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刻印の考古学者 〜冴えない能力の使い方〜  作者: 音鳴 凪
ヴァルデン山脈の遺跡

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13

 通路はしばらく上り坂が続いたが、やがて平坦な道へと変わった。


「分岐があります」


 ライルが松明を掲げ、前方を照らす。


 通路は二股に分かれ、それぞれが闇の中へと続いていた。


「こうした神殿遺構においては、非常時の避難経路は決して単純な構造ではありません。関係者以外の侵入を防ぐため、複雑に入り組んでいます」


 クレイは分岐点の床面に刻まれた文様を指差した。


「しかし、その多くに似たような構造があります。ライル、それぞれの道の様子は?」


「右は通路は下っています。左は緩やかな上りでした」


「この構造なら、右はおそらく別の儀式用の空間に通じているかもしれません。地上への出口は左の可能性が高いと思います」


「俺も、より危険が少ないのはこちらだと感じます」


 ライルの言葉にクレイは頷く。長年の付き合いの中で、ライルの判断が間違っていたことはなかった。


「左に行きましょう」


 左側の通路は緩やかな上り坂を描きながら、何度も方向を変えていく。しかし、確実に上昇を続けていることは分かった。


「温度が変わってきました」


 ライルの声に、三人は足を止めた。


 確かに、空気が少しずつ冷たくなっている。そして、前方からわずかに、風の音が聞こえ始めていた。

 さらに歩を進めると、やがて小さな広間に着いた。その先にある石段の上からは、薄明かりが差し込んでいる。


「外の空気は久しぶりに感じます」


 アルマは疲れ切った足をさすりながら、外の新鮮な空気を吸い込んだ。


 そこは岩場の陰になった場所だった。出口は巧みに周囲の岩に溶け込むように作られている。

 外は既に夕暮れ時で、遠くにヴァルデン山脈の峰々が、夕日に照らされて赤く染まっていた。


「遺構からはかなり離れた場所のようです。街道からも外れていますね。追手の目も届かないでしょう」



 三人は岩陰に身を寄せ、持参した水と携帯食で簡単な休息を取った。

 ひと息ついたところで、アルマは大切そうに文書の束を取り出した。


「遺構で見つけた文書には、重要なことが記されていました」


 静かに切り出してから、アルマは一度言葉を切った。


「私が記憶で見た人物——第二王朝最後の王は、あの力を完全に消し去る方法を見出していたようなんです」


 彼女はクレイの腰に下がった剣に目を向けた。


「クレイさんの剣は、最後の王が持っていた剣です」


「王の剣?」


 クレイは思わず腰の剣に触れた。


「はい。王は優れた魔術師の力を持っていたようですし、その剣にも何か別の力が込められているのかもしれません」


 アルマは文書の記述を追いながら説明した。


「まだすべてを読み取れたわけではないのですが、あの水晶中に蓄えられていたのは『星の力』と呼ばれるもののようです」


「星の力、古の王朝はその力を利用していた……」


「はい。力の起源はそれよりもずっと古いようですが」


 アルマは目を閉じて、遺構でみた風景を思い出す。


「私が見た記憶の最後の風景、あれが第二王朝最後の日だったのかもしれません」


「第二王朝の終焉は星の力が関係していたと?」


 アルマはクレイの言葉に深く頷く。


「最後の王は、星のエネルギーを危険と判断し、完全に消し去る方法も見つけ出していたようです。しかし、その方法を実現することはできなかった」


 クレイは考え込むように目を伏せた。


「まだ分からないことが多いですね」


「文書の内容からすると、王は何か重要な発見をしていたはずなんです。でも、それを成し遂げるために必要な何かが、足りなかった」


「街に戻って調査をしたいところですが、街には戻れませんね」


 クレイが遠くの山並みを見つめながら言った。


「……南方に向かいましょう」


「南方ですか?」


「ええ。六年前、私が調査した遺跡があります。そこにも、今回の遺構と同じような文様が刻まれていた。当時は気づきませんでしたが」


「私も、行きます。この文書の謎を、最後まで解き明かしたい」


 アルマは文書を丁寧に収めながら言った。


「もちろん俺が案内します。街道を避けて南下できる山道を知っています」


 ライルが立ち上がり、南方を指差した。


 三人は最後にヴァルデン山脈を振り返り、そして暮れなずむ空の下、南へと歩き始めた。




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