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ヴァルデン山脈の麓に点在する、第二王朝期の監視所跡。その一つに、見覚えのある石組みがあった。
苔むした壁面、崩れかけた梁。ここは、かつてクレイたちが南方へ向かう途中、魔像と戦い、腕輪を見つけた場所だった。
あれからずいぶんと時が流れたように思える。
サラが壁に背を預け、リオが火を熾し、入り口付近に腰を下ろしているライルは、外の気配に耳を澄ませていた。
肩の傷はすっかり塞がっているが、時折無意識に右肩を庇う仕草が残っている。
イルメイアの回廊を出てから、およそひと月。
回廊の転移装置を修復したクレイたちは、イルメイアの管理システムから読み取れた四箇所の遺構を巡っていた。
ティナーリアの塔、ヴェスタ湖の遺跡、カイラ岬の灯台、ノルヴェインの金字塔。
そして、それぞれの遺構で歴史を理解するたびに、石板に新たな文字が浮かび上がっていった。
その後、直近のひと月ほどは、二手に分かれて行動していた。
クレイとアルマは文献の整理と管理システムからの情報読み取りを、サラ、ライル、リオの三人は、ヴァルデン山脈周辺の偵察を行った。
常に居場所を固定せず、第二王朝期の砦や監視所跡を転々としていたが、その成果を持ち寄るために、この日、五人は久しぶりに合流していた。
クレイが広げた手帳には、このひと月で得た情報が、びっしりと書き込まれている。
「石板は、六箇所すべて埋まりました」
アルマが布に包んだ石板を取り出し、卓上に置いた。
淡い光を帯びた六つの文字が、薄暗い室内にかすかな輝きを落としていた。
星の源、大地の恵み、豊穣の光、水脈の器、連なる声、天穹の守り。
「豊穣の光、ティナーリアの塔。あの対になった二つの塔は、地上では星の力が周囲を照らし、地下では大地にエネルギーを送り込んでいました」
「ヴェスタ湖は印象的でしたね」
アルマは西方の地に広がる巨大な湖を思い出した。
「水脈の器ですね。あの施設は周囲から流れ込む水を制御して、周辺の河川や地下水脈に安定して送り出していたようです」
「力が途絶えて制御を失った結果、水が盆地に溜まり、今の湖になったというのは、サルマン砂漠とは逆だな」
「連なる声と呼ばれる、カイラ岬の灯台は、遠隔地同士で信号をやり取りするための施設」
「今は灯台としての役割をしていますが、まさか遠く離れた地に声を届けられるとは驚きでした」
「最後が天穹の守り、ノルヴェイン連峰にあった金字塔です」
「あの場所は転送装置がなければ到達できなかったかもしれません」
ノルヴェイン連峰は、山岳ガイドとして数多くの場所を踏破してきたライルをもってしても、経験したことのない環境だった。
「あの金字塔は周囲の天候を調整して、穏やかな気候を保つ施設でした」
そして、六箇所の遺構すべてを見渡して、浮かび上がってくるものがあった。
「星のエネルギーは人々の生活を支え、豊かにするための仕組みでした。初代皇帝はそれを軍事に転用し、大陸を統一しましたが、それはこの力の本来の使い方ではありません」
「私たちは星のエネルギーについて、過去の歴史について、正しい理解を得たと思います」
アルマは石板の文字を見つめる。
歴史の理解は達成されたはずだが、次の道しるべは示されない。
「イルメイアで読み取れなかった二箇所が、まだ残っているということなのだと思います」
「実は、残りの場所については、私にひとつ心当たりがあります」
「アルマ、それはどこだ?」
「——ソルステンです」
アルマの答えに、質問したサラは、以前訪れたソルステンの街に、印象的な建物があったことを思い出した。
「ソルステンというと、あの図書館の光か」
王立図書館の尖塔から漏れる光。
各地の遺構を巡ったクレイたちには、あの光が、遺構のエネルギーと同じものだとわかる。
カイラ岬の灯台が、かつての通信施設から単なる航路標識へと意味を変えたように、ソルステンの図書館もまた、本来の役割を忘れ去られた施設なのかもしれない。
「ソルステンの図書館は長い歴史を持っていて、地下にある閉架図書エリアには、誰も立ち入ったことのない場所もあったはずです」
「ただ、ソルステンはヴェルナー博士の縄張りだ。博士を何とかしない限り、図書館にはまともに近づけないだろう」
「まず博士への対処が先決ですね」
クレイが全員の顔を見回した。
「そのことについて、あたしたちからも報告がある。もしかしたら、この問題に先手を打てるかもしれない」




