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クレイは腕輪を左手にはめ直し、祭壇の石の前に立った。
「なにか手順があるのかもしれませんが、とにかく試してみましょう」
アルマが立ち上がろうとするのを、クレイは手で制した。
「今度は僕だけで。アルマさんは休んでいてください」
「でも……」
「腕輪が管理者の装置なら、僕一人でも何か分かるかもしれません」
クレイがゆっくりと左手を石に近づけると、腕輪が淡い光を帯び、石の表面に青白い光の筋が走っていく。
クレイの意識に、断片的な情報が流れ込んでくる。それは言葉でも映像でもなく、もっと直接的な何かだった。
刻印を通じて遺物の年代を感じ取る時と似ているが、それよりもはるかに膨大な量の情報が、一度に押し寄せてくる。
クレイは目を閉じ、流れ込んでくるものを受け止めようとした。
かつてこのネットワークを管理していた者たちの記録。各地に点在する施設と、それぞれが担っていた役割。
ヴァルデン山脈の遺跡、サルマン砂漠の神殿、ティナーリアの塔——。今まで巡ってきた場所、それらに続いて、いまだ知らない場所が見えてくる。
広大な盆地、海岸沿いの岬、険しい山脈——それぞれの役割も、直接的な感覚として流れ込んできた。
さらに二つの場所が見えかけたが、記録は深く損傷しており、何も読み取れない。
情報はそこで途切れてしまった。
「……色々なことが分かりました」
クレイは手帳を取り出し、記憶が薄れないうちに書き留めていく。
「この施設のこと、管理者としての権限のこと。それから僕たちが訪れるべき場所のことも」
「クレイさん、大丈夫ですか? 記憶を見たあとは頭が混乱します」
アルマが駆け寄り、心配そうにクレイの顔を覗き込む。
「情報が一気に流れ込んでくるので、処理が追いつかないのでしょうね」
「クレイが見たことは気になるが、あたしたちに必要なのは、まず休むことだ。次のことはそれから考えるべきだな」
ここまで激しい戦闘を繰り返してきたサラは、体のあちこちに傷を作っている。
呪文を複数使い、この部屋で記憶を読み取ったアルマの顔にも、疲労が隠せていない。
さらに、慣れない戦いを切り抜けてきたリオ、そのリオの傷の手当をしているライルは、そもそも万全ではない。
「俺が来た時、入り口付近に狼型の魔像が徘徊していました」
「そうだったな。ここから出るにはあいつらを何とかする必要がある」
「ええ。俺一人なら、入ってきた時と同じように、やつらの目を盗んで通ることもできますが……」
「もう少し休めば、また呪文が使えるようになるかもしれません」
「そのことですが、あの狼たちは管理者は襲わないようになっているようです」
サラから受け取った革袋から水を飲み、一息ついたクレイは、先ほど得た管理者の力について話した。
「ならば、まずはここから出て、安全な場所で体制を整えよう」
「ただ、ここにはまた戻ってくる必要がありそうです」
出発の準備をしていたサラたちは、クレイの言葉に手を止めた。
「まだここですべきことが残っているのですか?」
「……訪れるべき場所の他に、もう一つ、見えたものがあります」
この施設には、管理者のみが扱える、もう一つの重要な機能が秘められていた。
「まだ何か重要なことがあるのか?」
「この施設には、転移の機能があるようです。——管理者が各地の施設へ直接移動するための仕組みです」
「転移の機能だと?」
「確か、エルンストさんが話していましたね」
アルマはエルンストが語っていた、第二王朝の時代には、遠く離れた場所に、短時間で移動する方法があったという歴史を思い出した。
「今も動くのかどうか、実際に試してみないことには分かりませんが」
「いったいどこに行けるんだ?」
「すでに僕たちが訪れたことがある遺構、それらと同じく、当時重要な役割を果たしていた他の遺構にも行くことができそうです」
「もしそれが可能なら、ヴェルナー博士やエルンストさんたちよりも先に……」
クレイは祭壇の石をもう一度見た。転移の機能が本当に使えるなら、この先の動きは大きく変わる。
「はい、これは好機です」




