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扉の向こうには再び回廊が伸びていた。
「大丈夫なようです、進みましょう」
松明に照らし出された回廊は、今までよりも幅がやや狭まり、天井も低くなっていた。
松明の灯りが届く範囲は限られ、その先は闇が壁のように立ちはだかっている。
しばらく進むと、通路の先に再び曲がり角が見えてきた。
「想定した通り、中央に向かって複数の回廊が続いているようですね」
「先ほどのこともある、慎重にいこう」
今までこうした場面ではライルが先に進み、斥候役を果たしていたが、この場にライルはいない。
サラが壁に体を寄せ、曲がり角の縁からそっと顔をのぞかせた。
「リオ、頼む」
すぐそこに危険がないことを確認してから、サラはリオを手招きする。リオがサラと場所を代わり、暗闇の奥に目を凝らした。
しばらくの間、息を止めるようにして見つめ続ける。
「……います」
リオの声がかすかに震えていた。
「狼の像が一体。しかも……さっきのより、かなり大きい……」
サラが再び角から顔をのぞかせるが、その位置からでは闇に溶けて何も見えない。
「一体だけか?」
「はい。他には何も見えません」
サラはクレイに向き直った。
「どうする。やるか?」
「ええ。先ほどの作戦通りに」
クレイはアルマに目線で合図を送ると、サラと共に曲がり角から通路に踏み込む。
松明の灯りが闇を押し広げていくと、その奥には、リオが見た狼の像が浮かび上がった。
伏せた姿勢のままでも、その頭部はクレイの胸の高さに届きそうな程で、先ほどの個体よりもはるかに大きい。
二人の気配に反応したのか、像の表面に光の筋が走ると、その巨体が持ち上がっていく。
低い唸り声が、石壁に反響して四方から押し寄せてきた。
サラとクレイ、二人が狼の気を引き、アルマの呪文が通る射線を確保する。
これが先ほど四人で話した作戦だった。
狼はまずサラに飛びかかる。先ほどの個体より踏み込みが重く、通路の壁が軋むほどの衝撃で突進してきた。
サラは横に跳んでかわし、すれ違いざまに、曲剣の鞘で脇腹を打って注意を引きつける。
続けてクレイも背後から脚を狙って剣を振るった。
二人は決して踏み込み過ぎず、どちらかに攻撃が集中しないよう、狼の注意を惹き続ける。
「下がってください!」
アルマの声に反応したサラが、一歩深く踏み込み、狼の足元に強烈な一撃を加えた。
剣は弾かれたが、狼の動きが止まった。
次の瞬間、アルマの両手から青白い雷光が走り、狼の背中を直撃する。
金属質の体表が激しく明滅すると、狼は体を震わせて四肢を硬直させ、やがてその巨体が動きを止めた。
サラとクレイは警戒を解かないまま、狼を見張り、その間にリオが通路の奥に目を向ける。
少し先の壁面に、扉の輪郭がかすかに見えた。
「扉があります」
「奥の様子はどうだ」
「大丈夫です、何もいません」
四人が扉を前にして周囲の状況を確認していた、その時、背後で石が軋む音がした。
振り返ると、倒れたはずの狼が首をもたげ、四肢が再び地面を掴み始めている。
「こいつ、まだ動くのか!」
サラが再び剣を構えるより先に、狼が大きく跳躍し、一番後方にいたアルマに襲いかかった。
「アルマさん下がって!」
クレイも再び剣を構えるが、狼の速さには追いつけない。
直後、ヒュンという鋭い風切り音が通路に響いたかと思うと、狼の頭部に鈍い音が響き、空中でわずかに体勢を崩した。
咄嗟に横に飛び退いたアルマは、間一髪で狼の攻撃をかわしていた。
さらに三度、立て続けに石が狼の頭部を打つ。
風切り音の正体はリオが右手に持つ投石紐だった。
リオはさらに次の石を番えて狙いを定めている。
狼は低い唸り声を発すると、今度は狙いをリオに変え、体勢を変えようとする。
しかし、再び体表の明滅が激しくなり、動きが緩慢になる。アルマの呪文は、狼に確実なダメージを与えていた。
「リオ、アルマさん、下がって!」
その間にクレイが駆け寄り、狼に向かって勢い良く剣を突き出す。
その剣は青白い光に包まれていた。
クレイの剣は今度こそ狼の表皮を貫き、その体奥深く突き刺さる。強い光の筋が狼の全身を走り、やがて四肢から力が抜けていく。
クレイが剣を引き抜くと、狼は轟音を立てて崩れ落ち、今度こそ動かなくなった。




