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ライルが言ったとおり、岩場の奥には小さな洞窟があった。入口は灌木に隠れ、外からはほとんど見えないことも都合が良かった。
クレイはライルを洞窟の奥に横たえ、傷の具合を確認した。
矢は肩口に深く刺さっている。折れないように慎重に引き抜くと、ライルが苦痛に顔を歪めた。
「アルマさん、布を」
傷口を圧迫して止血を試みるが、血の勢いはなかなか収まらなかった。
「毒はなさそうですが、出血が多い」
クレイの声には、隠しきれない焦りが滲む。
「大丈夫です、先生。見た目ほどは……」
ライルはそう言いかけたが、言葉が途切れた。その顔色が急速に失われていく。
「ライルさん、しっかり!」
新しい布を差し出すアルマの言葉が微かに震える。
サラは黙って入口に立ち、外を警戒し続けていた。しかし、時折振り返るその目には、隠しようのない不安が浮かんでいる。
「よし……なんとか止血はできました。だが、このままでは危ない。薬草か、せめてまともな手当ての道具が必要です」
クレイが両手についた血を見つめながら言った。
「街に戻れば手に入るだろうが……」
「彼らが待ち構えています。……街に戻るのは危険です」
「あたしが単独で街に入って薬を調達する。連中の目をかいくぐるくらい、どうってことない」
「いえ、それでは根本的な解決になりません。仮に薬が手に入っても、この洞窟で長く身を隠すことは難しい」
クレイは壁に背を預け、目を閉じた。考えを巡らせる。
もっと博士たちの動きを重く考えておくべきだった、自分を庇って傷を負ったライルを見つめ、クレイは自分の考えの甘さを痛感していた。
「エルンストさんたちと合流して、助けを求めるのはどうでしょうか」
アルマの提案に、クレイが目を開いた。
「エルンストさんたちとはガランの街で落ち合う約束でした。彼らの中には傷の手当てができる人がいました」
「しかし、合流の約束はガランの街です。エルンストさんたちがいつ到着するか分からない。街の中で長く待つのは危険です」
「まずはライルの手当てが先だ。薬の調達はあたしに任せろ。街に潜り込んで必要なものを手に入れてくる」
「分かりました。ですがサラさん、気をつけて。博士の手の者がまだ街にいる可能性があります」
「目立たないようにやる。薬を持ち帰ったら、次のことを考えよう。エルンストたちとの合流も、ライルが持ちこたえてくれれば手の打ちようがある」
サラの判断は正しい。今は目の前の危機に対処するしかない。
「砂漠の守護者、サラ・ミリア・アデールの名に賭けて、必ずや役目を果たしてこよう」
サラは横たわるライルの顔を覗き込んだ。
「だから、まだ死ぬんじゃないぞ」
*
サラが街に向かい、洞窟の中には三人だけが残された。
ライルの浅い呼吸が、静かに反響する。
「クレイさん、博士たちは、最初から私たちを泳がせていたんですよね。塔の秘密を私たちに探らせるために」
「間違い無いでしょう。しかし、まだ入口は開いていません」
「ええ。今までの遺構を考えると、仮に扉が姿を現したとしても、簡単に開くとは考えづらいです」
「先生……すみません……俺としたことが」
いつの間にかライルが意識を取り戻し、その手がかすかに動いた。
「ライル、君が謝ることはない。君がいなければ、あの矢は僕に当たっていた」
ライルは薄く目を開け、何か言いたげだったが、また目を閉じた。
洞窟の外では、風が岩肌を撫でる音だけが聞こえていた。サラが戻るまで、どれほどの時間がかかるか分からない。
自分では何もできない状況に、クレイは苛立つ気持ちを抑えきれなかった。




