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翌日、サラはひとりで倉庫を出た。
街の東側を大きく回り、市場の人混みに紛れてから南へ折れる。何度か足を止めて背後を確かめながら、マーカスの野営地に向かった。
「おや、サラさん。どうかしましたか」
野営地では、マーカスが荷馬車の幌を繕っていた。
サラに気付いたマーカスが、針と糸を手にしたまま近づいてくる。
「仕事中にすまんな。少し話をする時間はあるか?」
マーカスは手を止め、サラを荷馬車の陰に案内すると、作業用の椅子を差し出した。
「余計な前置きは無しだ。……あたしたちは、今夜この街を出る。そして、そのためには船が要る。できれば、夜半にも出立したい」
「ソルミア河を利用するということですね。夜の船旅は危険が伴います。それを承知でということは、何かわけがあるのですね」
その問いに、サラは頷くだけだった。
マーカスは顎に手を当てて、考え込む仕草をしていたが、しばらくして、サラに向き直った。
「船の手配は伝手があります。夜半に出せるかどうかは交渉次第ですが、不可能ではないでしょう」
「対価については可能な限り用意がある。足りない分は、後日必ず払うことを約束しよう」
そういうと、サラは腰に下げた荷物入れから革袋を取り出した。
サラやクレイたちが船代として、可能な限りかき集めたもので、中には金貨やいくつかの宝石が入っている。
マーカスは革袋を開き、中身を確かめると「十分すぎる額です」といったが、革袋をしまおうとはしなかった。
「ですが、理由をお伺いしたい。今、サラさんたちに何が起きているのか。——私は商人です。決して口外することはありません」
サラは刻印の能力を使うまでもなく、マーカスの言葉に嘘がないことを感じ取った。
「……すべてを話すことはできない。これはお前の身の安全のためでもある」
「ええ、話せる範囲で構いません。私はもうあなたたちに関わってしまっています。ゾルの実を口にしたら種までです。こうなった以上は、最後までお付き合いします」
マーカスは真剣な表情を崩し、イタズラっぽい笑みを浮かべた。
「おまえは、あたしが思っていたよりずっと器量の大きなやつなのかもしれないな」
*
「つまり、彼らの目を盗んでうまく船に乗る必要がありますね」
サラは、自分たちが、この地にガランの塔を調べるために来たこと、その中でトラブルに巻き込まれ、ライルが負傷したことを話した。
さらには、協力者だと思っていたエルンストたちに、不信感を抱いていることも。
「ライルの傷が癒えるまで、どこか安全な場所に身を移す必要がある」
「では、差し入れの名目で人を送りましょう。学者の方々であれば、酒よりも、珍しい品物の方が興味を引くかもしれません」
「良さそうな考えだが、そこまでしてもらって金が足りるか?」
「心配いりません。それに、砂漠の民の族長の娘への貸しとなれば、将来的にこれ以上の見返りがあるかもしれない」
「抜け目のないやつだ」
マーカスは立ち上がると、荷馬車から帳簿を引き出した。
「さっそく今から船の手配に当たってきます。そちらへの連絡にはリオを向かわせます」
*
日が暮れてから、クレイたちはエルンストの一行と火を囲んで食事をとっていた。
ライルの容態のことや、ガランの街の様子など、エルンストが振る話題にクレイは一つ一つ丁寧に答えていく。
自分たちのこれからの動きについても、当たり障りのない見通しを語った。
食事が終わると、アルマはライルの包帯を替えながら、その陰で荷物を手際よくまとめていく。
サラはライルの腕を取り、体を起こす練習を何度か繰り返していた。
「どうだ、立てるか」
ライルが歯を食いしばって膝に力を入れる。サラの肩を借りて、どうにか立ち上がった。
「だいぶ体力が戻っています。いけそうだ」




