↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
刻印の考古学者 〜冴えない能力の使い方〜  作者: 音鳴 凪
サルマン砂漠の神殿

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
16/68

15

 砂漠に向かう三人の旅路は半月を越えようとしていた。


 途中いくつかの遺跡を調査しつつ、移動と休息を繰り返し、ようやく砂漠の手前の町が見えてきていた。

 途中で手に入れた馬で移動の時間は短縮されたとはいえ、日差しは徐々に厳しさを増し、風の匂いは乾燥した大地の香りへと変わっている。


「あの人物はヴェルナー博士と親密な関係だったはずです」


 町に着いた翌日の朝、朝市で賑わう人混みの中に、クレイは見慣れた顔を見つけていた。


「ヴェルナー博士がこの町に来ているのでしょうか……」


 アルマが訝しげに首をかしげる。


「どうでしょうか。ヴァルデン山脈からここまで追跡されていたとは思えませんが」


「先生と同じ考えで、ヴェルナー博士たちもこの砂漠を調査しに来ている可能性は?」


 ライルは地図を広げ、砂漠の遺跡の位置を指差した。


「博士が氷河の遺構に関心を持っているなら、関連する遺跡として、ここにも目を向けているはずです」


 第二王朝期の遺構群。歴史の中に隠された謎。

 それらを結ぶ点として、砂漠の遺跡もまた重要な意味を持っているはずだった。


「もし博士たちが同じ目的を持ってここに来ているとしたら、何としても先手を打ちたいところです」


「まず相手の動向を探る必要がありますね」


「たしか、神殿は砂漠の民が管理していて、彼らの協力なしには手を出すことはできないはずです」


 サルマン砂漠には「砂漠の民」と呼ばれる一族がいる。


 砂漠周辺には複数の民族がそれぞれの集団を形成しているが、統一された国は存在しない。

 その代わりに、砂漠の民が各集団の代表者らと共にゆるやかな連合統治を行っているのだ。


「先生、六年前の調査の時も確か」


「ええ、あの時も砂漠の民に協力してもらいました」


「この町のバザールは彼らが直接取り仕切っていたはずです。私なら、何とか接触を図れるかもしれません」


 砂漠の民の協力を得られれば、神殿の調査も進めやすくなる。


「ライル、お願いできますか。でも、決して無理はしないように」


 クレイの言葉に、ライルは拳で胸を叩いてみせた。


「任せてください。さっそく明日、バザールに出向いてみます」



 夕刻近く、クレイとアルマはライルの案内で町外れを訪れていた。


「指定されたのはこの先です」


 ライルはあの後、何度かバザールに通い、砂漠の民と接触を持つことに成功していた。


 そしてこの日、砂漠の民が指定した場所で、クレイたちを交えて本格的な交渉を行うことになっている。


 指定された場所に着くと、そこにあったのは目立たない民家だった。日干し煉瓦で作られた二階建ての建物は、砂漠の暑さを防ぐ厚い壁と小さな窓を持ち、内庭を中心とした伝統的な造りをしている。


 入り口に立っていた男に、あらかじめ伝えられていた合言葉を伝えると、三人は応接間に案内された。

 簡素なテーブルと椅子が何脚か置かれているだけで、普段は使われていない様子が窺える。


 しばらくして、屈強な側近たちを引き連れて現れたのは、意外にも若い女性だった。


 赤茶けた髪を色鮮やかなターバンでまとめ、深い褐色の肌には砂漠の日差しが残っている。

 年齢は二十を超えていないだろうが、周囲を警護する側近たちも一目置くような威厳を感じさせた。


「あたしたちに用があるっていうのは、あんたたちかい?」


 女はクレイたちの向かいに座るなり、そう切り出した。

 はきはきとした声には、わずかに南方なまりが混じっている。


「あたしはサラ・ミリア・アデール。サラでいい」


「クレイヴァー・ストランドです。クレイと呼んでください」


 クレイは砂漠式のお辞儀を返すと、同席するライルとアルマを紹介した。



「なるほど、神殿の調査ね」


 サラの目は机の上に広げられた地図に落とされていた。


「それにしても、たった三人で、しかも随分と急いでるみたいじゃないか」


「……確かに、僕たちはある事情を抱えています」


「先生、いいのですか?」


 砂漠の民との話し合いを前に、クレイたちはあらかじめどこまで話すかを相談していた。

 最終的にはクレイがその場で判断することになってはいたが、それにしても、まだ相手が信用できるのか見極められていない。


「砂漠の神殿は昔からあたしたちの神聖な領域だ。どういう事情があるにせよ、軽々しく部外者を入れるわけにはいかない」


「はい、それは六年前の調査の時にも伺いました。あの時も、砂漠の民の方々には大変お世話になりました」


 サラは一瞬言葉を切り、三人の表情をなぞるように見る。


「……六年前というと、あの時か」


「サラ様、事情持ちとは、何か怪しいのでは」


 横から側近の一人が制するように声を掛けたが、サラは右手を軽く上げて制した。


「砂漠の民には守るべき掟がある。そして、神聖な場所を守る義務も」


 その時、彼女の右目が微かに輝きを帯びた。


「そして、あたしの役割は――真実を見極めることだ」


「あなたも刻印の能力を?」


「そうさ。あたしの能力は『看破』。この目には嘘が見えるんだ」


 そういうと、サラは、三人の顔を順番に見ていく。


「この能力は相手に伝えた方が効果が出るんだが……。あんたと横の男は肝が据わってるようだ」


 サラは三人の反応を楽しむように小さく笑う。


「あんたたちは、嘘をついてない。でも、何か重要なことを隠している、そうも感じる」


 クレイたちに、サラの能力が本当か確かめる術はなかった。

 だが、まだ年若い彼女がバザールの取引を一手に取り仕切っているという事実は、その能力を裏付けるなによりの証拠にも思えた。


「私たちが取れる選択肢は限られています。クレイさん、サラさんに私たちの事情を話しましょう」


「賛成です、アルマさん」


 クレイはアルマに頷きかけ、ライルにも目配せで同意を得ると、自分たちが砂漠を訪れた理由を語り出した。


「――そういうわけで、まだ僕たちにもわからないことが多いのです」


 クレイたちもすべてを理解できているわけではない。

 しかし、サラが本当に嘘を見抜く能力を持っているのであれば、隠し事をしているわけではないことは伝わるはずだった。


「少し前に、ソルステンから来た学者連中から、同じように神殿の調査協力の申し出があった」


 腕組みをして話を聞いていたサラは、チラリと後ろに控える側近たちに目配せしてから、言葉を続けた。


「だが、あいつらの言葉には嘘がまとわりついていた。きっぱり断ってやったはずだが、まだこの町をうろついているようだな」


「やはり、博士たちが」


 サラはやおら立ち上がると、腰に下げていた曲剣の鞘に指を滑らせる。


「分かった。あんたたちに協力しよう」


「サラ様! 族長のお許しも、お兄様の判断も仰がずに」


「お父様や兄様は関係ない。この刻印を持つあたしにしか見えない真実がある。それに」


 サラは右目の下の刻印に触れ、三人をまっすぐに見据えた。


「このあたしが同行して監視する」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。