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刻印の考古学者 〜冴えない能力の使い方〜  作者: 音鳴 凪
ガランの尖塔

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 日が落ちてから、サラとリオは街の西側へ向かった。


「エルンストたちはソルミア河を渡ってこちらに来るはずだ。どこか見晴らしの良い場所はあるか?」


「この先に少し高くなった場所があります。街道を見渡せますし、身を隠せる茂みも」


 リオの案内で、二人は街道を見下ろせる小高い丘に身を潜めた。


「学者風の年配の男が率いているはずだ。あたしたちと同じように追われている連中だから、人目を避けて夜に移動してくるだろう」


「分かりました。夜なら、俺の出番ですね」


「夜目が利くと言っていたか」


「はい。刻印の力なんです」


 リオは首筋のあたりに手を当てた。襟に隠れて見えないが、そこに星型の印があるのだろう。


「暗い場所でも、かなり遠くまで見えます。それだけの力ですけど」


「それだけとはおかしなことを言うな」


「……せっかく刻印の力を持つなら、もっと役に立つ能力だったらと……」


「旅をする、薄暗い場所で取引をする。暗い場所で人よりもよく見えることは、商人にとってかけがえのない能力だと思うぞ」


「そうでしょうか。俺の能力はマーカスさんの役に立てるでしょうか」


「大切なのは、能力の種類や強さじゃない。自分が持つ力をどう役に立てるか考えることだ」


「考えること……」


 サラのその言葉を聞き、リオはなにやら考え込む。


 風が草を揺らし、虫の声が途切れなく続く。街道を通る者はほとんどなく、たまに遅い時間の馬車が一台通り過ぎるだけだった。


「おまえはずっとマーカスのところにいるのか?」


「俺は……物心ついた時にはもう、街の隅で一人でした」


 リオは弱々しい笑みを浮かべて、肩をすくめた。


「市場で食べ物を盗もうとして、捕まりかけたところを助けてもらいました。マーカスさんは自分の金で代わりに払ってくれて」


「なるほど。マーカスは恩人というわけだな」


「はい。それからずっと、荷運びや商売の手伝いをしています。読み書きもマーカスさんが教えてくれました」


 サラは何も言わなかった。ただ、暗闇の中で小さく頷いた。



 深夜を過ぎ、月が中天にかかった。


 街道に人の気配はない。風向きが変わり、冷たい空気が丘の方から降りてくる。


「今日は来ないかもしれないな」


 サラが呟いた時、隣のリオが身を起こした。


「サラさん。あそこ」


 リオの目が、闇の向こうを捉えていた。サラの目では判別できない距離だ。


「何人かいます。十人くらい。街道を避けて、畑の間を歩いてきている」


「もう少し近づいてみるか」


「……でも、もう一つ気になることが」


 リオの声に緊張が走る。


「あの集団の手前に、別の人がいます。二人。……待ち伏せしているに見えます」


 サラはもう一度目を凝らすが、暗闇の中では、リオの指差す位置には何も見えない。


「……待ち伏せか」


 その時、月明かりに照らされて、一瞬金属の反射が見えた。


「武器を持っています」


「あたしが見える距離まで、その二人組に近づこう。お前は近づきすぎないように注意しろ」


 サラは草むらに身を沈め、音を殺して二人の人影に近づいていった。


 月明かりは雲に遮られ始めていた。闇が濃くなる。


 十分に近づいたと思った瞬間、足元の枯れ枝が鳴った。


 影の一つが素早く振り向く。弓を構える動きが、闇の中でもかすかに見えた。


 サラは迷わず地を蹴った。しかし暗闇の中、相手との距離が掴みきれない。


 その時、サラの頭上を鋭い風切り音が通り過ぎた。次の瞬間目の前の影が呻き、弓を取り落とす気配が伝わってくる。


 曲剣が一閃し、腕を押さえている影を斬り伏せる。


 もう一人が剣を抜いて斬りかかってきた。

 暗がりの中で刃が交錯する。相手の動きは見えず、音と気配だけが頼りだった。


「サラさん、右!」


 リオの声が飛んだ。サラは反射的に身を沈めると、頭上を剣が薙ぐ。


 再び風切り音が、今度はサラの耳元を通り過ぎた。

 何かが影の肩を打ち、一瞬だけ動きが止まる。


 その隙を見て、サラは、低い姿勢から突進し、強烈な足払いを放った。

 地面に倒れた影が持つ剣を足で払いのけ、曲剣の刃を首筋に当てる。


「動くな」


 サラは荒い息を吐きながら、素早く相手の手足を縛り上げた。もう一人は斬り伏せた場所に倒れたまま動かない。


「大丈夫ですか、サラさん」


「ああ。助かったぞ。……投石か、この暗闇で大した腕前だ」


 サラの視線の先、リオの手元には、革紐が握られていた。投石紐と呼ばれるもので、遠心力を利用して石を投げる道具だ。


「この距離なら外しません」


 リオは少し照れたように目を伏せた。


 サラが立ち上がって集団の方を見ると、こちらの騒ぎに気づいたのだろう、一行が足を止めて警戒の態勢を取っていた。


「……サラ君か?」


 聞き覚えのある老学者の声が、夜の闇に響いた。



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