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「あそこに何か見えますね」
数日後、南に向かって旅を続けるクレイたちの前に、見慣れない建造物が現れた。
「昔の監視所跡のようです。当時の街道を見下ろせる場所に設けられたものではないでしょうか」
「先生、立ち寄ってみますか?」
「せっかくの機会です、行ってみましょう」
ライルは建造物の位置を確認すると、先行して馬を走らせ、安全なルートがないか確認していく。
「こちらから行けそうです」
街道の横に馬で通れる幅の道が見つかった。
「行ってみましょう」
建造物に近づくと、その大きさが分かってくる。
「かなり古いですね。建造物自体は第二王朝期の時代に造られたものに見えます。しかし――」
苔むした石壁の一部には、明らかに王朝期とは異なる技法で組まれた部分があった。
「この下には元々もっと古い建造物があったようです。古い遺構の上に自分たちの建造物を造る――第二王朝期に多くみられるものです」
「地形的な要所は、時代が変わっても同じですからね」
ライルが松明を灯し、慎重に内部へと足を踏み入れる。
「お二人とも足元に気をつけて」
三人は松明の灯りを頼りに、石造りの通路を進んでいく。途中、小部屋がいくつか見つかったが、いずれもかなり荒れ果てていた。
「ここなら、少し休めそうです」
広間のような空間で、ライルが周囲の安全を確認する。
「アルマさん、ちょっとこれを見てください」
クレイが指差す先には、掠れた文字のようなものが刻まれていた。
「アルマさんの刻印で読み解けますか?」
アルマが壁面に手をかざすと、刻印が淡い輝きを放つ。
「何かの儀式のような内容ですが、うまく読み取れません」
「儀式?」
監視所には相応しくない言葉に、クレイは、ここはもしかして、ただの監視所ではないのだろうかと疑問に思う。
「先生、こっちに階段があります」
ライルの指差す先には、崩れかけた扉があり、その奥には地下に続く階段が見えた。
松明で照らしてみるが、階段の先は暗闇で見えない。
「地下に続く階段ですか。あまり見ない構造ですね」
「引き返しますか?」
「……いえ、行ってみましょう。この施設は何か特殊な役割を持っていたのかもしれません」
*
長い階段を下りると、その先には玄室とおぼしき空間が広がっていた。
「やはりここはかなり古い時代の建造物です。おそらく地上にあったものは……」
クレイの言葉は、突然の振動によって遮られた。
床を這うような振動が響き、それは次第に大きくなっていく。
「上です!」
ライルの警告と同時に、天井から巨大な影が降り立った。
人の形を模しているが、その姿は明らかに人ではない。石と金属を組み合わせたような不思議な光沢を放っている。
「先生、そっちにいきます!」
ライルの警告の声に、クレイは咄嗟に腰の剣を抜く。
「アルマさんは下がって!」
人型の魔像は想像よりも素早い動きを見せ、あっという間にクレイとの間合いを詰める。
その重い腕が振り下ろされたが、クレイはなんとか剣で受け止める。
剣が青い光を放ち、魔像の拳を弾き返す。
「こいつ!」
ライルが魔像の後ろから切り掛かるが、硬い表皮に短剣が弾かれてしまう。
魔像はライルに狙いを変えて腕を振り回すが、ライルは巧みに位置を変え、攻撃をかわしていく。
「硬い!」
ライルは何度も魔像に斬り付けるが、わずかな傷をつけることしかできなかった。
「クレイさん! 試したいことがあります。……時間を、時間をください!」
後ろからアルマの声を聞くと、クレイはライルに目配せした。
「ライル!」
「分かってます!」
二人は魔像の左右に散り、交互に斬りかかる。クレイの剣が弾かれ、ライルの短剣が滑る。
有効な一撃は与えられないが、魔像の注意はアルマから逸れていた。
その時、魔像が不意に身を翻し、その矛先をアルマの方へ向けた。
「アルマさん!」
クレイが割り込み、剣で魔像の腕を受け止めると、再び青い光が弾け、魔像の動きが一瞬止まった。
その隙にライルがアルマを引き寄せ、距離を取る。
魔像が重い拳を振り下ろす度に、足元の石畳にひびが走った。
「準備ができました! クレイさん、ライルさん、下がってください!」
アルマの声に、二人が大きく跳躍した次の瞬間、眩い光が玄室を満たした。
アルマの手から放たれた稲妻が魔像に直撃すると、石と金属でできた体が大きく痙攣し、やがて動きを止めた。
「今のは……私が……?」
アルマは自分の両手を見つめていた。
その指先にはまだ微かな痺れが残っている。
「アルマさん、体は大丈夫ですか」
「遺構で見た記憶の中に、こういう術式があったんです。でも、まさか自分に使えるとは思っていませんでした」
アルマの表情には困惑が色濃く残っていた。
「文字を読むだけでなく、そこに記された術式まで再現できるのですか?」
「いえ、今までこんなことはしたことがありません。ただ、体が勝手に動いたような……」
ライルは魔像の傍らに膝をつき、動きが完全に止まっていることを確認していた。
「どうやら大丈夫そうです」
*
魔像の動きが完全に止まったことを確認すると、三人は手分けをして玄室を調査した。
やがてクレイが崩れ落ちた魔像の向こうに、小さな祭壇を発見した。
「先生、これを見てください」
祭壇の中央には古びた装飾品が置かれていた。
クレイが左手を近づけると、考古学の刻印が反応する。
「腕輪のようですね。かなり古い様式です」
クレイがさらに手を近づけると、刻印が強い光を帯び、見る間に腕輪の錆びついた金属が輝きを取り戻していく。
「これは……剣の時と同じ……」
「やはり、第二王朝期の遺物でしょうか?」
「ええ、時代については間違いなさそうです。しかし、どういった効果があるのか、そこまでは分かりません」
「あの魔像がこれを守っていたのなら、何か重要なものなのでしょうか」
アルマは恐る恐る腕輪を覗き込む。
「――しっかりした調査を行えば、何か分かるかもしれません」




