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サラはエルンストに、なるべく手短に自分たちの状況を伝えた。
「わかった、クレイ君たちの所に案内してくれ」
サラに斬られた一人はすでに息絶えていたが、捕らえたもう一人はそのままにしておけない。
そこで、エルンストともう一人、医療技術を持った年配の女性が、サラたちに同行することになった。
サラたちが洞窟に戻ると、挨拶もほどほどに、まずは年配の女性がライルの傷を確認し、持参した薬と道具で手当てを施す。
「応急処置は適切ですね。もう命に関わることはないでしょうが、傷は浅くありません。しばらくは安静にしなければ」
「助かりました。僕たちだけではどうすることもできなかった」
クレイは小さく息を吐いた。
「礼などいらぬよ。我々は君たちに協力すると決めているんだ」
その後、お互いの情報を交換し合っていると、マーカスの元に行っていたリオが戻り、避難場所の確保が完了したことを伝えた。
*
マーカスが手配した倉庫は、川沿いの船着き場に近い、使われなくなった石造りの建物だった。
広さは十分にあり、人目につきにくい。マーカスの商売仲間が以前荷物の一時保管に使っていた場所だという。
クレイはようやく落ち着いたところで、エルンストに自分たちの発見について話していた。
「僕たちは、下の塔への入り口と思われる扉を見つけました。途中で邪魔が入り、中に入ることはできませんでしたが」
「……ティナーリア、対なる柱か。我々の研究でもそこまでは辿り着けなかった」
その時、エルンストの仲間の一人が、入り口から駆け込んできた。
「エルンスト先生。あの捕虜ですが……」
「どうした」
「死んでいます。毒を飲んだようです」
「口封じか。自ら命を絶つとは、相当な覚悟だな」
サラの呟きを聞き、エルンストは苦い表情を浮かべた。
「……我々の監視が甘かった。申し訳ない」
得られるはずだった情報が失われたことは痛手だったが、今はそれを悔やんでいる余裕はない。
「一つ、私から提案がある」
情報の共有が終わった後、エルンストが切り出した。
「ライル君の治療は我々が引き受けよう。彼が動けるようになるまで、ここで面倒を見る。その間に、もう一度あの塔を調べてみてはもらえないか」
クレイの目がエルンストを見据えた。
「しかし、あの丘はすでに警戒されているはずです」
「だが、ヴェルナー博士たちに先んじて、塔を調べる好機だ。もちろん我々も可能な限りの協力をする」
「——少し、仲間と相談させてください」
*
倉庫の隅で、クレイたちは顔を突き合わせた。ライルも壁に背を預け、目を閉じたまま聞いている。
クレイがエルンストからの提案を伝えると、それぞれの反応が返ってきた。
「理にかなった提案だとは思います。でも……」
「あたしは反対だな」
「サラさん、その理由を聞かせてください」
「ここのところ不可解なことが続いている」
サラはエルンストたちと合流した時の状況を伝えながら、さらに言葉を続けた。
「あたしたちの行動が読まれすぎている。塔での襲撃もそうだが、エルンストたちの移動ルートまで連中に知られていた」
「エルンストさんたちの行動まで?」
サラは、クレイの言葉に頷きで返すと、自分の目の下にある刻印を指差す。
「気になることは、もう一つ。あたしの刻印の能力が、エルンストたちに対してうまく働いていない気がしている。反応がぼやけているというか……」
「砂漠でラシードたちが持っていたような道具でしょうか?」
ラシードが持っていた第二王朝の遺物。詳しい調査はできていないが、あの遺物は、刻印の能力を阻害する役割を果たしていた。
「ラシードの時ほど確かな感覚ではないんだ。嘘はついてない、だが、違和感がある」
話を聞いていたライルが、まだかすれた声でクレイに声をかけた。
「……先生」
顔色はだいぶよくなってきているが、まだ声には力がない。
「サラさんの意見に、俺も賛成です。……何か良くない感覚があります」
クレイはじっとライルを見つめた。
「……思えば、ライル、君の勘が外れたことはなかったですね」
しばらくの沈黙の後、クレイは顔を上げて口を開いた。
「エルンストさんの提案はお断りしましょう」
「ライルさんは、まだ動ける状況ではないのでは?」
アルマが心配そうにライルを見つめる。
「時間を稼ぐ作戦を考えます。ライルが動けるようになるまで、ここを拠点にしつつ、塔の調査については踏み込まない」
クレイは立ち上がると、三人の顔を順に見つめる。
「この状況で僕が信じるのは、あなたたちです」




