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刻印の考古学者 〜冴えない能力の使い方〜  作者: 音鳴 凪
失われた王都

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「やはり、砂の匂いは落ち着くな」


 サラが目を細め、深く息を吸い込んだ。

 乾いた風が頬を撫でた瞬間、サラは自分が確かに砂漠へ戻ってきたことを実感する。


「町までは、あと一日といったところでしょうか」


 クレイはサラの横に馬を並べると、遠く砂丘のかなたを眺めた。


「砂漠の町でサラさんと出会ったのが、ついこの間のようです」


 ソルステンの書庫の祭壇に浮かび上がった大陸の姿。

 そこで判明した最後に訪れるべき場所は、このサルマン地域より、遥か西を指していた。


「目的の場所はサルマンの町とは方角が少しずれますが、町に寄ってしっかりとした準備を整えましょう」


 ライルは馬上で地図を広げ、あらためて現在位置を確認する。

 祭壇に浮かび上がった地図は古く、あのあとライルとアルマが協力して、現在の地図に置き換えていった。


 時代が変わっても変わらぬ地形はあり、いくつかの目印を頼りに、やがて目的地を浮かび上がらせることができた。


「俺は砂漠は初めてです。こんなに乾いた風が吹くんですね」


 リオはマーカスの元、ソルステンから見て東側の河川地域で育ったため、砂漠特有の風の匂いや、いくつも連なる砂丘が珍しいようだ。


「目的地は大湿地地帯の中央付近。そこに何かがあるとは聞いたことがありませんが、サラさんの一族なら、何か分かるでしょうか?」


「砂漠のことなら大抵は知っているつもりだが、あの湿地に足を踏み入れた者の話は、聞いたことがないな」


 クレイも遺跡や遺構などの情報を調べてみたが、該当するような情報は見つからなかった。


「だが、父上に聞けば、何か知っているかもしれない」


 彗星に座する女神と星詠みたち。

 ソルステンの書庫で明らかになった歴史によれば、サラたち砂漠の守護者はその末裔にあたる。


 最後の目的地に関する情報を集めることは、サルマンの町に立ち寄るもう一つの目的でもあった。


「行きましょう。あと少しです」



 町に着くと、サラは一行と別れ、単身で一族の元へ向かった。

 久方ぶりの帰還を、族長である父や、兄アシュラフへ報告するためだ。


 残されたクレイたちは、町の宿に部屋を取り、西へ向かうための準備に取りかかった。


「湿地というのが、どうにも厄介です」


 装備を検分していたライルが、珍しく難しい顔をしていた。


「山も氷河も砂漠も、それぞれに越え方があります。ですが、湿地は……正直、俺も本格的に旅をしたことがありません」


 乾いた大地を渡る装備と、水に沈む土地を渡る備えは、まるで違う。足を取られる泥濘、飲み水の確保、湿気による荷の傷み。

 ライルは市場を巡り、防水を施した布や、浅瀬を探るための長い棒などを買い集めていた。


「ここから先は、俺の経験も通じないかもしれません」


「ここまでみんなで力を合わせて乗り越えてきました。ライル、最後までお願いします」


 その一言に、ライルは静かに頷いた。



「挨拶は済ませてきた。まだすべてを話せるわけではなかったが……兄様は、相変わらず何も聞かずに送り出してくれた」


 夕刻になり、クレイたちの宿にサラが戻ってきていた。


「目的地について、何か分かりましたか?」


「残念ながら、目的地そのものの情報はなかった。だが、役に立ちそうなものはあったぞ」


 サラはそういうと、古びた羊皮紙の束を取り出した。


「これは、旅の記録でしょうか?」


 アルマが羊皮紙を広げ、その文字を読んでいく。


「そうだ。交易路を広げるため、今までに何度か砂漠の西に遠征隊を派遣したことがあるらしい。これはその記録だ」


 しかし、砂漠の西側は広大な湿地が広がるばかりで、複数回に渡る遠征隊の派遣でも、その湿地帯を越えることが叶わず、いつしか西への交易路拡大は諦められたらしい。


「もしかしたら、この記録を読み解けば、目的までの旅程は楽になるかもしれません」


「任せてください。私が情報を整理します」


 ライルの言葉に深く頷いたアルマが、さっそく手帳を取り出し、メモを書き込んでいく。


「それから、マーカスへの謝礼の手筈もつけてきた。あいつにはずいぶん世話になったからな」


 サラの言葉は、傍に座っているリオに向けたものだった。


「リオ、お前はここで待つか。この先は、今までよりずっと危うい」


「いえ! 俺も最後まで一緒に行かせてください。皆さんと旅をして、俺は自分の力の使い方を、少しずつ分かってきた気がするんです」


「そうか。お前も段々良い面構えになってきたな」


 サラにそう言われると、リオは少し恥ずかしそうに、それでも胸を張って大きく頷いた。


「そうですね。リオ、今では君の力は僕たちの旅には欠かせない」


 最初は同行に反対していたクレイも、今ではリオの努力を認めている。


「準備が整い次第、出発しましょう」



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