↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
刻印の考古学者 〜冴えない能力の使い方〜  作者: 音鳴 凪
ガランの尖塔

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
32/68

31

 水門施設を出発して三日目の夕暮れ、四人は小さな丘の上で野営の準備を始めていた。


 東に向かう街道を避け、農村の間を縫うように進む旅路は、決して楽ではなかったが、今のところ追手の気配はない。


「この辺りの畑は、随分とまばらですね」


 アルマが丘の上から周囲を見渡しながら呟いた。眼下には、収穫を終えたばかりの畑が点在しているが、その合間には手つかずの荒地も目立つ。土地はあるのに、耕されていない場所も多い。


「この辺りの土は痩せているようですね。表土は薄く、その下の層も養分に乏しい。……ただ、不思議なことに、ところどころ妙に肥えた一画があります」


 クレイが足元の地面を手で払いながら答えた。


「エルンストさんが言っていた通りですね。かつては黄金の穂が地平線まで広がっていたという話……。その名残が、ところどころに見えます」

「砂漠と同じだな」

 そういうサラの声には、静かな確信が混じっていた。


 彼女は丘の縁に腰を下ろし、広がる農地を眺めている。

 砂漠の神殿で見た記憶の中の光景――かつて緑豊かだった土地。その面影が、目の前の風景と重なって見えた。

「ええ。砂漠ほど極端ではありませんが、同じ力の衰退が、ここにも及んでいるのかもしれません」



 食事を終えた後、アルマは手帳を広げて灯りに近づけた。


「少し、整理しておきたいことがあります」


 アルマの言葉に、三人の視線が集まった。


「ガランに着く前に、私たちがこれまでに知り得たことを、改めてまとめておきたいのです」


 確かに、ソルステンを出てから怒涛のように出来事が続き、落ち着いて情報を整理する余裕がなかった。


「まず、ヴァルデン山脈の遺構。あの遺跡は星の力の中枢でした。エネルギーを集め、各地に送り出す役割を持っていた。……石板には『星の源』という文字が浮かびました」


 アルマは手帳のページをめくっていく。


「砂漠の神殿はその力を受け取る施設。受信した力を周囲の土地に分配し、豊かさを支えていた。石板に浮かんだのは『大地の恵み』」


「エルンストさんの話では、このネットワークは二つの施設だけではなく、大陸各地に同様の施設が点在していたとか。問題は、それぞれの施設がどんな役割を持っていたかです」


 クレイは石板を取り出した。

 「星の源」「大地の恵み」の二つの文字が、かすかに光を帯びている。その横には、まだ何も刻まれていない空白が残されていた。


「もう一つ。暗号文書に記されていた『星の巡りの変化』のことです」


「たしか、エネルギーの増減が、星々の運行に左右されるという話ですね」


 クレイが記憶を辿りながら答えると、アルマは頷いた。


「はい。ヴァルデンの氷河が後退しているのも、その影響という話でした。……つまり、時間に猶予がない可能性があります」


「ヴェルナー博士の動きが読めないのも気がかりだ。砂漠では先回りされていたし、ソルステンからも姿を消した。今どこにいるのか」


「すでに、僕たちと同じ情報を持っているかもしれません。ガランの塔についても知っている可能性は高い」


 クレイの声には、確かな警戒が滲んでいた。



 翌朝、朝露に濡れた草を踏みしめながら歩き出した四人の前には、これまでとは少し異なる風景が広がり始めていた。


 農地の合間に、小さな水路が現れてきた。

 幅は人の腕を広げたほどだが、澄んだ水がゆっくりと流れている。その水路に沿って、周囲の畑は明らかに作物の育ちが良い。


「灌漑用の水路ですね。ただ、この石の積み方は、かなり古い技術です」


 クレイが水路の石組みに目を留めた。


「こんな小さな水路が、そんなに古いものなのですか?」


 アルマが驚きの声を上げる。


「上に積み増された部分は新しいですが、基礎の部分は明らかに異質です。この地域の人々が、古い水路を補修しながら使い続けてきたのでしょう」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。