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「星廻りの民が遺した力……それが、僕たちが持つ刻印の源流だったのですね」
窓のない石造りの小部屋の書棚には、革表紙の古びた書物が並んでいた。
手にした松明の灯りが、そのうちの一冊、台座に開かれた書の頁を鈍く照らし出している。
各地の遺構を巡り、断片を継ぎ合わせて理解してきたことが、この歴史書の記述とひとつに繋がった。
星の力がなぜ人々の暮らしを支えていたのか、刻印が何のために伝えられたのか。
「つまり、あたしたちはこの星詠みとやらの末裔ということか。だが、あたしの一族の中でも刻印を持つ者は多くない。父には刻印があるが、兄様は刻印を持っていない」
サラの一族は大昔から砂漠の守護者として、掟と神殿を守ってきた。遡れば、星詠みという当時の支配層の末裔であったということだ。
しかし、末裔の証ともいうべき刻印の力を持つ者は、一族の中でも限られていた。
「星詠みたちは各地に広がり、血を継いでいったとあります。世代を重ねるうちに、刻印の力も薄まり、あるいは、その発現もまばらになっていったのでしょうね」
アルマの言葉を聞きながら、クレイはしばらく黙っていた。
「……実は僕は、自分の出自をよく知らないのです。幼い頃に両親を事故で亡くし、それからは遠い親戚の家に引き取られて育ちました」
その告白に、アルマが小さく息をのんだ。
「そうだったのですか。……私も、同じです。私はソルステンの教会の前に捨てられていたそうで、同じ境遇の兄弟たちと一緒に育ちました。後になって、読解術の刻印があると分かり、司書の仕事に就けました」
二人のやり取りに、それまで黙っていたリオが口を開いた。
「俺と一緒です。俺は物心ついた時には、街の隅で一人でした」
そう言って俯くリオの髪の毛を、サラがくしゃくしゃとかき混ぜると、リオは顔を上げて微笑んだ。
「でも、俺は皆さんと旅をしていて、なんだか温かい気持ちになるんです」
サラは、かつて夜のソルミア河でリオの出自を聞いていた。
マーカスに恩返しするため、自分の刻印の力が役に立つのか悩んでいた彼は、この旅の中で、確かに逞しくなっていた。
「そういえば、僕とアルマさんはもう随分と一緒に旅をしているのに、こういう話をしたのは初めてでしたね」
「そうですね……。この度は驚くことがたくさんあります」
アルマは今読み終えた歴史書に手を当てた。
「私はずっと図書館で司書をしていくと思っていました。……まさか、こんな、誰も知らないような歴史を知る立場になるなんて」
「この旅の果てには、僕たちのことがもう少し分かるかもしれません」
「はい。ここではたくさんのことを知ることができましたが、まだ分からないこともあります」
そのとき、荷袋に納めていた『歴史を記す板』が、淡い光を放ちはじめた。
クレイが板を取り出してみると、これまで六つの文字を刻んできた石板の余白に、新たな文字が浮かび上がってきた。
「星の源、大地の恵み、豊穣の光、水脈の器、連なる声、天穹の守り……そして、『叡智の蔵』」
各地の施設が水を治め、天候を鎮め、実りをもたらしていたのに対し、この地――ソルステンは、あらゆる知識を集め、それを各地へと送り出す役割を担っていた。
今も図書館都市と呼ばれるこの街の成り立ちも、この秘密の書庫も、その名残にほかならなかった。
「これで、七つ目です。かつてイルメイアで示された、訪れるべき場所……読み取れなかった二箇所のうちの一つが、これで埋まりました」
「ここにはまだ他にも多くの書物があります。残りのひとつは、これらを解読しないといけないのでしょうか」
アルマが書棚に並ぶ書物へ目をやった。
残る場所は、あと一つあるはずだったが、その在り処は、今読み終えた歴史書には記されていなかった。
「先生、あれを見てください!」
ライルの指差す先、書庫の最も奥まった一角には、石造りの祭壇が据えられている。
その祭壇の上に『歴史を記す板』が放つものと同じような光が立ち上っていた。
クレイがその前に立ち、腕輪に込められた管理者の力を呼び起こすと、祭壇の上の空間に、淡い光の像が浮かび上がった。
「これは、地図でしょうか。光の点が浮かんでいます」
アルマのいう通り、それはこの大陸の地図のように見えた。
さらに、浮かび上がった大地の上に、光を帯びた点が散っている。
「現在の地図とは細部が異なりますね。ライル、君なら何か分かりますか?」
「ええ、間違いない。——この光は、俺たちが辿ってきた遺構の場所です」
星の源、大地の恵み、豊穣の光、水脈の器、連なる声、天穹の守り、そして叡智の蔵。
これまで巡ってきた七つの地を示す光。
「見てください。この光はまだ訪れていない場所です」
そして、光には八つ目があった。
光が示すのは、大地の恵み、つまりサルマン砂漠の神殿より遥かに西の位置。
「サルマン砂漠を、さらに越えた先か。ここは大きな湿地が広がっているあたりだ」
「先生、これで……」
八つ目の光を見つめていたクレイは、四人の顔を振り返った。
「ついに、最後の一箇所が示されました」




