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「ご苦労だったな」
クレイとサラが声の方を同時に振り返った。
開いたままの扉の前に、黒い装束に身を包んだ男が立っている。顔の半分を布で覆い、こちらを見据えている目だけが松明の灯りに光っていた。
そして、その右手に握られた短剣は、リオの喉元に押し当てられていた。男の背後には、さらに二人の黒装束が剣を抜いている。
「いつから……」
「お前たちが狼どもを片付けてくれたおかげで、楽に通れたぞ」
男は薄く笑いながら、部屋の中を見渡した。その視線が祭壇の上の石に留まり、わずかに目を細める。
「あいつらは剣も弓も通らず、誰も手が出せなかったからな。お前たちの後をつけたのは正解だったよ」
サラの手が腰の曲剣に伸びた。
「おっと、動くな」
男が短剣をリオの喉に押し当てた。リオの首筋に刃が触れ、薄い血の線が一筋走る。
「……お前たちは何者だ」
「下手な時間稼ぎはやめろ。そう問われて答えるわけがなかろう」
男は余裕のある声で答えた。しかし、その目は油断なくクレイとサラの動きを見ている。
その時、アルマが深い息を吐いた。
その体が大きく傾ぎ、祭壇に両手をついてかろうじて支えている。目には光が戻っていたが、まだ焦点が定まらず、周囲の異変には気づいていない。
「……クレイさん……私、見ました……」
顔を上げ、クレイの方を向こうとして、ようやく部屋の中の異変に気づいた。
目が大きく見開かれ、体が強張る。
「ここで何を見たか、そいつには、あとでゆっくり話を聞かせてもらおう」
男の声は穏やかだったが、短剣はリオの喉元から離れていない。
「この小僧の命が惜しければ、武器を捨てろ」
サラの瞳には殺気にも近い怒りが燃えていたが、リオの首元に押し当てられた刃を見て、その怒りを呑み込んだ。
クレイが剣を床に置き、サラも曲剣を鞘ごと外し、足元に落とした。
男は満足そうに頷くと、手下と思われる黒装束二人に目で合図を送る。
「……お、俺に構わず、こいつらを!」
その時、リオが突然そう声を上げると、喉元に突きつけられた短剣に自ら首を押し付けた。
「こいつ、なにを……」
その予想外の行動に、男は短剣を持つ手を緩めてしまう。
リオはその隙に素早くしゃがみ込み、男の股下をくぐり抜けて部屋の出口へ駆け寄った。
サラとクレイが素早く反応し、剣を拾いに動こうとする。
しかし、素早く反応した黒装束の一人が、後ろからリオに飛びかかり、そのまま床に組み伏せた。
「この小僧、ふざけやがって!」
隙をつかれた男が、怒声をあげてリオの顔を蹴り上げた。
「よせ! もう武器は捨てている!」
「すみません、しくじりました……」
クレイとサラの呼びかけにリオは気丈に答えた。
「リオ、もう抵抗するな!」
サラが怒りに燃える瞳を男たちに向ける。
「貴様ら、それ以上あたしの仲間を傷つけることは許さん!」
「……大人しく言うことを聞けば済む話だ」
男はリオを立ち上がらせると、その首筋に再び刃を当てた。
「サラさん、それにクレイさん。……すみません、もう諦めましょう……」
口の端から血を流したリオの声は弱々しい。しかし、その時、サラの刻印が薄く光ったのを、クレイは見逃さなかった。
「お前がそんなことを言うとはな、リオ」
「せめて俺じゃなくライルさんがいてくれたら……この場にいるはずもない人を頼るなんて、情けない……」
リオのその言葉に、再びサラの刻印が光る。
「……分かった、降参しよう。クレイ、アルマを立たせてやってくれ」
サラはクレイに目配せすると、自分は両手を頭の後ろに組んで無抵抗を示した。
「最初から言うことを聞いておけばいいんだ」
男に指示された黒装束の二人が、クレイたちの武器を拾いに前に出る。
「ぐああ!」
次の瞬間、リオを捕らえていた男の肩口から、鮮血が噴き上がった。男は悲鳴をあげ、よろめきながら振り返る。
そこには、男を切りつけた人影が、短剣を手にして立っていた。
リオはすばやく転がって体を起こすと、動揺している黒装束の横を走り抜け、床に転がっていたクレイの剣を拾い、足元に滑らせる。
サラはこの事態を予測していたかのように、すでに動き出していた。
武器を拾おうと屈んでいた黒装束に近づくと、男の腕を掴んで引き寄せ、その顔面に膝を叩き込んだ。
「先生! こっちは俺が!」
扉の向こうから踏み込んできたのは、この場にいないはずのライルだった。




