68話 サイ族
飛竜を片付ければ、ゴブリン共はサイ族の敵ではない。
30分と持たず敗走を始めた。
俺たちは元の場所に集合した。
「リサ、焼かれた彼は?」
「医療センターに入れて来ました。いやぁ、重くて大きくて大変でしたよぉ。」
大丈夫そうだな。
「クリス、オーガはどうした。」
「ああ、槍を投げて来たから、投げ返してやったぞ。そっちはどうじゃった?ファルス。」
「時間掛かりそうだったんで、あそこに埋めた。まだ息があるな。」
「おっ、あれじゃな。リサ、引っ張り出すぞ。」
「はーい。」
「いろいろ聞きたいから、やるなよ。」
「ダニエル、飛竜は回収したか?」
「はい、隊長。回収しました。」
「火吹きは初めてだからな。オの都の冒険者ギルドに持って行こう。」
「カン隊長、あっちも終わったようですよ。」
「ゴブリンは半数以上が丘から山道に逃亡しましたね。」
「そうか、手間だが、明日から仕留めていくか。」
「今日はやらないんですか?」
「ああ、あいつらの移動距離なんかを見ておきたいと思ってね。」
「カン隊長。サイ族が走って来ますよ。族長さんと取り巻きが3人です。」
ゾコラ族長が俺の前に来る。
「いやぁ、礼を言うぜ。外政官。助かったぜ。」
「役に立てて良かったよ。ゾコラ族長。」
「あー、それで、だ。こっちの一人、ドラームって奴があいつの火にあたって燃えたんだが、そっちの女に隠されたって言ってるんだが。」
「ああ、彼なら我々で預かってる。火傷の治療が終わったら戻すよ。」
「ど、どこにいるんだ?」
ゾコラ族長の後ろの男が訊いてきた。
「我々のレギウス村にいる。あの丘の南の山を越えた先、大レギウス湖の南にある。」
「な!?」
「他に大きな怪我をした者はいるか?俺たちで治すこともできるが。」
「怪我を治すって、これをか?」
ゾコラ族長が左腕を見せてきた。
幾つかの切り傷があり、血が流れている。
レベッカがその左腕に手をかざし、傷口を塞ぐ。
「おおっ!見ろ、治ったぞ。」
ゾコラ族長が振り返り、3人に見せる。
3人は顔を見合わせると、レベッカの前に並び腕や背中を見せてきた。
キキも手伝いに来たが、3人の内2人には「これはかすり傷」といって治療しなかった。
背中の傷だけは塞いであげたようだ。
サイ族と共に丘に移動した。
ゴブリンの死体や装備などは後から来るサイ族の女性たちが片付けるそうだ。
オーガもクリスにいたぶられた挙句にロープで縛られ歩かされている。
リサたちは移動しながら治療に廻っている。
「おい、外政官。こんなにしてもらって、俺たちに何をさせる気だ。」
「話しを聞かせて欲しいだけだよ。」
「話?」
「ああ、神様の話や、古い言い伝えとか。」
「言い伝え?あれか、穴の奥深くまで潜っていって、ドラゴンを倒すって話とかか。」
「そんな話があるのか。」
「ああ、じいさまから子供の頃に聞いた話だ。まぁ、サイ族にふさわしい男になれって戦士の話さ。」
「歌のようなものか。」
「ああ、そうだな。他にも色々あったぞ。」
「そうなのか。」
「そういった話なら後から来る先代に聞けば分かるな。後で紹介するぜ。」
「頼む。」
「その話って奴を聞くために、あのオーガ野郎も連れて来たのか?」
「ああ、奴にはどうしてここに来たのかを訊こうと思ってね。」
「ゴブリンの助っ人だろ。」
「そうだが。ゴブリンに頼まれて来た、その確認と見返りに何があるのか。それを訊きたくてな。」
「ふうん、外政官ってやつは、いろいろ考えるんだなぁ。」
「まあな。」
ゴブリンどもは丘を越えて山に入って行った。
西の平原に移動した者はいない。
サイ族は丘に着くとばらばらに散り始めた。
俺たちはゾコラ族長に付いて行き、ある丘の麓で止まった。
「ここが俺の場所だ。そのうち家族がやって来る。」
そう言って地面に横になった。
俺たちも座る事にした。
「てっきり、祝勝会のようなお祝い事でもするかと思ったが。」
「ワァハァハァハァ。そうかい、そいつは、すまなかったな。
いつもはゴブリン共にどいてもらうだけだからな。いちいちお祝いなんてしないのさ。」
「それもそうか。」
「それになぁ、俺たちはつるむのが苦手でな。いつもはこうしてバラバラに暮らしているのさ。」
「そうなのか。」
「ああ、次は春に平原に戻るときだな。つるむのは。」
「そうなのか。では俺たちがいると迷惑か。」
「いやいや、その辺で良ければ居てくれていいぞ。しばらくすれば先代も来るしな。話を訊くんだろ。」
「ああ。」
「ファルス、こいつに訊くか?」
「そうしよう。」
俺はクリスが捕縛しているオーガの前に移動した。
「何ヲ、聞ク、ノダ?」
オーガはかなり消耗しているようだ。
「どうして今回はゴブリンの戦いに参加したんだ?」
「頼マレタ、カラダ。」
「ゴブリンに頼まれたのか。」
「ソウダ。」
オーガの話によると、20日前に10匹のホブゴブリンが東のオーガの山にやって来た。
頼みごとはホブゴブリンとゴブリンのいる丘を人間どもが奪いに来るので守って欲しい、と。
その丘は何百年も前からゴブリンの丘だった。
でも数百年の昔、山が震えて丘が一つ消えて、湖になった。
そして人間がやってきて春までいるようになった。
いつも戦うが負けてしまう。いつもいつも負けてしまう。
今までは、それでも良かった。
でも今回は山が震えて、鉄の穴が埋まってしまった。
オーガに届けていた武器も作れなくなった。
このままだと人間に負けるし、丘がまた消えるかもしれない。
だから助けて欲しい。
オーガの村の村長はその頼みを聞き入れ、飛竜使いの二人に手助けを命じた。
飛竜を使い北の平原を監視していたら人間がやって来たので参戦した。
話を聞き終える頃にはゾコラ族長の家族が到着した。
ゾコラ族長の父親、先代族長のクワドォーを紹介してもらう。
クワドォーから聞いた話をまとめると、
ディディ族の神官の血筋は絶えてしまった。
他の氏族との交流は無い。
なので神話はゾコラ族長に口伝で伝えているが、ゾコラ族長は覚える気がないようだ。
今はゾコラ族長の2人の子に教えている。
神話はベア族とほとんど同じだ。大神ゴメスと女神アドニス、サイ族の神はキケロ神。
戦士の話もあるが、話に出てくる洞窟がどこにあるのかは知らないそうだ。
そしてドラゴンも見た事は無いと言う。
◇
先代の話を聞いた俺たちは、また平原に戻ってきた。
そろそろ日暮れも近い。
オーガの扱いについては逃がしても良いと言われた。
サイ族は戦いになっても負ける気がないようだ。
俺たちの気持ち的には、こいつも人間の敵であり、倒すことに問題はない。
だが、こいつにはオーガの村に戻って負けた事を伝えてもらわないといけない。
そして、この丘の人間に手出しせず、冬の間は丘で暮らす事を容認すること、それを伝えてもらう。
俺たちはオーガを解放した。
◇
「ディディ族のサイ族は、ナノマシンの影響力が小さいのかな?」
夕食を食べ終わり、クリスに話し掛けた。
「そうか?」
「ああ、ナノマシン教育で施されるゴブリン共への敵対心が低い。オーガも逃がして良いと言った。」
「そうじゃな、ゴブリン共も逃がしておるな。」
「神官がいないって事は、神の館もないですし、あれですよ、誕生の儀式とかをやっていないから、体内のナノマシンが少ないんじゃないですか。」
「さすが、リサじゃ。良く覚えておるな。そういう理由じゃぞ。ファルス。」
「へへへ。」
「なるほど。」
「それは、サイ族全体の問題かも。ですね。」
「ん?キキはそう思うのか?」
「はい。この先、西の平原にもサイ族の集落があります。ディディ族とは違う氏族でしょうが、先代族長は交流が無いと言ってました。
ということは、人の移動が少ないと思われます。」
「そうですよ、神官の血筋が絶えたなら、他から連れてくればいい。でも他の氏族と交流が無いから出来ないんですよ。」
「でも、そうするとお金が手に入らないですよ。レベッカさん。」
「それは、人の交流が少ないからお金は必要ないじゃない。ねぇキキ。」
「そうね。自分たちが食べていければ良いだけなら、必要ないのかしら?」
「持ち物、少なかったな。」
「服も、男はズボンだけだし、女性の服も、あれ布一枚ですよね。」
「おっ!ダニエル君、よくチェックしてる。」
「リサさん。見れば分かりますよ。」
「ほほぉ、見ればわかるのじゃな。ダニエル。」
「えっ、いや、クリスさん?」
「ほほぉ。」
「しかし、そうだとするとサイ族たちは惑星開発部隊が用意したシナリオを無視した生活をしているな。」
「ゴブリン共と敵対して戦え、ってやつですか。人類種の優劣をつけるっていう。」
「そうだ。」
次回69話「羊の群れ」
タイトルに深い意味はありません。




