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刻印の考古学者 〜冴えない能力の使い方〜  作者: 音鳴 凪
ヴァルデン山脈の遺跡

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「クレイさん、この文様を見てください」


 アルマは床面の幾何学的な模様を指差していた。文様は水晶柱からの光を受けて微かに輝いている。

 アルマがその上に軽く手を置くと、左手の刻印が反応を示した。読解術の能力が、かつてそこに刻まれた言葉の意味を少しずつ明らかにしていく。


「これは、制御のための術式のようです。水晶に流れ込むエネルギーを安定させるための。でも、これだけでは不完全で、何か重要な要素が欠けているようなんです」


 クレイは水晶と床面の文様の関係を観察しながら、ゆっくりと円を描くように歩いていく。放射状に配置された水晶群は、まるで巨大な装置の一部のようだった。


 その時、水晶群の一つが不規則な光を放った。

 その青白い輝きは、他の水晶にも連鎖するように伝わっていき、描かれた線が光の帯となって水晶を繋いでいく。


「エネルギーが不安定になり始めているようです。制御するための術式を——記憶から読み取った術式を試してみます」


 アルマの指が何かの術式を描き始める。その動きに呼応するように、床面の文様が青白い光を放つ。

 最初の印が結ばれると、かすかな振動が水晶を走った。


 しかし、術が進むに連れて、水晶の輝きが不規則に増していく


「何かおかしいです。このままでは……」


 中央の水晶が不気味な唸りを上げ、青白い光が渦を巻くように激しさを増す。

 アルマの指が震え、術式の一部が崩れかける。


「二人とも、後ろへ!」


 突然のライルの声に、クレイとアルマは咄嗟に後ろに飛び退いた。

 その直後、天井の一部が崩落し、二人がいた場所のすぐ横に落ちてきた。


「このままでは危険です」


「何か、何かが足りません」


 アルマは息を切らせながら、一度術式を解き、再び文書に目を落とす。

 アルマの刻印が青白く輝き、文字の意味が浮かび上がる。過去の記憶と、目の前の光景が重なっていく。


「水晶です!この水晶の中に制御のための装置があるはずです」


 クレイとライルが水晶に近づき、内部を注意深く観察すると、それぞれの水晶の中心には、幾何学的な形をした装置が見えた。


「見比べると、いくつかの装置が損傷しているようです」


「見たことのない仕組みです。先生は心当たりがありますか?」


 クレイは腰の剣に手をあてた。この剣と同じように、刻印の力で当時の姿に戻せるかもしれない。


「もしかしたら、僕の刻印で修復が可能かもしれません」


「また崩落があるかもしれません。急いだ方が良さそうです」


 クレイはライルの言葉に頷くと、左右の端に位置する水晶から順に、内部の装置に向かって触れていく。


「入り口では刻印の能力がうまく働きませんでしたが、今度はどうだ……」


 クレイが装置に触れると、刻印が淡い光を放った。


「刻印の力が戻っています!」


 刻印が一瞬強く輝くと、次の瞬間には装置が本来の姿に戻っていく。


「うまくいきそうです」


 その時、水晶群全体が大きく明滅を始め、アルマはもう一度、術式を紡ぎ始める。


 最初の印が描かれると、水晶が反応を示した。

 二つ目の印が描かれると、エネルギーの流れが少しずつ整い始めていく。

 さらに三つ目の印を結ぼうとした時、水晶からの反発が強まった。


 アルマの体が、見えない力によって後ろに押し戻される。


「ライル!アルマさんを支えてください!」


 アルマはライルの助けを借りて体制を整えると、指を振るわせながら印を紡ぎ続けた。


「よし、装置はこれですべて修復したはずです!」


「もう、少し……」


 そして、最後の印が結ばれた。


 術式の光の帯が、水晶群を完全に包み込むと、激しく渦を巻いていたエネルギーが、ゆっくりと、しかし確実に落ち着きを見せ始めた。


 水晶の輝きは穏やかさを取り戻し、床面の文様も安定した光を放つようになる。


「あちらに……文書に記された通路が……かつて、祭司たちが使っていた抜け道が」


 術式を解いたアルマは、荒い息をつきながら部屋の一角を指差した。


「振動は収まってきていますが、油断はできません。行きましょう」


 ライルが先行して安全を確認すると、クレイがアルマを支え、三人は薄暗い通路へと踏み込んでいった。




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