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クレイたち四人は、夜になって再び「銀の羅針盤」の隠し部屋に集まっていた。
考古学協会での一件、ヴェルナー博士の研究室が跡形もなく消え、自分が警戒の対象となっていることを報告し終えると、クレイはアルマに視線を向けた。
「アルマさん、それが今日の収穫ですか?」
アルマは羊皮紙を束ねた古い文書を広げながら、申し訳なさそうに目を伏せた。
「はい。本当は許されないことだと分かっていますが。……図書館から持ち出してしまいました」
アルマが机の上に並べた羊皮紙には、古い文字がびっしりと浮かび上がっていた。
「これは文字ですか? 見たことがない形態です」
「第二王朝期の文書です。ただし、内容は暗号化されています」
アルマはランタンを引き寄せると、文字がより見やすい位置に動かした。
「様々なことが書かれているようですが、解読と情報の整理にかなり時間がかかりそうです」
「ヴェルナー博士については、研究室がなくなっているだけではなく、おそらく関連資料も跡形もなくなっていると思います」
クレイたちの話を聞きながら、ライルは窓の外に怪しい気配がないか目を光らせる。今のところはまだ何も起きていないようだが、安心はできない。
「話を聞く限り、クレイさんたちがソルステンに戻ったことは、もう知られているはずです。ここも安全ではないかもしれません」
「一日ください、朝までには重要と思われる部分の解読を」
「僕も手伝いましょう」
*
第二王朝期には複数の暗号方式が存在したことを、アルマは知識としては知っていた。
文字の並びから、使用されている可能性の高い暗号パターンを絞り込んでいく。
「この文字の使われ方は、王宮で使われていた暗号方式に似ています。でも、なにか違うような……」
アルマが指差した箇所を、クレイが横から覗き込む。
「確かに王宮式ですが、独自の工夫が加えられているようですね。確か、当時の役人は、必要に応じて暗号方式を改変することがありました」
「では、基本は王宮式で良さそうですね」
アルマは手元の手帳に、文字列の特徴を書き留めていく。
よく使われる単語を示すと思われるパターン。文の切れ目に使われる記号。それらを一つ一つ丁寧に分析していく。
解読が進むにつれ、アルマの左手の刻印が、かすかな温もりを帯びて光を放ちはじめた。
ほどけた文字が、本来の意味を取り戻そうとするように浮かび上がってくる。
「これは……日記、でしょうか。それなりの地位にあった人物のものだと思います」
文字の意味を追ううちに、刻印を通じて、書き手の感情までもが流れ込んでくる。
やがてアルマの意識は記憶の中へと引き込まれ、目の前に書斎の光景が広がった。
「……星の巡りが変わった」
羽ペンを走らせる音とともに、その言葉が、アルマの意識に流れ込んできた。
星の巡りの変化、強い危機感、書き手の不安が、羊皮紙に染み込んだ感情となって伝わってくる。
そして、広大な河面に映る塔の影。
それは想像以上に巨大な建造物で、まるで天を貫くかのようにそびえ立っている。
その塔の頂からは、青白い光が放たれ、大河の流れさえも輝きを帯びて見えた。
「アルマさん、大丈夫ですか?」
クレイの声で意識が現実に戻ると、アルマは慌ただしくメモを取り始めた。
刻印を通じて感じ取った情報を、一つ一つ丁寧に書き留めていく。
「この記録からは、何か、強い使命感のようなものを感じます」
アルマは震える指で文字を指す。
「これは単なる日記ではありません。重要な任務を帯びた者の記録です」
アルマは記憶をなぞるように、断片を読み上げていく。
「……道中幾日を費やし、東の地に至る。塔からの光は、人々に恵みをもたらしていた——」
広大な河面に映る塔の影が、アルマの脳裏をよぎる。
「この文書の作者は、ソルステンを離れ、東の商業都市を訪れていたようです……」
アルマは震え、弱々しくなっていく。
「大丈夫ですか、アルマさん」
その様子を見て、ライルがコップに注がれた水を差し出す。
「すみません。力が……限界のようで」
その時、見張りから戻ったサラが、慌ただしく部屋に入ってきた。
「周囲が騒がしくなってきた。このまま残るのは危険だ」
「でも、まだ解読が」
「いいえ、これで十分です」
アルマはクレイの声を遮ると、羊皮紙を丁寧に包みはじめる。
「大河を渡った先にある塔。きっと、あれも第二王朝の遺構なのだと思います。砂漠の神殿と同じような」
「分かりました、アルマさん」
「そうと決まれば、一刻も早く出ましょう。先生とアルマさんも準備を」
ライルはサラとともに、町の外までの道を相談し始めた。




