42
いくつかの集落で補給を重ねながら北上を続け、一行はイルメイア地方の村に辿り着いた。
船着き場から村までは針葉樹の森の中を半日ほど歩く道のりで、木々の隙間から差し込む光は弱く、地面は固く凍りついていた。
ライルの足取りは日を重ねるごとにしっかりとしてきていたが、森の中の起伏のある道では、クレイがライルを支える必要があった。
村は小さいながらも宿屋と雑貨を扱う店が一軒ずつあり、石造りの家屋が通りの両側に並んでいる。
ひとまず宿屋に部屋を取ってライルを休ませると、その後、クレイとサラは村の住人に回廊のことを聞いて回った。
回廊の存在自体は村人たちによく知られていた。
それによれば、村から北東の森をさらに半日ほど歩いた先に古い石の入口があるというが、やはり、中に入った者はほとんどいないようだった。
しかし、聞き込みを続けるうちに、クレイは、遺構の中に入ったことがあるという猟師に出会った。
「奥はかなり入り組んでいる」
村の酒場で出会ったその猟師は、杯を傾けながら、面倒くさそうに話し始めた。
「追っていた鹿がそっちに逃げちまってな。夢中になっているうちに中に入っちまったんだ」
「中はどのような様子でしたか」
「とにかく気味が悪い。今にも崩れそうな場所がいくつもあってな。歩いてるうちに、自分がどこにいるか分からなくなりそうで、慌てて引き返したんだ」
「他に、中の様子をご存知の方はいないでしょうか」
「あそこには誰も近づかねえよ。悪いことは言わん、あんたもやめておけ」
*
「入口の場所はおおよそ特定できました。村から北東の森を半日ほど進んだ先にあるようです」
その夜、暖炉の火が壁に揺れる影を落とす中、クレイが調査内容をまとめていた。
「中を詳しく知っているやつは見つけられなかったな」
「ええ。ガランの塔と似た状況ですね」
クレイはライルに目を向けた。
「ライル。だいぶ回復してきていますが、やはり、今回の調査は、まず僕たちだけで向かいます」
「分かりました。今の俺では足手まといになる……」
そう答えるライルの拳は、白くなるほど握りしめられている。
「俺も一緒に行かせてください」
そう言って立ち上がったのはリオだった。
「リオ、ここから先は危険なんです。何が待っているか分からない」
「でも、暗闇の中で俺の能力は役に立つはずです。いざという時、俺の目なら、松明の灯りが届かない場所でも見えます」
リオの言うことには説得力があったが、それだけで危険な場所に連れていく判断はできず、クレイは言葉に詰まった。
「能力が役に立つとしても、それだけでは……」
「ずっと考えていたんです。サラさんが前に言ってくれたことを。大切なのは、能力の種類や強さじゃない、自分の力をどう役に立てるか考えることだって」
「しかし……」
「俺は、もっとマーカスさんの役に立てるようになりたい。そのためにも、自分の力がどこまで通じるのか知りたいんです」
「クレイ、確かに、暗闇の中で先が見える人間がいれば、助かる場面も多いと思うぞ」
迷うクレイを前に、サラが立ち上がった。リオの肩に手を置くと、再び言葉を続ける。
「ライルがいない状況で、索敵の手段は多い方がいい」
「……分かりました。ただし、危ないと感じたらすぐに引き返すこと。それが条件です」
その後、明日の準備について手短に打ち合わせを終えると、それぞれが自分の持ち物を確認し始めた。
隣に座るリオに、ライルが低い声で何かを伝えている。
リオは話を聴きながら、時折立ち上がると、足の運びを確かめるように歩いているのが見えた。




