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扉の向こうから踏み込んできたのは、この場にいないはずのライルだった。
覆面の男は慌てて剣を構え直そうとするが、ライルの剣が正確に男の手元を打ち据えた。
「……ッ!」
男が剣を取り落としてよろめき、その隙にライルが男を組み伏せる。
クレイもリオが投げた足元の剣を拾い上げ、残る一人に切りかかっていく。
だが、相手も即座に応戦し、鋭い打ち合いが数度続く。黒装束の強烈な打ち上げに、クレイの剣が大きく弾き飛ばされた。
好機と見た相手が大きく踏み込もうとしたその時、横から鋭い一撃が割り込み、その手首を斬り落とした。
あっという間に自分の敵を無力化し、クレイの元に駆けつけたサラだった。
サラが袈裟懸けに剣を振り下ろすと、相手は悲鳴を上げる間もなく崩れ落ちた。
「助かりました、サラさん」
クレイはリオとアルマの無事も確認し、そして視線を入り口に向けた。
「ライル!」
「すみません、先生、遅くなりました」
覆面の男を後ろ手に縛り上げているその姿は、間違いなくライルだった。
「ライル、どうしてここに」
「足手まといになってはと思いましたが……どうしても嫌な予感が拭えず、先生たちの痕跡を追ってきました」
「動いて大丈夫なのですか?」
ライルの姿を見て、アルマも駆け寄る。
「ええ、ご心配なく」
ライルはクレイたちの後ろに立つリオに視線を向けた。
覆面の男に蹴り上げられ、口の端から血を流し、投石紐を握りしめた手はボロボロになっている。
「リオ、俺が見込んだだけのことはある。——先生たちを守ってくれてありがとう」
その言葉を聞いたリオは、一瞬顔を歪めたが、袖で口元の血を拭い、力強く頷いた。
*
「まずはこいつから話を聞きましょう」
縄で両手を縛られた男の首筋には、ライルが剣先を当てていた。
「どうやって後をつけてきた」
サラが男の正面にしゃがみ込む。
男は何も答えず、布で半分覆われた顔の、その目だけがサラを見据えていた。
「今まで何度も先回りされてきたが……お前の刻印の能力か」
「……何の話だ」
「追跡の能力。位置を把握するのか、それとも行動を予測するのか」
男は答えなかった。
「情報が筒抜けということはなさそうだが、例えばあたしたちの能力について全部知っているのか?」
「……こちらがペラペラと話すと思うか」
ライルが首筋に当てた剣先に力をこめるが、男は動じない。
「どちらにせよ、お前が死ねばその能力も消える。仲間たちは困るだろうな」
男の目がわずかに動いた。
「砂漠の守護者が、卑怯者に慈悲をかけることはない。お前はここまでだ」
サラはそう冷たく言い放つと、立ち上がって曲剣を構えた。
「それに、お前は勘違いしている」
「…………」
「あたしの嘘を見抜く能力が反応するのは、言葉だけではない。息づかいや表情、仕草、それらすべてから嘘の気配を感じるんだ」
「何を言っている……」
「お前からは、すでに十分な情報が得られた。お前に追跡するための能力があることは分かった」
「馬鹿な! 俺にはそんな能力などない!」
サラの右目の下の刻印が淡い輝きを発する。
「なるほど、今度こそよくわかったぞ。やはりお前が追跡者か」
「……貴様!」
嵌められたことを悟った男が怒りに身じろぎするが、ライルが肩を押さえつける。
「お前たちはこの場所の意味を知っているのか」
男は黙ったままだったが、次の瞬間、その喉が大きく動いた。
「待て!」
ライルが手を伸ばしたが、間に合わなかった。
男は低く咳き込み、そのまま体が傾いていく。
ライルが男の体を横たえ、口元を確認した。
「……毒を飲んだようです」
「そこまでするとは」
サラが舌打ちをする。
クレイはしゃがみ込み、男の顔に巻かれた布を外した。
「見覚えのない顔ですね」
「見てください。刻印があります」
アルマが男の顎を指差す。
そこには確かに、刻印の能力者であることを示すアザがあった。
「確かなことは言えません。ただ……これで、追跡は断ち切れたかもしれません」
*
「アルマさん、話せそうですか」
「……はい」
アルマは祭壇の立方体に軽く手をかざす。
「この施設は、私たちが思っていたような、歴史を理解するための場所とは違いました。ここは各地に点在する施設の状況を記録し、管理するための場所だったようです」
「管理、とは?」
「それぞれの施設が今どのような状態にあるか。何が起きているか。それを把握するための場所です」
アルマは言葉を選ぶように、ゆっくりと続けた。
「クレイさんの腕輪は、管理者と呼ばれる人たちが身につけていました。あの石に触れたとき腕輪が反応したのも、そういうことではないかと」
全員の視線が、クレイの腕輪に集まる。
「管理者であることを示す腕輪。あるいは、管理者としての能力を行使するための装置——」
「はい、詳しい使い方までは見えませんでしたが」
「もう少し調べましょう。もしかしたら、重要な情報が得られるかもしれません」
クレイは祭壇の上の石に目を向けた。




