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近くの村で一晩休んだ翌日、四人はガランの街に入り、半日ほど聞き込みを行った。
日暮れ前に宿の一室で合流した四人は、それぞれの成果を報告していく。
「塔のことを知っている者はほとんどいませんでした。昔から何か大事な場所だったらしい、という程度の話が残っているだけです」
「地元の人間で塔に近づく者はいないようだな。丘の周辺は荒れ地になっていて、畑にもしていないらしい」
ライルの報告にサラが付け足す。
「マーカスさんから聞いた話の裏も取れました。数日前にソルステンからの学者の一団が塔を調べていたが、すぐに引き上げたと」
「連中の残りが気になるが、今夜のうちに動いた方がいい」
*
月明かりの下、ガランの塔は青みがかった影を落としていた。円筒形の建造物で、外壁には風化した幾何学文様が残っている。
扉は閉ざされていたが、施錠の類はなかった。博士たちが出入りした痕跡も残っている。
クレイが扉を押すと、重い軋みとともに、扉が内側に開いて行く。
目立ちすぎない程度に明かりを灯し、四人はしばらく塔の内部を調べた。
内部に目立った遺物はなく、壁面に文様の痕跡が見つかったが、それらもほとんどが風化して消えかけている。
「これでは引き上げるのも無理はないですね」
ライルが壁面を見回しながら言った。
天井は遥か高くまで吹き抜けになっており、螺旋状の階段が頂に向かって続いている。
「上も確認しましょう」
やがて、塔の中腹あたりで、クレイの足が止まった。
「待ってください」
松明を壁面に近づけ、角度を何度も変える。一見すると何もない平坦な石の表面だが、斜めから光を当てると、ごくわずかな凹凸が浮かぶ。
「この部分だけ、文様が石材の表面よりも深く刻まれています。風化して消えたように見えますが、意図的に残されたようにも見えます」
クレイは腰に下げた道具入れから小ぶりの刷毛を取り出すと、凹凸部分を丁寧になぞり始めた。
「何か、意味のある文様に見えますが……」
浮かんだ文様は、外壁のものより精緻で、古い様式だった。そしてその間に、小さな文字のようなものが刻まれている。
「アルマさん、読めますか」
アルマは壁面に近づくと、しばらく文字を目で追い、慎重に読み解いていく。
「古い言葉で、同じ単語が繰り返されています。--『ティナーリア』でしょうか」
「意味は分かりますか?」
「『ティナ』は『対なるもの』、『リア』は『柱』。合わせて『対なる柱』。二つで一つのもの、という意味ではないでしょうか」
「確か、エルンストさんが言っていましたね。この塔の当時の呼び名は失われていると」
二人のやりとりを聞いていたライルが、エルンストの言葉を思い出した。
「なるほど。『ガランの塔』というのは後の世の人がつけた名前にすぎない。この塔の本来の名前は『ティナーリアの塔』」
「そういえば、ヴァルデンの遺構にも砂漠の神殿にも、本体とは離れた場所に、別の隠された通路がありましたよね」
アルマの言葉で、クレイに、ある考えが浮かんだ。
「……まさか、もう一つの塔があるのか」
*
翌朝、四人は昨夜の発見を整理していた。
「ティナーリア。対なる柱。この塔にはもう一つの対がある」
クレイは、卓上に簡単な見取り図を描いていく。
「もう一つの塔は地下にあるのか?」
「ええ。おそらく丘そのものの内部に、もう一つの塔が下に向かって伸びている」
「もしそうだとして、入口はどこにあるんでしょう」
アルマのその問いは、クレイも考えていたことだった。
「上の塔は星のエネルギーを受け取り、下の塔は大地にエネルギーを送り込む。そうした仕組みがあったとしたら、当時はそれを管理する人間が、定期的に出入りしていたはずです」
「なるほど。つまり、当時は特に隠されていたわけではないということですね」
ライルは、塔周辺の地形を思い浮かべるように目を閉じた。
「ガランの街は今は河沿いにありますが、当時の街の中心は塔にもっと近かったようです。塔の力で土地が栄えていたなら、その恩恵を受けやすい場所に人が集まるのは道理です」
クレイは見取り図に線を引いていく。それは、塔のある丘と、かつての街の中心と思われる方角を結ぶ線。
「単純に考えれば、この線の途中に入口があったのではないかと」
「でも、今はそのあたり一帯に誰も近づかないんですよね」
「それが気になっているんです。聞き込みでは、丘の周辺は『呪われている』『罰が当たる』と言われていた。考古学ではよくあることですが、遺跡の周辺に伝わるこうした言い伝えは、もともと人を近づけさせないために作られたものであることが多い」
「意図的に人を遠ざけていたのか」
サラが目を細めた。
「当時から管理者たちが一般の人を入口に近づけないためにしていたのか、長い年月の間に、誰かが危険を避けるために考えたのか、それは分かりませんが。しかし、結果として、今では誰もその一帯に足を踏み入れない」
「だからこそ、入口が見つかっていない」
ライルの言葉にクレイは深く頷いた。




