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刻印の考古学者 〜冴えない能力の使い方〜  作者: 音鳴 凪
イルメイアの回廊

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 扉の向こうから踏み込んできたのは、この場にいないはずのライルだった。

 覆面の男は慌てて剣を構え直そうとするが、ライルの剣が正確に男の手元を打ち据えた。


「……ッ!」


 男が剣を取り落としてよろめき、その隙にライルが男を組み伏せる。


 クレイもリオが投げた足元の剣を拾い上げ、残る一人に切りかかっていく。

 だが、相手も即座に応戦し、鋭い打ち合いが数度続く。黒装束の強烈な打ち上げに、クレイの剣が大きく弾き飛ばされた。


 好機と見た相手が大きく踏み込もうとしたその時、横から鋭い一撃が割り込み、その手首を斬り落とした。

 あっという間に自分の敵を無力化し、クレイの元に駆けつけたサラだった。


 サラが袈裟懸けに剣を振り下ろすと、相手は悲鳴を上げる間もなく崩れ落ちた。


「助かりました、サラさん」


 クレイはリオとアルマの無事も確認し、そして視線を入り口に向けた。


「ライル!」


「すみません、先生、遅くなりました」


 覆面の男を後ろ手に縛り上げているその姿は、間違いなくライルだった。


「ライル、どうしてここに」


「足手まといになってはと思いましたが……どうしても嫌な予感が拭えず、先生たちの痕跡を追ってきました」


「動いて大丈夫なのですか?」


 ライルの姿を見て、アルマも駆け寄る。


「ええ、ご心配なく」


 ライルはクレイたちの後ろに立つリオに視線を向けた。

 覆面の男に蹴り上げられ、口の端から血を流し、投石紐を握りしめた手はボロボロになっている。


「リオ、俺が見込んだだけのことはある。——先生たちを守ってくれてありがとう」


 その言葉を聞いたリオは、一瞬顔を歪めたが、袖で口元の血を拭い、力強く頷いた。



「まずはこいつから話を聞きましょう」


 縄で両手を縛られた男の首筋には、ライルが剣先を当てていた。


「どうやって後をつけてきた」


 サラが男の正面にしゃがみ込む。

 男は何も答えず、布で半分覆われた顔の、その目だけがサラを見据えていた。


「今まで何度も先回りされてきたが……お前の刻印の能力か」


「……何の話だ」


「追跡の能力。位置を把握するのか、それとも行動を予測するのか」


 男は答えなかった。


「情報が筒抜けということはなさそうだが、例えばあたしたちの能力について全部知っているのか?」


「……こちらがペラペラと話すと思うか」


 ライルが首筋に当てた剣先に力をこめるが、男は動じない。


「どちらにせよ、お前が死ねばその能力も消える。仲間たちは困るだろうな」


 男の目がわずかに動いた。


「砂漠の守護者が、卑怯者に慈悲をかけることはない。お前はここまでだ」


 サラはそう冷たく言い放つと、立ち上がって曲剣を構えた。


「それに、お前は勘違いしている」


「…………」


「あたしの嘘を見抜く能力が反応するのは、言葉だけではない。息づかいや表情、仕草、それらすべてから嘘の気配を感じるんだ」


「何を言っている……」


「お前からは、すでに十分な情報が得られた。お前に追跡するための能力があることは分かった」


「馬鹿な! 俺にはそんな能力などない!」


 サラの右目の下の刻印が淡い輝きを発する。


「なるほど、今度こそよくわかったぞ。やはりお前が追跡者か」


「……貴様!」


 嵌められたことを悟った男が怒りに身じろぎするが、ライルが肩を押さえつける。


「お前たちはこの場所の意味を知っているのか」


 男は黙ったままだったが、次の瞬間、その喉が大きく動いた。


「待て!」


 ライルが手を伸ばしたが、間に合わなかった。

 男は低く咳き込み、そのまま体が傾いていく。


 ライルが男の体を横たえ、口元を確認した。


「……毒を飲んだようです」


「そこまでするとは」


 サラが舌打ちをする。


 クレイはしゃがみ込み、男の顔に巻かれた布を外した。


「見覚えのない顔ですね」


「見てください。刻印があります」


 アルマが男の顎を指差す。

 そこには確かに、刻印の能力者であることを示すアザがあった。


「確かなことは言えません。ただ……これで、追跡は断ち切れたかもしれません」



「アルマさん、話せそうですか」


「……はい」


 アルマは祭壇の立方体に軽く手をかざす。


「この施設は、私たちが思っていたような、歴史を理解するための場所とは違いました。ここは各地に点在する施設の状況を記録し、管理するための場所だったようです」


「管理、とは?」


「それぞれの施設が今どのような状態にあるか。何が起きているか。それを把握するための場所です」


 アルマは言葉を選ぶように、ゆっくりと続けた。


「クレイさんの腕輪は、管理者と呼ばれる人たちが身につけていました。あの石に触れたとき腕輪が反応したのも、そういうことではないかと」


 全員の視線が、クレイの腕輪に集まる。


「管理者であることを示す腕輪。あるいは、管理者としての能力を行使するための装置——」


「はい、詳しい使い方までは見えませんでしたが」


「もう少し調べましょう。もしかしたら、重要な情報が得られるかもしれません」


クレイは祭壇の上の石に目を向けた。


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