69話 羊の群れ
夜の休息前にホークから連絡が入った。
今日の俺たちの活動記録を確認したそうだ。
(すいません、ファルス外政官。私たちがしたことが今回のオーガ参戦の原因になっていました。)
(それは、いいぞ。あの時点で今日の事は予測できんだろう。)
ホークが言っているのは、ゴブリン共の採掘穴を土砂で埋めた事だ。
(はい、ありがとうございます。そのオーガの話で気になる点があります。)
(なんだ?)
(消えた丘とその後にできた湖です。丘陵地帯の中央に位置する湖の事だと思われます。)
(数百年前に山が震えてって話だな。大規模な地震が起きたのかな。)
(はい。メティスに確認しましたが、この地域に火山はありませんでした。地震はおきないと予想されます。)
(そうか。だが俺たちも地震などの自然災害についてはメティスの知識だけが頼りだが、そのメティスも惑星関係は完璧ではないからな。)
(はい。そこで、その湖の湖底を調査しようと思います。)
(そうか。だが、数百年前の湖が出来た原因を探るとなると、相応の機材がいるな。)
(はい。ですのでナンドゥールに湖底調査機を4機用意してもらいます。この湖底調査機が湖底を自走し地中の状況を確認します。
明日の0900には用意できますので、こちらに取りに来ていただけますか。)
(分かった。リサと取りに行く。)
(お願いします。)
◇
朝食後。
「そういう訳で、俺とリサは0900に一度カッシーニ81に戻るからな。」
「了解。」
「ホークも考え過ぎじゃろうに。エの国の鉱山と一緒で、丘に穴掘ったら丘が潰れて地下水が出てきたのではないのか?」
「まぁ、クリスの言う通りかもしれんが、調査はロボット任せだ。手間は掛からんぞ。」
「そうじゃな。で、うちらはゴブリン共を狩ればいいんじゃな。ファルス。」
「ああ、頼む。」
「よし。南に逃げた奴の位置を確認したら、後は倒していいんじゃったな?」
「そうだな。」
「よし。朝食は食べたか?行くぞ!」
「クリス、落ち着け。」
「そうですよ、まだお茶飲んでませんよ。はい、どうぞ。」
「ああ、ありがとう。リサ。」
「それに、出発は少し遅めの方が良くないですか?」
「どうした、キキ。」
「いえ、オーガは昨日帰しましたけど、まだ村には着いてないですよね。
と、すると、オーガの村の方は2人と飛竜が帰って来ないことを心配しているんじゃないかと。」
「そっかぁ、心配して別のオーガが飛竜に乗って飛んで来るかも。
でも、それを気にしちゃうと、ここから動けないよ、キキ。」
「うむ。その通りじゃな、レベッカ。
キキ、その予想は、これから起こり得る可能性の一つじゃ。
敵の行動を予想するのは良い事じゃが、それを気にしすぎて自らの行動を縛ってはいかんぞ。
起きることを予想したら、対応策を立てておくのじゃ。
そうしておいて、本来の行動を実行するのじゃぞ。」
「なるほど。ありがとうございます。クリス副長。」
「で、クリス。飛竜が飛んできたらどうするんだ?」
「もちろん、叩き落とすだけじゃぞ。ファルス。」
「そうだな。」
ブライアンが俺を見たが、頷いておいた。
まぁ、俺とリサが湖の調査で今日は北方に残れば良いし、ゴブリン共も40km以上は南に行ってないだろう。
0830にクリス達は南に飛び、俺とリサはカッシーニ81に戻った。
◇
ホーク建設管理官はホーキンス生産部管理官と一緒に生産管理室にいた。
アレクと第一班副長のジェリーもいる。
「おはようございます。」
「おう、ファルス。」
「おはようございます。カン外政官。リサさん。早かったですね。」
「湖の調査が気になってな。」
「出来上がりには後20分少し掛かります。調査についてご説明しますので、お待ちください。」
「分かった。」
ホークはホーキンス生産部管理官たちと村内の道路整備についての打ち合わせをしている。
「お待たせしました。」
「うん。」
「では、早速ですが、こちらが丘陵地帯の湖です。」
ホークがスクリーンの一つに湖の映像を映す。
円形を北東に向かって伸ばして潰した様な形をしている。
「湖底探査機4機の入水地点をマークしました。1機は湖の中央から外周に向けて調査します。
3機は外周からの調査で内側に向かって行きます。調査終了は20日後の予定ですので、その時の回収もお願いします。」
「分かった。入水前の操作は必要なのか?」
「いえ。入水後に通信接続し、その後は遠隔操作しますので不要です。」
「では、医療センターに寄ってから戻ってこよう。」
俺とリサは医療センターのサイ族の様子を確認しに行った。
サイ族のドラームは全身やけどの重傷だ。あと3日は掛かりそうだ。
出来上がった湖底探査機4機を受け取り、丘陵地帯へ戻った。
◇
「湖のこちら側にはゴブリンはいないんですね。」
俺とリサは4機の湖底探査機の入水作業を終え、湖の東側に居る。
ホークからは4機の探査開始の確認連絡が入っている。
「そうだな。これだけ広い丘陵地帯なのに、西方の10km四方を取り合っているのもおかしな話だ。」
たしかに東側は丘陵より高原に近い。
山脈の山々が迫っている。
この山のいずれかにオーガの村があるのだろう。
山からの風や陽当たりの具合で住み良い土地とそれほどでもない土地が別れるのかもな。
高原地帯には動物の群れ。200匹ぐらいいるな。
角があって、白くて、もこもこしている。
「おい、リサ。あそこにいるのは、羊だな。」
「おお!そうですよ。羊です。羊の毛は高値ですよ!ファルスさん。」
「職人代表のベルトンさんに連絡するか。」
「そうですね。レイチェルさんに引き継ぎましょう。ベルトンさんと職人さんに来ていただくのが良いでしょうし。」
「リサ、念の為だ。飛竜の検知を。」
「はい。10km圏内に反応なしです。」
「よし、村に戻るぞ。」
「了解。」
レギウス村に戻りベルトン職人代表と村の職人2人を連れて来た。
10日以上は作業に掛かりそうだという。
レイチェルにも移動の手伝いをお願いし、昼食後は作業小屋の設置や土壁を使って作業小屋への羊の誘導路を作ったりした。
今日は職人3人で12頭の毛を刈った。刈り取った毛は村へ持ち帰り洗い作業を行うという。
◇
クリスたちとの合流は夕食前になった。
ゴブリンは200匹以上狩れたので10日もあれば終わりそうだ。
山の中へは20kmも移動せず、ほとんどが1つ目の沢で固まっているようだ。
予想の半分の距離だったが、元もと山の移動が得意な個体は、あの時点で山の中にいて土砂崩れに巻き込まれたのかな?
だとすると、生き残りが丘住みで山に馴れていないから逃げずに戦うのも、逃げても奥まで入らないのも分かるな。
クリスからの報告が終わる頃には夕食も出来上がり、飛竜の尻尾肉スープのおいしい香りが漂ってきた。
俺とクリスは並んで食事を始める。
「なぁ、ファルス。」
「なんだ?クリス。」
「いや、昨日の話なんじゃが、サイ族が世界のルールから外れた生活をしている、という。あれは、私たちも同じじゃな、と。」
「まあ、俺たちは外から来た人間、月の人、だからな。でも村には神の館もあるし、村人はルールに沿ってるぞ。」
「そうじゃな。私たちもレギウス村で暮らして行けば、ルールに沿った生活になるのかな。」
「ああ、そうか。いずれはそうなるのかな。」
「私達は変わらないかもな。その、子供たちはわからないが。」
「うん?」
「いや、その、私たちの子供は、その、この世界で、ルールに沿って生きて行くのかなぁ、と。」
「あ~、いや、それは、そうかもしれん。まだ、わからんが。」
「そ、そうじゃな。」
「・・・それに、年齢とかもおかしいしな。」
「ん?なんでじゃ?」
「んー、これは天使セリーヌにも相談したんだが、クリス、うちの村って老人がいないだろう。」
「いない。」
「俺は最初、内戦で村を捨てる時に置いて来たか、長距離の移動に耐えられなかったからだと思った。
だが、思い返して見ると、オの国でも見ていないし、エの国でも見ていない。
一番の年上はおそらくザーリ辺境伯だが、彼も60歳ほどだ。」
「うんうん。うちもオの都でも見てないし、国王陛下のご両親も亡くなっておるな。」
「ある時、村の飯屋で食事をしている時に村人たちの会話を聞いた。レギウス村は良い村だ、と話してくれていたんだ。
そして、”この村なら60歳まで長生きできるな”と言った。
俺はその時は気にしなかったんだが、ほら、レギウス村の開村日は昔のレギウス歴で新年にあたったろ。」
「うん。」
「その時、俺たちは1歳、歳を取るはずだったが、伸ばしたよな。」
「うん。みんな歳は取りたくないからな。」
「そうだが、俺たちの肉体は関係なく歳を取るぞ。」
「うっ。」
「それを思い出してな、天使セリーヌに相談したんだ。1日28時間45分、1年588日。
この第四惑星の15歳は俺たちにとっては29歳に相当するんだ。」
「そうなのか!?」
「そうだ。時間経過だけでいえば1.9倍だ。となると、現地人の60歳は114歳になる。」
「114歳!それは元老院にもいないじゃろう。それにザーリ辺境伯はもっと若いぞ。ファルス。」
「そうなんだ。天使セリーヌが出した仮説は、細胞レベルの延命処置、活動期の長期化の実現、だ。
反動として、期限を迎えた細胞組織は急速な老化現象を引き起こす。」
「つまり、あっという間に老け込み、死を迎えるのか。」
「そうらしい。だから村には老人がいない。」
「なるほど、老人は分かった。で、若い方はどうなんじゃ?」
「どう、とは?」
「いや、村の子供たちは歳相応に見えるぞ。5歳は5歳だし、10歳は10歳だ。」
「そう、年齢通りだ。俺たちレギウス星人の純血種のはずなのに、俺たちより成長が遅い。」
「そうか。そういうことか。つまり、ゆっくりと成長し、長く活動する様に、じゃな。」
クリスは納得したように何度も頷きながら俺から離れていった。
肉スープのお代わりかな?
(はぐらかしましたね。ファルスさん。)
(聞いていたか。)
リサがナノ通信してきた。
(もちろんです。て、いうか皆に聞こえてましたよ。)
(そうか。聞き流せ、いいな。)
(うっ、了解。)
クリスが戻って来た。
尻尾肉スープを2口、3口と食べて、俺との会話を再開する。
「そうか、だからハイブリットは生まれたのじゃな。」
「ハイブリット?」
「そう。どうして熊や猫とのハイブリットを作ったのか疑問じゃったけど、今のファルスの説明を聞いて分かった気がするのじゃ。」
「ほう。」
「ほら、自然界では子供の時期が一番危険じゃろう。病気もそうだし、敵に襲われたりする。だから獣は早く大人になるんじゃ。
その獣とのハイブリットを作る事で、子供の時期を短く、大人の時期を長くする人類を作ろうとしたのじゃ。」
「おっ、するどいな。」
「ふふん。」
「だが、そうするとフォース族は他より劣るのか?」
「うーん、分からんのぉ。うちらが廻ってみた感じでは一番文明的な生活をしておるからの。」
「そうだな。惑星開発部隊も分からなかった、と思う。だから競わせることにしたんだろう。」
「競わせる?生存競争、世界のルールじゃな。」
「そうだ。」
「では、生き残ったら勝ち、か。」
「そうだろうな。」
「じゃが、ファルス。それはいつのことなのじゃ?。この世界は1万2千年続いておる。みんな生き残っているし、ゴブリン共もおるぞ。」
「わからん。」
「メティスに、聞いてみないのか。ファルス。」
「クリス。スープ冷めるぞ。」
「あ、ああ。」
◇
クリスの疑問は俺も感じていた。
メティスに聞けば、答えは得られるかもしれない。
だが、俺は聞いていない。
答えを知る事で、俺たちは行動しなければならなくなるだろう。
だから、先延ばしにしてきた。
過去の詮索も未来の不安も後回しにして、俺たちの居場所を作る事を優先した。
だが、俺たちの村ができた。
俺たちの居場所ができた。
ここで暮らして行くも、この地を離れて征くも、それは本人の選択になる。
俺は、皆への責任を少しづつでも返せているのだろうか。
俺の視線は山脈の頂に向いた。
あそこには、城がある。
そして、地下にはキケロ中尉のクローン体がいた。
その口から語られたカルー少佐の名前、勇者の称号、ドラゴンキラー。
動き出す時期なのか。
次回70話「収穫祭の準備」
祭りや催しの準備作業、楽しいですよね。




