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刻印の考古学者 〜冴えない能力の使い方〜  作者: 音鳴 凪
ガランの尖塔

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 サラはエルンストに、なるべく手短に自分たちの状況を伝えた。


「わかった、クレイ君たちの所に案内してくれ」


 サラに斬られた一人はすでに息絶えていたが、捕らえたもう一人はそのままにしておけない。

 そこで、エルンストともう一人、医療技術を持った年配の女性が、サラたちに同行することになった。


 サラたちが洞窟に戻ると、挨拶もほどほどに、まずは年配の女性がライルの傷を確認し、持参した薬と道具で手当てを施す。


「応急処置は適切ですね。もう命に関わることはないでしょうが、傷は浅くありません。しばらくは安静にしなければ」


「助かりました。僕たちだけではどうすることもできなかった」


 クレイは小さく息を吐いた。


「礼などいらぬよ。我々は君たちに協力すると決めているんだ」


 その後、お互いの情報を交換し合っていると、マーカスの元に行っていたリオが戻り、避難場所の確保が完了したことを伝えた。



 マーカスが手配した倉庫は、川沿いの船着き場に近い、使われなくなった石造りの建物だった。

 広さは十分にあり、人目につきにくい。マーカスの商売仲間が以前荷物の一時保管に使っていた場所だという。


 クレイはようやく落ち着いたところで、エルンストに自分たちの発見について話していた。


「僕たちは、下の塔への入り口と思われる扉を見つけました。途中で邪魔が入り、中に入ることはできませんでしたが」


「……ティナーリア、対なる柱か。我々の研究でもそこまでは辿り着けなかった」


 その時、エルンストの仲間の一人が、入り口から駆け込んできた。


「エルンスト先生。あの捕虜ですが……」


「どうした」


「死んでいます。毒を飲んだようです」


「口封じか。自ら命を絶つとは、相当な覚悟だな」


 サラの呟きを聞き、エルンストは苦い表情を浮かべた。


「……我々の監視が甘かった。申し訳ない」


 得られるはずだった情報が失われたことは痛手だったが、今はそれを悔やんでいる余裕はない。


「一つ、私から提案がある」


 情報の共有が終わった後、エルンストが切り出した。


「ライル君の治療は我々が引き受けよう。彼が動けるようになるまで、ここで面倒を見る。その間に、もう一度あの塔を調べてみてはもらえないか」


クレイの目がエルンストを見据えた。


「しかし、あの丘はすでに警戒されているはずです」


「だが、ヴェルナー博士たちに先んじて、塔を調べる好機だ。もちろん我々も可能な限りの協力をする」


「——少し、仲間と相談させてください」



 倉庫の隅で、クレイたちは顔を突き合わせた。ライルも壁に背を預け、目を閉じたまま聞いている。


 クレイがエルンストからの提案を伝えると、それぞれの反応が返ってきた。


「理にかなった提案だとは思います。でも……」


「あたしは反対だな」


「サラさん、その理由を聞かせてください」


「ここのところ不可解なことが続いている」


 サラはエルンストたちと合流した時の状況を伝えながら、さらに言葉を続けた。


「あたしたちの行動が読まれすぎている。塔での襲撃もそうだが、エルンストたちの移動ルートまで連中に知られていた」


「エルンストさんたちの行動まで?」


 サラは、クレイの言葉に頷きで返すと、自分の目の下にある刻印を指差す。


「気になることは、もう一つ。あたしの刻印の能力が、エルンストたちに対してうまく働いていない気がしている。反応がぼやけているというか……」


「砂漠でラシードたちが持っていたような道具でしょうか?」


 ラシードが持っていた第二王朝の遺物。詳しい調査はできていないが、あの遺物は、刻印の能力を阻害する役割を果たしていた。


「ラシードの時ほど確かな感覚ではないんだ。嘘はついてない、だが、違和感がある」


 話を聞いていたライルが、まだかすれた声でクレイに声をかけた。


「……先生」


 顔色はだいぶよくなってきているが、まだ声には力がない。


「サラさんの意見に、俺も賛成です。……何か良くない感覚があります」


 クレイはじっとライルを見つめた。


「……思えば、ライル、君の勘が外れたことはなかったですね」


 しばらくの沈黙の後、クレイは顔を上げて口を開いた。


「エルンストさんの提案はお断りしましょう」


「ライルさんは、まだ動ける状況ではないのでは?」


 アルマが心配そうにライルを見つめる。


「時間を稼ぐ作戦を考えます。ライルが動けるようになるまで、ここを拠点にしつつ、塔の調査については踏み込まない」


 クレイは立ち上がると、三人の顔を順に見つめる。


「この状況で僕が信じるのは、あなたたちです」



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