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刻印の考古学者 〜冴えない能力の使い方〜  作者: 音鳴 凪
ヴァルデン山脈の遺跡

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11

 階段の両側に刻まれた文様は、下へ進むにつれてその密度を増していた。


「この階段、まだ続きそうですか?」


 アルマの声には僅かな疲れが混じっている。


「いいえ、ようやく着いたようです」


 ライルが前方を指差す。


「あれを見てください」


 松明の光が闇を押し広げると、巨大な空間が姿を現した。


 円形の広間は、想像以上の広がりを持っていた。

 中央から放射状に延びる通路は、巨大な星を描くように配置されていた。天井は闇に溶け込むように高く、その存在すら定かではない。


 しかし、最も目を引いたのは広間の中央に佇む巨大な水晶群だった。


 淡い青色の光を放つそれらは、まるで氷柱のように林立し、その一つ一つが人の背丈を優に超えている。

 水晶の表面には細かな模様が刻まれ、内部では光が渦を巻くように流れていた。


「これが遺構の核なのでしょうか」


 アルマの言葉に、誰も即座には答えなかった。

 三人は息を呑むように、幻想的な光景に見入っていた。水晶から放たれる光が、かすかな体温のような暖かみを帯びている。


「床の文様を見てください」


 アルマの足元から、複雑な幾何学模様が広がっていた。

 まるで星座を地表に写し取ったような文様は水晶群を中心に配置され、その一つ一つが微かな光を帯びている。

 光の帯は水晶に向かって収束するように描かれ、それは巨大な制御回路のようにも見えた。


「アルマさん、何か読み取れますか?」

「少し時間をください」


 アルマは古文書の筒から一枚の羊皮紙を取り出した。探検隊の記録と見比べるように、床面の文字に目を走らせる。

 やがて、彼女は一点に跪くように身を屈め、文様に触れた。


 その瞬間、彼女の意識は、再び遠い記憶の中へと引き込まれていく。



 最初に見えてきた光景は、儀式の場面だった。


 白装束の人々が水晶を取り囲むように立ち、低い詠唱を捧げている。

 彼らの足元に描かれた文様が次々と輝きを帯び、まるで生命を持ったように蠢き始める。


 中央の水晶群が共鳴するように光を放ち、エネルギーが制御された流れとなって還っていく。

 穏やかな光の中で、詠唱は厳かに続いていたが、アルマの意識は、その場の緊張感と畏怖の念を痛いほど感じ取っていた。


 しかし、その光景は突如として別の情景へと変わる。


 血に染まった床。倒れ伏す人々。


 水晶は不安定な輝きを放ち、制御を失ったエネルギーが渦を巻いている。エネルギーは人々の意識を侵食し、狂気の叫び声が神殿に満ちていた。


 その混沌の中で、一人の人物が立ち上がる。男は長い金色の衣に身を包み、右手には不思議な輝きを放つ剣を掲げていた。

 そして、周囲の狂気にも動じることなく、決意に満ちた詠唱を始める。


 剣を掲げた人物の背後では、神殿の守護者たちが最後の力を振り絞って術式を展開していた。彼らの詠唱が重なり合い、新たな封印の力となって暴走するエネルギーを押し戻していく。


 しかし、それは完璧な封印ではなかった。力の一部は依然として制御不能なまま、さらに深い封印の中へと押し込められていく。


 剣を持つ人物の表情には、何かを決意したような、そして何かを諦めたような複雑な感情が浮かんでいた。



「アルマさん!」


 クレイの声に、彼女の意識は現実へと引き戻された。


「……私、見ました……記憶を」


 アルマはライルが手渡した水筒から水を一口飲むと、先ほど見た映像を思い返す。


「何かの封印の儀式と、そして……時を経た別の光景。力を解放しようとした時の、恐ろしい記憶」


 アルマは部屋を見渡すと、石造りの祭壇を見つけた。


「あれです。あの祭壇の下。私が見た記憶の中で、彼らは何かを隠していました」


 アルマは古い石造りの祭壇の前で立ち止まり、その表面を慎重に確かめる。


「動かせそうです。先生は向こう側を」


 クレイとライルが力を合わせると、古い祭壇が少しずつ動き始めた。その下から、布で丁寧に包まれた何かが姿を現す。


 慎重に布を解くと、中から古びた文書の束が現れた。時を経て脆くなった羊皮紙は、触れようとするだけでも崩れそうだ。


「これは最後の王の記録です。力の危険性についての警告、そして……」


 アルマは一度言葉を切り、文書をさらに読み進める。その表情には次第に驚きの色が浮かんでいく。


「この力を完全に消し去る方法」


「消し去る? 何のために力を」


 アルマはまだ文書に目を落としたまま、古の文字が秘める意味を理解しようとしていた。


「氷河の振動が変わってきています」


 ライルが水晶群の方を見やる。


「詳しい解読は、安全な場所で」


 三人の頭上で、神殿の天井が不吉な音を立て始めていた。


「そうですね。まずはこの部屋の他の箇所を調べてみましょう」



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