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朝日を受けて白く輝く考古学協会の建物に、一人の女性が近づいていった。
砂漠の民特有の深い褐色の肌に、鮮やかな色使いの民族衣装。背には大きな荷物を背負い、その姿は遠方から商売に来た者のように見えたが、それは商人に扮したサラだった。
サラは自然な身のこなしで入り口をくぐっていくと、そのまま遺物鑑定の窓口へ向かう。
窓口には既に数人の順番待ちができていた。
待合室の長椅子には商人らしき男性や、地方の研究者と思われる初老の男性の姿があった。
考古学協会による遺物鑑定は、この街の骨董品取引において重要な意味を持っている。
やがてサラの番が回ってくると、背負っていた荷物から、丁寧に包まれた品物を取り出した。
それは昨夜、ライルが急いで用意した偽物の装飾品だった。
「これは……」
窓口の職員は、品物を手に取りながら言葉を切った。その表情が明らかに怪訝なものに変わる。
「ゴホン、失礼。申し訳ございませんが、こちらは贋作のようで——」
「何だと? あたしの一族に代々伝わる品を、偽物だと疑っているのか!」
相手の言葉を遮るように、サラが畳みかけると、窓口の担当者が慌てて手を振った。
「い、いえ、そういうわけでは……」
「言葉に注意しろ。もう一度、よく見直してもらおうか」
サラの声は更に大きくなり、周囲の注目が一斉に集まる。砂漠で鍛えられたサラの声は、自然と威厳が滲んでいた。
騒ぎに気を取られた警備の兵が、窓口に駆け寄ってくるのを横目で見ながら、サラは更に声を荒げていく。
砂漠の古い言葉を交えながら、なおも抗議を続けるサラの周囲に、自然と視線が集まっていった。
*
フードを目深に被り、身を潜めていたクレイは、サラの騒ぎに人々が気を取られているのを見て、建物の奥に進んでいった。
研究室が並ぶ区画は、朝のこの時間、まだ人の気配は少ない。大抵の研究者は、もう少し遅い時間に出勤してくる。
やがてヴェルナー博士の研究室があったはずの場所に辿り着くが、ドアに掲げられた名札には、見知らぬ研究官の名前があった。
「まさか……」
扉の隙間から室内を覗くと、中には見慣れぬ調度品や書類が並んでいた。
その時、背後から声がかかった。
「おや、クレイ君か?」
振り向くと、そこには顔見知りの研究者が立っていた。予期せぬ再会に、相手も驚いた表情を浮かべている。
「……ご無沙汰しております。ちょっと、とある調査資料を調べに……」
口ごもりながらも、咄嗟にそれらしい理由を伝える。
「そうかね。最近は物騒でな。部外者の立ち入りには厳しくなっているから、気をつけたほうがいい」
「そうでしたか。しばらく遠くの発掘現場で調査をしていまして、久しぶりに戻ってきたものですから」
「なるほど。そういえば、最近姿を見なかったな」
「ところで」
クレイは周囲に他の人影がないことを確認すると、やや声をひそめた。
「ヴェルナー博士は所属を変えられたのですか?」
その言葉を聞くと、研究者はギョッとした表情を浮かべた。
「ヴェルナー博士……、ああ、そうだな……」
すぐに平静を装うが、その声と表情には明らかな動揺が見てとれる。
「ああ、そうだ。もし博士に用事があるなら、しばらくここで待っていてくれ」
そういうと、研究者は足早にその場を後にした。
「うかつに博士の名前を出したのは、失敗でしたね……」
状況が怪しくなったと察したクレイは、一度退散することを決めた。
しかし、出口に向かおうとした時、すでに複数の足音が廊下から響いてきた。
「この辺りにいたはずだ」
急いで廊下の角を曲がり、壁の陰に身を潜めると、先ほどの研究者が、数人の警備兵を連れて来るのが見えた。
甲冑の音が廊下に響き、クレイの存在を探るように、ゆっくりと近づいてくる。
その時、どこかで怒号が飛び交うのが聞こえた。砂漠なまりの言葉が、建物中に響き渡ると、警備兵の一人が慌てて駆け寄ってきた。
「大変です! 窓口で暴れているものが手に負えません!」
窓口の職員らしい男の救援要請を聞き、警備兵たちは足早に立ち去っていく。
「——今のうちに」
裏口から外に出たクレイは、表通りの喧騒が遠ざかった場所で、ようやく息を整えた。
そのとき、突然背後から肩を叩かれ、とっさに腰に差した剣に手をやり振り向くと、そこに立っていたのは、考古学協会で暴れているはずのサラだった。
「あたしの演技はどうだった?」
サラは口元に笑みを浮かべながら、軽く肩をすくめる。
「随分と派手になっちまったが、我ながら上出来だったと思うぞ」
その姿を見て、クレイはあらためて、ほっと息を吐き出した。




