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「ヴァルデン山脈の遺構に、大規模な調査隊の姿があった」
「なぜ、再び調査隊が」
クレイはサラのその言葉に首を傾げる。
「ヴェルナー博士が動いているのは間違いないと思います。何人か見覚えのある顔がありました」
ライルは以前の騒動で見かけた顔が、今回の調査隊の中にもいることを確認していた。
「遺構の周辺は完全に封鎖されていたが、内部で何か大がかりなことをやっている気配はあった」
「博士自身が来ている可能性もあります」
クレイが答えようとした、その時、足元から突き上げるような衝撃が走った。
監視所の壁面から砂埃が落ち、天井の梁が軋む。リオが咄嗟に火を押さえ、ライルが入り口に駆け寄った。揺れは数秒で収まったが、その直後、北の方角から低い轟音が響いてきた。
「きゃ!」
アルマが小さな悲鳴を上げ、隣にいたサラの腰にしがみつく。
外に出てヴァルデン山脈の方角に目を向けると、氷河の一部が崩れ落ちるのが見えた。白い粉塵が夕闇に舞い上がり、山腹を覆っていく。
「あの辺りは……遺構のすぐ近くです」
ライルが目を細めた。
再び揺れが来た。先ほどより小さいが、断続的に続いている。まるで、地下深くで何かが脈動しているかのようだ。
「遺構で何かをしようとしているのでしょうか」
「先生、この揺れは自然のものとは思えません。こんな間隔で繰り返す揺れは経験がない」
「——遺構では大がかりな作業が行われていて、ヴェルナー博士が絡んでいる可能性がある……」
「もしかして、博士が星の力に手を出そうとしているのでしょうか」
「あの遺構は星の力の中枢のはずだ。あたしたちは、あの力がどういうものか知っている」
「はい。もしそうだとするなら、僕たちは博士を止めなければなりません」
クレイの声には迷いがなかった。
「それに」
サラは腰の曲剣を確かめるように鞘を鳴らす。
「あたしたちの次の目的地がソルステンなら、遅かれ早かれヴェルナーたちとは決着をつける必要があるだろう」
「この揺れが続いていれば、現場は混乱しているかもしれない。先生、今がチャンスかもしれません」
「そうですね、ライル」
クレイは遺構を指差した。
「猶予はありません、行きましょう」
*
遺構に近づくにつれ、揺れは強まっていった。
足元の雪が不規則に震え、時折、氷河の奥から鈍い音が響き、山全体が不穏な気配を孕んでいる。
「足元に気をつけて。お互いの位置を常に意識して進みましょう。リオ、何か異変を感じたらすぐに教えてくれ」
ライルの先導で、クレイたちは険しい山道を順調に進んでいた。
「は、はい。でも、俺は地震の経験があまりなくて……」
リオは何度も揺れる足元に、不安げに視線を落とす。
「大丈夫、慎重に進みましょう」
イルメイアの調査の後も、リオはクレイたちとともに旅を続けていた。
マーカスにはすべてを話してはいなかったが、それでも彼はリオを同行させることを許可してくれた。
「リオ、君は多くの経験をする必要があります」
マーカスはそう言ってリオを送り出した。
「見えてきました」
しばらく進んだところで、ライルが身を屈め、前方をさし示した。
遺構の手前にいくつもの天幕が張られていたが、その半数近くが倒壊している。資材が散乱し、人影が慌ただしく動いているのが見えた。
「やはりかなり混乱しているようです」
断続する揺れの合間を縫い、クレイたち五人は調査隊の目を避けて遺構の入り口に向かった。
かつてアルマが封印を解いて開いた扉は、今は大きく開け放たれたままだった。
「入り口付近には人影は見当たりません」
様子を窺いに行っていたライルが戻り、入り口付近の様子を伝えた。
「この先何があるか分かりません。慎重に進みましょう」
ライルを先頭にクレイ、アルマ、リオ、最後尾にサラが続く。
「これは……」
遺構の内部に足を踏み入れた瞬間、空気が変わった。
壁面の文様が異常な色で明滅していた。かつてこの参道を歩いた時、文様は青白い穏やかな光で三人を導くように輝いていた。
今はそこに赤みが混じり、脈動するように不規則な点滅を繰り返している。まるで遺構全体が熱に浮かされているようだった。
「文様の反応が、前に来た時とはまるで違います」
アルマが壁面に目を凝らした。その左手の刻印が、呼応するように微かに明滅している。
さらに参道を進むと、天井から細かな石片が降り、足元にも亀裂が走っていた。
「かなり危険ですね。建物自体が、内部から崩れ始めているように見えます」
「ここまで来て人影がないのも不気味だな。全員避難したのか」
壁面に設けられていた燭台が傾き、床には調査隊が持ち込んだと思われる道具類が散乱している。
「この階段を下れば広間だったはずです」
そこは、アルマが初めて過去の記憶を見た広間だった。
「……行きましょう」




