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通路はしばらく上り坂が続いたが、やがて平坦な道へと変わった。
「分岐があります」
ライルが松明を掲げ、前方を照らす。
通路は二股に分かれ、それぞれが闇の中へと続いていた。
「こうした神殿遺構においては、非常時の避難経路は決して単純な構造ではありません。関係者以外の侵入を防ぐため、複雑に入り組んでいます」
クレイは分岐点の床面に刻まれた文様を指差した。
「しかし、その多くに似たような構造があります。ライル、それぞれの道の様子は?」
「右は通路は下っています。左は緩やかな上りでした」
「この構造なら、右はおそらく別の儀式用の空間に通じているかもしれません。地上への出口は左の可能性が高いと思います」
「俺も、より危険が少ないのはこちらだと感じます」
ライルの言葉にクレイは頷く。長年の付き合いの中で、ライルの判断が間違っていたことはなかった。
「左に行きましょう」
左側の通路は緩やかな上り坂を描きながら、何度も方向を変えていく。しかし、確実に上昇を続けていることは分かった。
「温度が変わってきました」
ライルの声に、三人は足を止めた。
確かに、空気が少しずつ冷たくなっている。そして、前方からわずかに、風の音が聞こえ始めていた。
さらに歩を進めると、やがて小さな広間に着いた。その先にある石段の上からは、薄明かりが差し込んでいる。
「外の空気は久しぶりに感じます」
アルマは疲れ切った足をさすりながら、外の新鮮な空気を吸い込んだ。
そこは岩場の陰になった場所だった。出口は巧みに周囲の岩に溶け込むように作られている。
外は既に夕暮れ時で、遠くにヴァルデン山脈の峰々が、夕日に照らされて赤く染まっていた。
「遺構からはかなり離れた場所のようです。街道からも外れていますね。追手の目も届かないでしょう」
*
三人は岩陰に身を寄せ、持参した水と携帯食で簡単な休息を取った。
ひと息ついたところで、アルマは大切そうに文書の束を取り出した。
「遺構で見つけた文書には、重要なことが記されていました」
静かに切り出してから、アルマは一度言葉を切った。
「私が記憶で見た人物——第二王朝最後の王は、あの力を完全に消し去る方法を見出していたようなんです」
彼女はクレイの腰に下がった剣に目を向けた。
「クレイさんの剣は、最後の王が持っていた剣です」
「王の剣?」
クレイは思わず腰の剣に触れた。
「はい。王は優れた魔術師の力を持っていたようですし、その剣にも何か別の力が込められているのかもしれません」
アルマは文書の記述を追いながら説明した。
「まだすべてを読み取れたわけではないのですが、あの水晶中に蓄えられていたのは『星の力』と呼ばれるもののようです」
「星の力、古の王朝はその力を利用していた……」
「はい。力の起源はそれよりもずっと古いようですが」
アルマは目を閉じて、遺構でみた風景を思い出す。
「私が見た記憶の最後の風景、あれが第二王朝最後の日だったのかもしれません」
「第二王朝の終焉は星の力が関係していたと?」
アルマはクレイの言葉に深く頷く。
「最後の王は、星のエネルギーを危険と判断し、完全に消し去る方法も見つけ出していたようです。しかし、その方法を実現することはできなかった」
クレイは考え込むように目を伏せた。
「まだ分からないことが多いですね」
「文書の内容からすると、王は何か重要な発見をしていたはずなんです。でも、それを成し遂げるために必要な何かが、足りなかった」
「街に戻って調査をしたいところですが、街には戻れませんね」
クレイが遠くの山並みを見つめながら言った。
「……南方に向かいましょう」
「南方ですか?」
「ええ。六年前、私が調査した遺跡があります。そこにも、今回の遺構と同じような文様が刻まれていた。当時は気づきませんでしたが」
「私も、行きます。この文書の謎を、最後まで解き明かしたい」
アルマは文書を丁寧に収めながら言った。
「もちろん俺が案内します。街道を避けて南下できる山道を知っています」
ライルが立ち上がり、南方を指差した。
三人は最後にヴァルデン山脈を振り返り、そして暮れなずむ空の下、南へと歩き始めた。




