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「怪我はないか」
アルマは壁に手をついて息を整えていたが、サラの問いかけに小さく頷いた。
「リオ、ありがとう。君の咄嗟の判断がなかったら、アルマさんが危なかった」
「リオさん、ありがとうございます」
クレイとアルマの言葉に、リオは少し驚いた顔をしたが、すぐに表情を引き締めた。
その手には投石紐が力強く握りしめられている。
「それにしても相当な腕前だ。誰かに教わったのか?」
「いえ、自分で……。俺は力が強くないし、でも、身を守る術は必要だったから、自分で考えて、たくさん練習しました」
「君のその暗闇を見通す目、そして投石紐の技術はとても心強い。この後も頼りにしています」
リオはもう一度力強く頷くと、通路の奥にある扉に目を向けた。
「他には何もいないようです」
*
扉を開けると、その向こうには再び回廊が続いていた。
四人は先ほどと同じように慎重に歩を進める。曲がり角の手前ではサラとリオが慎重に奥を確認し、安全を確保していく。
いくつかの角を過ぎ、通路の内側の壁面に現れた扉は、これまでと明らかに異なっていた。
「ここは何もなさそうだな」
サラが扉の周囲を確かめ、リオも奥を確認し、何もいないことを伝える。
「ここまでの構造を考えると、この先が中央の部屋である可能性が高いと思います」
石の表面は丁寧に磨き上げられ、縁には細かな文様が刻まれていた。
クレイが手で触れると冷たく重い感触が伝わってくる。
「開くかどうか確かめましょう」
サラとクレイが両側から力を込めると、やがて扉は低い振動を伴いながら、ゆっくりと奥に開いていった。
中には正方形の部屋が広がっていた。四方の壁面は滑らかに磨かれた石で覆われ、床には継ぎ目の見えない一枚の大きな石板が敷かれている。
部屋の奥に、低い祭壇のようなものが置かれていたが、その他には何もなかった。
「すごい……」
アルマが部屋の雰囲気に圧倒されて立ち尽くし、隣ではリオが同じように目を丸くしている。
「何か仕掛けがあるかもしれません。慎重に調べましょう」
部屋には入り口の他に扉はなく、何かが潜んでいる気配もなかった。
「これは祭壇でしょうか。それに、こんなものは見たことがない……」
部屋の奥にある祭壇に近づくにつれ、その造りが見えてくる。一枚の石を削り出したような台座で、装飾はほとんどない。
そして、その中央に置かれた立方体の石に、クレイの目が引きつけられた。
歪みのない正確な立方体。一辺は人の拳二つ分ほどの大きさで、表面にはびっしりと細かな文字が刻まれている。
側面を覗き込むと、上面だけではなく、すべての面に文字が刻まれているようだ。
「この文字は……」
横から覗き込んだアルマが、息を呑んだ。
「これは、サルマンの神殿の広間で見たものと同じです」
壁面一面の文字に、過去の記憶が封じ込められていた、あの広間。
「あの時と同じことが、ここでもできるかもしれない」
クレイは懐から取り出した腕輪を左手にはめると、その手をゆっくりと石に近づけていくと、石の表面の文字が、青白い光を帯び始めた。
光は文字の一つ一つから滲み出すように広がり、祭壇を、そして部屋全体をかすかに照らしていく。
アルマの左手の刻印が応えるように輝いた。彼女は無意識のうちに石に手を伸ばし、その表面に触れる。
「流れ込んでくる……」
アルマの声はどこか遠くから聞こえるようだった。
*
石の光は少しずつ弱まり、アルマの呼吸もゆっくりと落ち着きを取り戻しつつあった。
クレイはアルマの肩を支え、ゆっくりと床に座らせる。
「大丈夫ですか、アルマさん」
「はい……」
「見えましたか?」
クレイの問いかけにアルマはゆっくりと頷いた。額には汗が浮かび、目の焦点があっていない。
「少し休みましょう。話はそのあとに」
サラが水が入った皮袋をアルマに手渡そうとした、その時だった。
「ご苦労だったな」
その声は、扉の方から聞こえた。




