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水門施設を出発して三日目の夕暮れ、四人は小さな丘の上で野営の準備を始めていた。
東に向かう街道を避け、農村の間を縫うように進む旅路は、決して楽ではなかったが、今のところ追手の気配はない。
「この辺りの畑は、随分とまばらですね」
アルマが丘の上から周囲を見渡しながら呟いた。眼下には、収穫を終えたばかりの畑が点在しているが、その合間には手つかずの荒地も目立つ。土地はあるのに、耕されていない場所も多い。
「この辺りの土は痩せているようですね。表土は薄く、その下の層も養分に乏しい。……ただ、不思議なことに、ところどころ妙に肥えた一画があります」
クレイが足元の地面を手で払いながら答えた。
「エルンストさんが言っていた通りですね。かつては黄金の穂が地平線まで広がっていたという話……。その名残が、ところどころに見えます」
「砂漠と同じだな」
そういうサラの声には、静かな確信が混じっていた。
彼女は丘の縁に腰を下ろし、広がる農地を眺めている。
砂漠の神殿で見た記憶の中の光景――かつて緑豊かだった土地。その面影が、目の前の風景と重なって見えた。
「ええ。砂漠ほど極端ではありませんが、同じ力の衰退が、ここにも及んでいるのかもしれません」
*
食事を終えた後、アルマは手帳を広げて灯りに近づけた。
「少し、整理しておきたいことがあります」
アルマの言葉に、三人の視線が集まった。
「ガランに着く前に、私たちがこれまでに知り得たことを、改めてまとめておきたいのです」
確かに、ソルステンを出てから怒涛のように出来事が続き、落ち着いて情報を整理する余裕がなかった。
「まず、ヴァルデン山脈の遺構。あの遺跡は星の力の中枢でした。エネルギーを集め、各地に送り出す役割を持っていた。……石板には『星の源』という文字が浮かびました」
アルマは手帳のページをめくっていく。
「砂漠の神殿はその力を受け取る施設。受信した力を周囲の土地に分配し、豊かさを支えていた。石板に浮かんだのは『大地の恵み』」
「エルンストさんの話では、このネットワークは二つの施設だけではなく、大陸各地に同様の施設が点在していたとか。問題は、それぞれの施設がどんな役割を持っていたかです」
クレイは石板を取り出した。
「星の源」「大地の恵み」の二つの文字が、かすかに光を帯びている。その横には、まだ何も刻まれていない空白が残されていた。
「もう一つ。暗号文書に記されていた『星の巡りの変化』のことです」
「たしか、エネルギーの増減が、星々の運行に左右されるという話ですね」
クレイが記憶を辿りながら答えると、アルマは頷いた。
「はい。ヴァルデンの氷河が後退しているのも、その影響という話でした。……つまり、時間に猶予がない可能性があります」
「ヴェルナー博士の動きが読めないのも気がかりだ。砂漠では先回りされていたし、ソルステンからも姿を消した。今どこにいるのか」
「すでに、僕たちと同じ情報を持っているかもしれません。ガランの塔についても知っている可能性は高い」
クレイの声には、確かな警戒が滲んでいた。
*
翌朝、朝露に濡れた草を踏みしめながら歩き出した四人の前には、これまでとは少し異なる風景が広がり始めていた。
農地の合間に、小さな水路が現れてきた。
幅は人の腕を広げたほどだが、澄んだ水がゆっくりと流れている。その水路に沿って、周囲の畑は明らかに作物の育ちが良い。
「灌漑用の水路ですね。ただ、この石の積み方は、かなり古い技術です」
クレイが水路の石組みに目を留めた。
「こんな小さな水路が、そんなに古いものなのですか?」
アルマが驚きの声を上げる。
「上に積み増された部分は新しいですが、基礎の部分は明らかに異質です。この地域の人々が、古い水路を補修しながら使い続けてきたのでしょう」




