思い返した。
大地に恵みをもたらした神殿。水脈を司った器。連峰の気候を鎮めた金字塔。
そのどれもが、人々の生活を支えるために築かれたものだった。
「星廻りの民は、この地を中継地点に選んだに過ぎん。あの偉大な力は、人々の生活を豊かにするためなどという、そんな陳腐なことに使うものではない」
先ほどまで余裕を見せていたエルンストの表情が険しくなり、その目つきには剣呑な色が現れていた。
「いいえ。それでも、彗星に座する女神は、この地に残り、そして人々のためにその力を、その一生をかけてくれました」
クレイとともに、アルマもエルンストの言葉を否定した。
エルンストは、しばらく二人を見つめていたが、首を振ると、小さく息を吐いた。
「女神から力を授かった星詠みたちは、その気になれば星の海さえ渡れた。なのに、井戸を掘り、畑を潤すことに、その力を使ったのだ。もったいないとは思わないのかね」
クレイは、エルンストと会話ができているはずなのに、決して埋まらない隔たりを感じた。その手応えのなさにそら恐ろしさを覚える。
「君たちとは分かり合えるかもしれんと、わざわざ声をかけたのだがな」
エルンストは、傍らの剣士の肩を、軽く叩いた。
「私はここでやることがある。君らの相手は彼がするよ」
剣士は腰の剣を抜き放つと、エルンストとクレイたちの間に歩を進めた。
「言っておくが、彼は『剣聖』の刻印を持っている。君たちでは到底かなわんよ」
そう言い残すと、エルンストはクレイたちに背を向け、崩れた建物の奥へと歩き出した。
「待て――」
サラが後を追おうと踏み出したそのとき、剣士が滑るように間合いを詰めてくる。
「邪魔をするな!」
サラが曲剣を抜き放ち、剣士に切りかかるが、剣士は手首を捻って剣を弾き返した。
軽く振っただけのように見えたその剣は、サラの体勢を大きく崩した。
「サラさん!」
すかさずライルが両手に短剣を構えて剣士を牽制するが、その長剣に似合わぬ速度で振られた剣が、ライルを吹き飛ばす。
剣士のあまりの強さに、クレイたちは手出しができないでいた。
「クレイ! 先に進め!」
サラはそういうと、曲剣を大きく振りかぶる。
隙だらけの大ぶりな攻撃を弾くべく、剣士が切り上げた瞬間、サラはあえて曲剣を手放した。
身を沈めたサラは、そのまま剣士の後ろに回り込むと、膝めがけて鋭い蹴りを放つ。
「ぐっ!!」
剣士が膝をつくと、その隙をみて、ライルが懐から取り出した投擲用の短剣を連投した。
「先生! 今です、ここは俺たちに任せて!」
クレイはその声に頷くと、アルマとリオを振り返った。
「行きましょう!」
だが、リオは投石紐を握りしめると、首を振った。
「俺はここに残ります」
「しかし、リオ——」
「あいつを追ってください。俺はここでライルさんたちと一緒に戦います」
「クレイさん、行きましょう。私たちにできることを」
アルマの言葉に、クレイは唇を噛んだ。
剣士とライルたちを交互に見やり、そして、エルンストの消えた奥へと目を向ける。
「……頼みます。三人とも、無事で」
クレイとアルマが走り出すと、そちらに向かおうとする剣士の頭部目がけて、リオの投石が飛ぶ。
「立て。お前の相手はこっちだ」
曲剣を握り直したサラが、剣士の前に立ちはだかった。




