『彗星の女神と第一王朝の興亡』
・彗星に座する女神と、星詠みの民について
遥か昔、この地に住む者たちが空を見上げ、星々をただ夜の灯りとしてのみ眺めていた頃のことである。
天の彼方より、ひとつの民が降り立った。
それは『星廻りの民』と呼ばれる、人の姿をした者たちであった。
彼らはこの地の者ではなく、遠い別の星を故郷とし、夜空を渡る術を持って、星から星へと旅を続ける種族であったという。
星廻りの民は、しばしこの地に留まり、星より引き出した力をもって暮らした。やがて旅の途上にあった彼らは、再びこの地を発つ時を迎える。
だが、その中のただ一人だけが、この地に残ることを選んだ。
その者は、地に生きる人々と言葉を交わすうちに、彼らを憐れみ、共に生きることを心に決めた。
後の世の人々は、この一人を『彗星に座する女神』と呼んだ。
そして、特に女神を信じ、付き従った者たちは、その教えを受け継ぐ者として『星詠み』と呼ばれるようになる。
女神はその星詠みたちに、『星跡の刻印』と呼ばれる秘術を伝えた。
星跡の刻印とは、女神が持つ、星の力を引き出す力を分け与えるものであった。
そうして刻印を授かった星詠みたちは、人々を導く指導者となり、各地へと広がっていった。
星詠みたちは刻印の力を利用し、人々の暮らしのために役立てる仕組みを、この地のあちこちに築き上げた。
水を治め、天候を鎮め、土地に実りをもたらし、遠く離れた地に声を届ける。
彗星に座する女神と、その力を星跡の刻印として分け与えられた星詠みたち、この者たちが各地を治めた時代を『第一王朝』と呼ぶ。
***
・女神の喪失と、第一王朝の滅亡について
星詠みたちは、それぞれの地で人々と血を交わし、子を生し、その血を後の世へと残していった。
その身に宿る刻印の力は、女神の――すなわち星廻りの民の力の、ほんの一部を譲り受けたものである。
だがそれでも、それは当初、今では考えられぬほど強大なものであったという。
星詠みの血が地の人々の血と混じり合い、世代を重ねることで、その力は少しずつ薄れていった。
当代において、この刻印を継ぐ者があるとすれば、それは紛れもなく、彼ら星詠みの血を引く者にほかならない。
永劫に続くかと思われた、豊かで平和な時代にも、翳りが見え始める。
すべてを統べる女神もまた、不滅の身ではなかった。
地に縛られたその存在は徐々に衰え、長い年月の果てに、ついにその寿命を終えたのだ。
女神なき後、残された星詠みたちは、その力と教えを守り伝えようとしたが、女神から直接力を授かった最初の世代の者たちにも、一人また一人と寿命が訪れる。
強き力を持つ者が世を去るたびに、第一王朝には少しずつ陰りが差していった。
力の継承をめぐり、後継を争う声が高まっていき、その争いが刃を交えるものへと変わるまで、そう時間はかからなかった。
星の恵みのために用いられてきた力は、いつしか戦のための力へと転じ、ついには、星の力を軍勢に転用し、ついに大陸を一つに統べる者が現れた。
だが、人の手に余る力は、いつまでも御しきれるものではない。
過ぎたる力はやがて制御を失い、暴走を始めた。
星の恵みであったはずのものは、大地を引き裂き、空を焼き、この時代に栄えた文明そのものを、跡形もなく呑み込んでいった。
わずかに生き延びた者たちは、すべてを失った地で、再び一から歩み始めるよりほかなかった。
そこから、今の歴史に直接つながる『第二王朝』の歴史が表に現れるまで、長く深い空白の時代が横たわっている——。




