↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
刻印の考古学者 〜冴えない能力の使い方〜  作者: 音鳴 凪
サルマン砂漠の神殿

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
21/68

20

 朝もやが集会場を包み込む中、砂丘の向こうから蹄の音が近づいてきた。

 騎兵隊を率いて現れたのは、サラの兄、アシュラフだった。


「よくやったな」


 砂漠の衣装に身を包んだ長身の青年は、静かに馬を降りると、妹に向かって微かに頷いた。


 アシュラフが跪かされたラシードに視線を向けると、その瞳に一瞬、凍てつくような冷たさが宿る。


「ラシードたる者が、汚名を晒すとはな」


 静かに告げられた言葉に、ラシードの体が震えた。

 アシュラフは部下たちに手短に指示を出すと、ラシードは身柄を拘束され、その場から連れ去られていく。


「兄様、すでにラシードの部下から、ソルステンから来た連中の居場所を聞き出してある」


「よし、そちらはお前に任せよう」


 アシュラフとの話がまとまると、サラはクレイの元に戻ってきた。


「今からソルステンの連中のアジトに踏み込む。あんたたちも一緒に来るかい?」


「はい、ぜひ。ライルたちとご一緒します」


 屋敷の一室に戻ると、待機していたライルとアルマは、クレイの無事な姿を見て、ほっと胸を撫で下ろした。


「どうでしたか、クレイさん」


 アルマが心配そうな面持ちで駆け寄る。


「ええ。詳しいことは道すがら話しますが、今からサラさんたちと共に、ソルステンの連中のアジトへ踏み込むことになりました」


「砂漠の民は決断も行動も早いですね」


「それは砂漠の民というよりは、サラさんが特に、かもしれませんが」


 神殿で危険を顧みず率先して切り込んでいき、衆目の中でラシードを弾劾してみせた、サラの決断力と行動力。

 クレイはこの短い間に見てきたサラの言動を思い出した。


「僕たちも負けてはいられません。お二人の準備は?」


「ええ。いつでも」


「私も大丈夫です!」


「相手の出方が分かりません。気を抜かないようにしましょう」


 クレイの言葉に、二人は表情を引き締めて頷く。


 三人が屋敷の外に出ると、既に馬を並べたサラの側近たちが待ち構えていた。



「サラ様、あの建物のようです」


 サラの側近の一人が、前方に佇む廃屋を指差した。

 町外れの古い建物は、周囲の砂丘に囲まれるように建っている。


「よし、各自、持ち場へ着け」


 サラの短い号令で、側近たちが建物を素早く包囲していく。


 クレイたち三人も馬を降り、サラとともに建物に向かう。


「何か、様子がおかしいですね」


 しかし、建物に近づくにつれ、異様な静けさが漂っているのが分かった。


「まさか……」


 クレイの言葉が終わらないうちに、サラは建物に向かって駆け出していた。


「サラ様! 危険です!」


 側近たちも慌てて建物内になだれ込むが、すぐに中から焦りの混じった声が響いた。


「何も、ありません……!」


 サラたちが踏み込んだ建物の中は、すでにもぬけの殻だった。

 慌てて荷物を運び出した跡、灰に混じって暖炉に残された文書の断片、それらが、ここを何者かが拠点にしていたことを示している。


「一足遅かったか……」


 サラの悔しげな声が、空虚な建物の中に響いた。



 町に戻ってきたサラたちは、アシュラフに呼ばれ、彼の屋敷でお互いの情報共有を行うこととなった。


 屋敷に着くと、クレイたち三人は応接まで待機させられ、サラのみがアシュラフに報告に向かった。


「ソルステンの連中との不正取引の証拠だ」


 サラが部屋に入って来ると、アシュラフは広いテーブルの上に並べられた装飾品を見せる。


「これらは砂漠の神殿から盗掘されたものだ。ラシードたちは許可なくこれらの遺物を取引材料としていたようだ」


「神殿の遺物を横流ししていたのか……」


「ことはそう単純でもない」


「どういうことだ、兄様?」


 アシュラフはラシードが身につけていた例の装飾品を手に取った。


「見てみろ。これはお前の能力を防いでいたと思われる代物だ」


「これは神殿の遺物ではない」


「……だとすると、これはソルステンの連中が持ち込んだということか」


「ラシードはあれから何も話そうとしない。だが、やつの態度を見るに、何か重大なことを隠している可能性が高い」


 話を聞いたサラは、腕を組み、何かを思案している様子だった。

 アシュラフは、その表情を見て、妹が何を考えているのかを察した。


「サラ、お前、まさか——」


「あたしが直接確認してこよう、ソルステンまで出向いて」


「しかし、慎重に事を運ばねばならん。相手の正体もまだ分からない……」


「このまま放っておけば、砂漠の遺跡は次々と荒らされることになる。あたしたちの掟が、完全に踏みにじられてしまう」


 それに、とサラが続けた。


「安心してくれ、ソルステンについては《《伝手》》がある」


 サラがそう言って部屋の外を目で示すと、アシュラフは理解したように小さく頷いた。



 サラがアシュラフとともにクレイたちの元へ戻ると、二人はこれまでの調査の状況を語った。


「砂漠の民の誇りにかけて、真実を明らかにしてもらいたい」


 そして、アシュラフは、そう言って話を締めくくった。


「はい。いずれにせよ、僕たちはソルステンに戻るつもりでした」


 クレイがそう言って振り返ると、アルマとライルも頷く。


「何かわかり次第、連絡をしますが、どのようにしたら良いでしょう?」


 ソルステンとヴァルデン砂漠までは相当の距離がある。


「そのことは心配しなくていい」


「サラさん、それはどういうことですか?」


 サラは一歩前に進み出ると、腰の曲剣の柄に手を添えた。


「あたしがソルステンまでともに行く。——守り継がれてきた掟を破る者たちに、裁きを加えるためにな」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。