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「これを見てほしい」
エルンストは立ち上がると、古い革袋から何かを取り出した。
それは、風化して所々が欠けた石板だった。
「これは『歴史を記す板』と呼ばれるものだ」
クレイは身を乗り出し、石板の表面を慎重に観察した。
「微かに読み取れる紋様からすると、第二王朝末期の頃のものでしょうか?」
彼は石板の隅に描かれた紋様に目を凝らしながら、記憶にある各年代の様式と照らし合わせた。
「その通りだ。この石板は、先ほど話した、最後の王が残したものだよ」
石板の四隅には第二王朝の特徴的な紋様が施されているが、中央には何も記されていない。
エルンストは椅子に深く腰を下ろし、クレイを見つめた。
「……君たちのことを聞かせて欲しい。特にその剣について」
彼は視線をクレイの腰に下げられた古剣に移した。
「僕は刻印の能力を持っていて、その力は『考古学』です」
そういって、クレイは左手の刻印を見せた。
「遺物に触れることで、その遺物の作られた年代や材質が分かる能力です」
エルンストは興味深そうに剣を見つめた。
「年代がわかるだけかね? その剣は、当時の姿そのままのように見える」
クレイは少し躊躇いながら説明を続けた。
「……ええ。僕もまだ理解できているわけではないのですが、ヴァルデン山脈の遺構に関わるようになってから、自分の能力に変化が起きているのです」
「では、君の能力で、その剣の元の姿を取り戻したというわけだな」
エルンストは、しばらく思案するように石板の表面を見つめていたが、意を決したように顔を上げる。
「クレイ君、これに触れてみてくれ」
クレイは石板を手に取った。
その瞬間、左手の刻印が反応して青く光り始め、石板の表面がかすかに輝きを帯びていく。
「やはり……!」
エルンストが大きく息を呑む。
輝きが収まると、風化していた石板の表面は滑らかになり、そこには二つの文字列が浮かび上がっていた。
「『星の源』『大地の恵み』……」
アルマが文字を読み上げる。
「僕たちが訪れた、二つの遺構のことでしょうか?」
アルマは記憶の中で見た光景を思い出していた。
「氷河の遺構は星のエネルギーを集める『星の源』、砂漠の神殿はかつてその力で豊かだった『大地の恵み』——」
「そうか、この石板は訪れた遺構の役割を理解するごとに、文字が浮かび上がる仕組みなのですね!」
石板にはまだ余白の箇所がある。まるで、これから訪れるべき場所が待っているかのようだ。
「最後の王が残した星の力を消し去る方法は、正しい歴史を理解した者にしか解読できない」
エルンストは驚きと期待が入り混じった表情を浮かべた。
「つまり、この石板は、私たちが歴史を理解したかどうかを示す役割を持っているのでしょうか」
「そう考えている。クレイ君、その力はまさにこのためにあるような力だ」
クレイは自分の刻印に目を落とした。ただ遺物の年代がわかるだけだと思っていた力に、隠された本当の能力があったというのだろうか。
「この研究は長い間停滞していた。ヴェルナー博士はその第一人者だ」
「あなたたちと博士の関係は?」
「元は博士の元で同じ研究をしていたが、最近になって大きな発見がなされ、研究に進展が見られた」
「もしかして、ヴァルデン山脈の……」
クレイが言いかけると、エルンストはすぐに頷いた。
「そうだ。君が持ち込んだ資料は画期的なもので、それによって氷河の遺跡の詳しい調査の目処が立ったのだ」
「そして博士は今までの態度を覆し、この力を現代に復活させ、利用すべきだと主張し出したのだ」
「過去の悲劇を繰り返そうというのか?」
サラが眉をひそめる。
「我々も同じことを言った。歴史的な解釈によれば、その力に触れることは禁忌だ。むしろ最後の王が残したと思われる『消し去る方法』を見つけるべきだと」
「それで、あなたたちは、博士と対立したのですか」
「博士は我々の主張を聞き入れないどころか、我々を拘束しようとしたのだ。なんとかその動きを事前に察知し、ここを拠点に今後の動きを相談していたところだ」
クレイはしばらく考えた後、これまでの経緯――ヴァルデン山脈の遺構での発見と、砂漠の神殿での出来事について、必要最小限の情報を伝えた。
しかし、アルマやサラの能力や、詳細な情報については敢えて触れなかった。
「東の大河を超えた先に、今も残る巨大な塔がある」
エルンストは石板の空白部分を指差した。
「我々の研究では、そこにも当時の重要な施設があったはずだ」
「ヴェルナー博士たちも同じ場所を目指しているでしょうか」
「おそらくな。博士は『星の力』を復活させるため、各地の施設を訪れているはずだ」
「やはり、我々も東の塔を目指すべきですね」
クレイが仲間を振り返ると、サラ、アルマそしてライルも無言で頷きを返した。




