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「南門へ向かうのは危険です。図書館からの光で、道が明るすぎます」
アルマとクレイが準備を整える間、ライルとサラは脱出経路について話し合っていた。
「それなら、一度裏通りに入り、そこから西門を目指すか」
「ええ、それが良さそうです。決まりです」
ライルは手元の地図を指で弾く。
「ライル、こちらの準備はできました」
夜陰に紛れ、四人はライルの店を後にした。
日中賑わう商店街も、夜更けには人気がなくなる。暗い店の軒先に潜む影にも、見知らぬ敵が潜んでいる気配がして、アルマはその身を震わせた。
「……待て」
角を曲がろうとした時、サラが声を潜めて三人を制した。
通りの向こうで、馬具の音が響く。しかし、その音は不自然なほど大きい。
「わざとらしい音だ……。あたしたちの注意を引きつけている」
「サラさん、気をつけて!」
ライルの抑えた鋭い声に、サラは無言で頷き返す。
「五人……いや、六人か」
「店を出た時点で気づかれていましたか」
曲がり角には二人、路地の奥に二人、そして建物の陰に二人。追手たちの動きは手慣れていて、逃げ道を着実に塞いでいく。
「……来ます」
ライルが鋭く警告を放つと同時、裏路地の入り口から、一人の男が姿を見せた。黒い装束に身を包み、腰には長剣を帯びている。
「クレイ、アルマを頼むぞ!」
サラはそれだけ告げると、男の前に躍り出た。一瞬の動きで間合いを詰め、男が剣に手をかける前に、サラの拳が顎を打ち抜いていた。
男は声も上げられぬまま、崩れ落ちる。
「なっ……!」
サラの動きに、追手たちの連携が、一瞬だけ乱れた。
サラはその隙を逃さず、さらに次の相手へと向かう。あっという間に懐に飛び込み、相手の腕を取ると、そのまま石畳の上に投げ飛ばす。
「アルマさん、後ろに」
クレイは剣を抜き放ち、アルマを守るように前に立つ。
ライルはサラの動きに合わせるように、残る追手たちの死角を縫って動いていた。
サラが曲剣を鞘のまま一閃すると、さらに一人の追手が後ろへと弾き飛ばされた。
「くっ、このっ……」
追手の一人が何かを唱えようとするが、その言葉は、サラの一撃で途切れた。
「ここから西に折れて、運河の方へ向かいましょう!」
ライルの先導で、四人は路地の闇に紛れ、街の西区画へ向かう。
しばらくすると、古い石組みの入り口が見えてきた。
「ここは古い運河跡です」
かつての繁栄を物語る水路は、今では涸れて、石畳の通路だけが残されている。
運河の石組みの天井は低く、両脇の壁は冷たい空気を帯びている。
「門に向かうのは危険です、この先を行けば街の外まで抜けられます」
ライルが松明を掲げ、奥の闇を照らしたそのとき、背後から響く足音が聞こえてきた。
「なぜここが。完全に巻いたはずだぞ」
「……なにか、そういう刻印の能力を持った者がいるのかもしれません」
サラの舌打ち混じりの言葉に、クレイはその可能性が高いことを予感した。
「とにかく先を急ぐしかありません。お二人とも足元に気をつけて」
松明の灯りは敵に見つかる恐れがあったが、目先すら見えない闇の中では、消すわけにもいかない。
濡れた石畳を踏む足音が、通路に響く。ところどころ崩れかけた壁からは、細い水脈が流れ込んでいた。
かつては船の停泊場だったらしき広場を過ぎると、通路は更に狭く入り組んでいく。
その先で、通路は三方に分かれていた。
「どっちにいく?」
ライルは懐から出した地図を見て、現在地を確認しようとしたが、後ろから複数の足音と、松明の明かりが近づいてくるのが見えた。
「左へ!」
ライルの声に従い、四人は左の通路へと進む。しかし数十歩も進まないうちに、今度は、前方からも明かりと足音が聞こえ始めた。
「回り込まれたか」
戦いになることを予感し、サラが腰の曲剣を抜き放つ。
「このままでは……」
アルマを背に、クレイも剣を構える。
「扉です、中へ!」
ライルの松明が照らし出したのは、朽ちかけた木の扉だった。
「サラさん、アルマさんと先に!」
サラがアルマの腕を掴み、扉を押し開けると、中は古い倉庫のような空間が広がっていた。
「危ない! 先生下がって!」
二人に続いて、クレイとライルも中に滑り込もうとしたが、そのとき、天井から大量の瓦礫が降り注ぎ、扉を塞いでしまった。
「クレイ! ライル!」
中の様子を探っていたサラが、轟音に振り向くと、崩れ落ちた瓦礫で扉の向こうは完全に見えなくなってしまっていた。
呼びかけても、向こう側からクレイたちの声が返ってくることもない。
「お二人は無事でしょうか……」
「二人も出口を目指すはずだ。あたしたちも行こう」
サラは松明を掲げると、不安げなアルマの手を取る。
アルマは一度だけ扉を振り返り、それからサラを見上げた。
「はい。サラさんと一緒なら心強いです」




