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刻印の考古学者 〜冴えない能力の使い方〜  作者: 音鳴 凪
ソルステンの闇

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 茂みの向こう側には、小さな宿営地が設けられていた。


 水門施設の裏手、ひと目につきにくい場所に幾つかのテントが張られ、かろうじて火の気が保たれている。テントの中からは、ごく小さな灯りが漏れ出していた。


「皆、ソルステンから逃れてきた研究員だ」


 エルンストがそう説明するのを、サラは冷静な目で観察していた。彼女はテントの中から現れた年配の女性に、傷の手当てをしてもらっていた。


 草原の香りのする薬草が、サラの傷に塗られていく。痛みに顔をしかめながらも、彼女は周囲への警戒を緩めなかった。


「警戒したくなる気持ちは分からんでもないが、我々はヴェルナー博士の元から逃げ出してきた者たちだ」


 エルンストは、小さなランタンを手に、サラの表情を見つめた。


「少し長くなるが、話をさせてもらおう」



「まず、第二王朝の起りだが、これは初代皇帝が強大な軍事力を後ろ盾として、短期間のうちに大陸を統一したことだと言われている」


「ええ、そうですね。知られている歴史の中で、大陸を一つの国が統一したのは、これが初めてであり、そして最後です」


 クレイは、自分の知識を確認するように頷いた。


「だが、この初代皇帝がどういう出自の者で、それだけの強大な軍事力をどうやって集めたのか、肝心なことは何ひとつわかっておらん」


「でも、今の私たちには分かっていることがあります。それは、《《星の力》》……」


 アルマがクレイに目配せをしながら、声を少し震わせて言った。


「やはり、君たちはそのことを知っていたか。その通りだ。初代皇帝は『星の力』と呼ばれる神代の技術を復活させることで、かつてない繁栄を築いた」


 彼は両手で小さな球を包み込むような仕草をした。


「当時の記録によれば、何らかの装置によって、天空に瞬く星々のエネルギーを集め、さらには大陸各地にその力を分配するシステムがあったという。——君たちはすでに見たかもしれんが、ヴァルデン山脈の遺構はその中枢だ」


 アルマは静かに頷き、その眼差しは遠くを見つめるものに変わった。彼女の記憶の中で、水晶の間の幻影が鮮やかに蘇る。


「当時の文明は今より遥かに優れ、遠く離れた場所に短時間で移動する術まであったということだ」


 エルンストの言葉に、サラが曲剣の柄を無意識に握りしめた。


「もしそんなものがあったなら、大勢の兵士を一瞬にして敵の陣地に送り込むことも……」


「そういうことだ。初代皇帝は、その力によって大陸全土を瞬く間に統一したのだ」


「星の力の始まりは、戦争のために使われたのですか……」


 クレイの声には、僅かな失望が混じっていた。


 エルンストは青白い光を放つランタンの方に視線を向け、遠い記憶を辿るように言葉を紡いだ。


「皇帝はエネルギーの供給網とでもいうべきものを、大陸全土に張り巡らせ、それによって神代に匹敵する豊かさを実現していたようだ」


「確かに、私が砂漠の神殿で見たのは、かつては豊穣な自然に恵まれた土地の姿でした」


「だが、ある時、星々の運行に大きな変化が起き、星の力の便利な力に依存していた人々に大きな影響を及ぼした」


 エルンストは厳しい表情で告げ、アルマは砂漠の神殿で見た恐ろしい光景を思い出していた。


「慌てて事態を収めようとした管理者たちは、エネルギーの管理機構に無理な改変を加え、それによってむしろ事態は悪化した」


 ここまで語ると、エルンストはクレイの方に視線を向けた。


「君の持っている剣の所有者、第二王朝最後の王は、魔術師としても類い稀な才能を持っていた」


「王は『星の力』を消し去る方法を見出していたとか」


 クレイは腰に下げた剣に触れた。


「そこまで知っているとは……」


 エルンストは驚きの色を隠せなかった。


 我々が長年かけてたどり着いた事実を、君たちがどうやって知るに至ったのか、それについて興味があるが——」


「それについて、僕の方からもお聞きしたい……」


 クレイは身を前に乗り出した。


「なぜ今日会ったばかりの僕たちにそんな重要な話をしてくれるのですか?」


「運命を感じる。学者らしくはないがな」


 エルンストは穏やかな微笑みを浮かべた。


「こうして逃れてきた我々の目の前に、その剣を持ったものが現れた。こんな偶然があろうか」


「僕は歴史の真実を知りたいのです。そして、僕に与えられた使命がどういうものかも」


「我々もすべてを知っているわけではない。しかし、君たちが何をすべきかは、伝えられるだろう」


 老学者は咳払いすると、軽く息を吐く。


「少し話が逸れたな。王は、星の力を完全に消し去ることはできなかったが、一時的に抑えることはできた」


「それが今になってまた?」


「星の力は星々の運行に大きく左右される。第二王朝末期にエネルギーが大きく減衰したのとは逆に、今度はまたエネルギーが増幅してきていると考えられる」


「それによって氷河の融解が進み、遺構が姿を現した……」


「王が見出した星の力を完全に消し去る方法とはどういったものなのですか?」


 今度は、アルマが身を乗り出して尋ねた。


「残念ながら、それについては我々もまだ発見できていない。だが、手がかりは掴んでいる」


「手がかりとは、どのような?」クレイが目を見開いた。


「星の力を消し去る術を知るには、『正しい歴史の理解』が必要だ。そして、君たちはすでにその一端を理解しているはずだ」


 エルンストのその言葉に、クレイたち四人は、互いに目を交わしあった。


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