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回廊の入口は、針葉樹の森が途切れた先の岩壁に穿たれていた。
苔むした石材が組み合わされた大きな開口部が、山腹に向かって口を開けている。高さは人の背丈の三倍ほどあり、幅もそれに見合う広さだった。
入口の両脇には、風化して丸みを帯びた石の柱が立っている。かつては何らかの彫刻が施されていたのだろうが、原形をとどめてはいなかった。
事前に外周を歩いて確かめた限りでは、建造物は山腹に食い込むようにして広がっていた。
アルマは入口の石柱にかすかに残る文様の痕跡に目を凝らしていたが、読み取れるものはなさそうだった。
「外から見た形状と文献の情報を合わせると、内部は幾重かの層を持つ回廊構造になっていると思います」
クレイは入口の石材に左手を触れた。考古学の刻印がかすかに反応する。
「……中に何があるかは分からない。気を抜くなよ」
サラは無意識に腰の曲剣に手を添えた。
*
松明を灯し、入口をくぐると、通路は思いのほか広く、四人が並んで歩けるほどの幅があった。
壁面の石組みは精緻だが、所々で天井から石材が落ち、床に散乱していた。足元には砂と枯れ葉が吹き込んでおり、長い間、人の出入りがなかったことが見て取れた。
しばらく進むと、通路は広い空間に出た。
天井が一気に高くなり、壁面が左右に広がる。入口からの光がまだわずかに届いており、薄暗いながらも全体の輪郭はつかめた。
「空気の流れがある。奥にまだ相当な空間が続いていることは間違いなさそうです」
クレイは広間の中を歩きながら、壁面や床面の状態を観察していく。
広間の奥に、二つの通路が口を開けていた。左右にほぼ対称に伸びており、どちらも暗闇の中に消えている。
「この遺跡は同心円状の回廊になっているはずです。この分かれ道は、おそらく最も外周にある回廊の始まりでしょう」
「そうだとすると、どちらを進んでも同じということか」
「そうだと思います……」
ライルはどう思いますか、クレイは思わずそう口走りそうになる。
このような状況では、いつもライルの経験や意見を参考にしていた。
しかし、今回そのライルはここにいない。
「クレイさん、どうかしましたか?」
アルマの声に、クレイは我に返った。
「……すみません。……右に行きましょう」
壁面の石組みは変わらず精緻で、等間隔に腰くらいの高さの窪みが設けられていた。中にはかつて何かが置かれていたのだろうが、今はすべて空だった。
しばらく進むと、回廊は突き当たりの壁に達した。通路は左に折れ、さらにまっすぐ続いている。
さらに進むと、通路の先に何かの輪郭がぼんやりと浮かんだ。回廊の内側にあたる左の壁面に、大きな扉があるようだった。
「待ってください」
リオの声に、クレイたちは足を止めた。
リオは扉の方を見つめたまま、目を細めている。
「どうしました、リオ。何か見えますか?」
「はい、扉の手前に……何かいます。四つ足の、獣のような」
クレイが松明を掲げ、慎重に近づいた。
灯りが届くと、それは石像だった。
狼のような体躯で、前足を揃えて伏せの姿勢を取っている。表面は埃に覆われていたが、耳や脚の造形は精巧で、毛の一本一本まで丁寧に彫り込まれていた。
「石像でしょうか……」
クレイは石像の表面に目を凝らした。その材質にはどこかで見覚えがある気がする。
像に手を伸ばし、刻印の能力を使おうとしたその時、石像の表面を微かな光の筋が走った。
頭部から背中にかけて、まるで血管のように細い光が脈動する。
石像の耳がぴくりと動いた。
「下がれ!」
石の表面にひび割れが走り、中から灰色の体躯が姿を現した。
石の殻を脱ぎ捨てるように身を起こした狼は、四人に向かって低い唸り声を上げた。
その体表を覆う金属質の毛並みが、松明の灯りを鈍く反射している。
「動いた……!」
クレイが剣を抜き、サラが曲剣を構えた。




