18
クレイたちは、拠点として、サラが手配した屋敷に身を移していた。
その屋敷の広間で、クレイたち三人が今後の行き先を相談していると、夜も更けた頃にサラが屋敷を訪れた。
「やはり、あたしの予感は間違っていなかった」
その表情には深い陰りが浮かんでいる。夜風に乱れた赤茶けた髪が、いつもの凛とした印象を崩していた。
「……砂漠の民の中に内通者がいる」
「やはりそうでしたか」
クレイは神殿での一件を思い出す。
サラの案内でたどり着いた隠し通路だったはずが、そのルートを知られていたかのように、待ち伏せされていた。
「内通者の正体は分かっているのですか?」
「ああ。十中八九、ラシード家の仕業だ」
サラは重いため息をつきながら、その手は無意識に腰の曲剣に添えられている。
「この辺りの交易を取り仕切る有力商家だ。先代当主は、守護者としての誇りを何より大切にしていた。だが、当主が変わってからは、商人としての利益を優先するようになった」
「そのラシード家に、ヴェルナー博士の一派が接触したのでしょうか?」
「あいつらも商人だ。夢物語のような話に飛びついたりしない。……となると、相手は何か、大きな話を持ちかけたはずだ」
「歴戦の商人をも惑わす何か、ですか」
「その正体はあいつらから聞き出せば分かることだが、それよりも、この話にはおかしな点がある」
サラは自分の目の下にある刻印を指さした。
「このあたしがいながら、裏切りなんてものが通用すると、なぜ思ったかだ」
「あ……サラさんの刻印は、たしか」
アルマはサラとの最初の出会いを思い出した。
《あたしの能力は『看破』。この目には嘘が見えるんだ》
「……今から話すことは他言無用だ。あんたたちは信頼できると、あたしの能力と、《《勘》》がいっているから話すんだ」
サラはそこまで話すと、あらためてクレイたちの顔を見てから言葉を続けた。
「あたしの能力は、絶対に嘘が見破れるわけじゃない」
「それは、何か能力を阻害する条件があるのですか?」
「一つは、意志の強いやつだ。嘘の気配のようなものは感じ取れるが、そういうやつの中には、嘘をついても気配を出さないやつがいる」
そう言って、サラは目の前のライルに視線を合わせた。
「たとえば、あんたみたいなやつだ」
突然のことに、ライルは苦笑いを浮かべた。
「なるほど、僕もそれは分かる気がします。でも、ライルは悪い人間ではありません」
ライルをフォローするようなクレイの言い方に、サラは笑ってみせた。
「分かってるさ。さっき言っただろう。そいつ含めて、あんたたちは信用できると思ってるさ」
嘘を暴くのではなく、嘘の気配を感じ取る。
感情を抑え込める相手ほど、その気配は薄くなるのだろうと、クレイは受け取った。
「あたしは自分の能力を過信していない。嘘を見破る時も、能力だけではなく、自分の経験と勘も頼りにしてる」
「ラシードさんも商人ですから、嘘が分かりづらいのですか?」
「そうだな。だが、重要なのは、あたしの能力が完全でないことは知らないってことだ」
サラは自分の刻印の能力が、嘘を見破るものだと公言している。実際にその能力を使っているところを見せてもいるのだろう。
実際には完全な能力ではなかったとしても、そう思っているはずの相手が、それを知って裏切るとは思えない。
「それから、もう一つは、あたしの力を無効にするような能力を持つやつがいた場合だ。そういうやつに会ったことはないが、いないとは言い切れない」
刻印の能力を封じる能力。
クレイもそうした能力のことを聞いたことはないが、サラの言うとおり、いないとも断言できない。
「もしくは、刻印の能力を封じるアイテム、そういうものがあったとしたら……」
「その可能性は高いな。ラシードたちが《《どこからか》》そうしたものを手に入れた。そして、きっとそれ以上の『何か』を見せられたかもしれない。――商人が動くのは、より大きな利益が見えた時だけだ」
ラシードに突然能力が目覚めたとは考えづらい。
だとするならば、何かしら、それを可能にするための手段を手に入れたと考えた方が良さそうだ。
「そのラシードという商人が何をしているか、探る手立てはあるのですか?」
「明日、あたしの信頼できる商人を何人か呼んでみるつもりだ。ラシードの動きを探るのと同時に、連中がどんな『取引材料』を持っているのか、それも探れるかもしれない」




