48話 引っ越し
「それで、アレク。鉱脈の方はどうだ。」
「そっちは問題ない。と、いうより、ここはいいぞ。鉄の含有量は40%近くある。
鉱脈の深さも十分ある。ゴブリン共には渡せないな。」
「そうか。大佐?」
マクレガー大佐は屈み込んで両手で足元の土に触れている。
「ううむ。私の力が役に立たんものかと思ったが、駄目だな。
ここは畑に向いとらん、としか分からん。」
「そうですか。」
「畑にとって悪い物を取り除こうとすれば、山が崩れるな。」
これは大佐流の冗談なんだろうか?
リンダがいたら笑うのかな。
ん?リンダは他の場所か。
待て、何か引っかかるな。
畑にとって悪い物を取り除く。
取り除くと山が崩れる・・・。
(ファルス、東端の確認終了だ。そっち戻るぞ。)
(ああ、クリス。分かった、気を付けて戻ってこい。)
「アレク、東端は終わったようだ。」
「ああ、ジェリー曹長からも連絡が入っている。
向こうはゴブリンの手が入っていなかったそうだ。最初の穴掘りが必要だったと。
こっちもサンプルは取った。もう出れるぞ。」
(あっ、少佐。上に来てもらえますかぁ?)
外に出た所でレイチェルから声を掛けられた。
上を見上げるとレイチェルが手を振っている。
「どうした?」
上に上がるとマルビン兵長とリンダが穴の出口にいた。
「カン少佐。洞穴内部は階層構造になっていまして、最上部から外に出た所です。」
「で、この先、山の斜面に沿って道が続いているって、訳。」
リンダが指差すとその通り、斜面に道らしき跡が見える。
「東側の斜面を確認しましたが、あちらにはありませんでした。ここが道の終点のようですね。」
「リサは?」
「この先を見てくるって。あっ、今から戻ってくるそうです。」
(リサ、道の先はどうだった?)
(あ、少佐。凄いです。今、戻ります。)
リサはすぐに戻ってきた。
(少佐、皆さんの情報パネルに見て来た地図を送りますね。)
情報パネルに現在地から北部へ向けて道が描かれる。
いくつか枝分かれしているが、やはり北の丘陵地帯に伸びているな。
(この山側に伸びている道は、ここと同じような穴に入っています。)
(他にも坑道があったか。)
(鉱脈探知結果はこの周囲の複数個所を示していました。丘陵地帯を除いたんで南側のここが候補地になったんです。)
(それで、良かったですよぉ。マルビン兵長。)
(なにかあったのか?)
(私が探知した結果、北側の山と丘陵地帯はゴブリンだらけです。数千は居ますよ。)
◇
クリス達と合流した俺たちは西側に移動し、今朝の出発地に戻った。
1400、昼食を取りながら、今後の方針確認だ。
「ここの鉱脈の結果は良好だし、採石場が2か所、近場に取れる。ここが1番の有力地なんですよ。カン少佐。」
「この湖の南側の土地が良ければ、そこに村を作れる。鉱石も湖を舟で運搬できる。俺たちはそう思っていたんだよ。ファルス。」
「そうか。」
どうやら甲板部員達の中では答えが出ていたようだ。
「では、湖の南の土地を調べるのが第一だな。それで決まるだろう、カン少佐。」
「そうですね。大佐。行きますか。」
「うむ。」
「少佐、よろしいですか?」
「いいぞ、ホーク。」
「はい。南側の調査はチーム1の他に2チームあれば十分でしょう。
残りの3チームで先程のゴブリンの山道を潰したいと思います。」
「山道を潰す?」
「はい、奴らは山の沢や斜面を利用して移動し、鉱石を探索していると思われます。
今の道を残して置けば、いずれ戻ってきます。」
「山道を潰す、だけだな。」
「はい。」
「誰を連れて行く。」
「クリス大尉とパメラ中尉のチームを。」
「よし、6時間後にここに戻る様に。」
「了解。」
「よし、行くぞぉ!」
「クリス大尉、戦闘は無しですよぉ。」
◇
湖の南側の土地は合格だった。
水はけも良く、地下水も豊富だ。
木々はまばらに生え、低木と草原が広がっている。
山から吹き降ろす風がやや強い。
周辺100kmも問題は無い。
大型動物は少なく、小動物もいる。
村を作り畑を作り生活していくには、良い所だ。
俺たちは湖の北側に戻り、ホークたちの帰りを待った。
予定通りの時間にホークから連絡が入った。作業が終了し、これから帰ってくるそうだ。
ただし、ここに帰って来るまでに2時間は掛かる。
まったく。
俺たちは晩飯を作って帰りを待った。
日が落ちるのが2140。
俺たちの明かりを目指してホークたちが帰って来たのは2210だった。
◇
ホークたちは丘陵地帯と接する山脈の際まで行ったそうだ。
山道に沿って盛り上げたり、穴を掘ったり、鉱脈の入り口を見つけては土砂崩れを起こしたり。
中に何匹かいたみたいだが、直接戦闘はしていないそうだ。
それを延々とやっていた。
最後に山道の入り口になる所に深さ10m幅10m横300mの溝を掘った。
直線距離で230km。総延長は400km以上あるぞ。
山と沢はいくつあったんだ。
途中にもゴブリンの集落の3つ4つあったんじゃないか?
くっ、俺も行きたかった。
◇
次の日から東の大河に沿って南下し、西の大河との合流地点の調査。
さらに南下し、河口周辺部および沿岸部1100kmの調査を行った。
やはり現地人の集落は見つからない。
北部のゴブリンの集落が現地人の南下を妨げているのだろう。
南西の地に西の山脈の飛び地の様な山岳地帯を見つけた。
ここの山は岩山で、村を作るときの土台や道路に利用できそうだ。
最後の2日間は西の山脈沿いに北上しつつ鉱脈の確認を行った。
こちらも鉄鉱石の純度は高く、質、量ともに良いそうだ。
西の山脈には飛竜の群れがいた。
8頭ほどの小さな群れは俺たちの夕食になった。
最初の着陸地点に戻ってきた俺たちは、リサの遠見の窓でカッシーニ81に戻った。
◇
北緯28度東経116度。
東の山脈の麓、巨大湖の南にカッシーニ81を降ろした。
カッシーニ81は地上にあっては地上高100m地下10m全長820m。小さな山だ。
故に着陸地にも気を使った。
マクレガー大佐の助言に従い、船体を南北にし日影を作らないように。
山からの風を遮らないように距離をとる。
そして湖からはあまり離れず、かと言って離れすぎても不便だ。
理想を考えると面倒なので、最後はリサに任せた。
後は甲板部員達の出番である。
村の基本図面は出来ている。
居住エリアは500m四方とし、順次設備を増やして行く。
耕作地は10km四方。
まずはこのエリアの整地を行い、道路、水路の区画整備を行う。
鉱石については、レギウス山脈の250km地点を第一採掘場、東端を第二採掘場とした。
第一採掘場の整備を進め、その稼働開始後に第二採掘場の整備に掛かる。
さらに平野部南西の石山の採石場の整備と稼働。
脱出艇の採石運搬艇への改装作業。
甲板部員達と工作機はフル稼働だ。
山脈の奥に城がある。
だが、この地域はブラックドラゴンの飛行区域にはなっていないようだ。
なので、城の調査は後回しとなった。
◇
村の名はレギウス村とした。
俺たちがレギウス星人であることを後々にも伝えたいからな。
さらに東の山脈をレギウス山脈、大レギウス湖、レギウス平原とした。
単純で分かり易くて良いだろう。
レギウス村。
村長 マクレガー大佐。
村長代理 エディ=マーカス中佐。
司令部は外政部と改称し、現地の人々との窓口役となった。
甲板部はそのままだ。
人員も、役職も、今までと変わらない。
レギウス村の開村日は296日。
この日はレギウス歴1062年1日にあたる。
俺たちは1つ歳を取った。
はずなんだが、現地のカレンダーと時計で過ごすならまだ先だ、という意見が強かった。
俺たちの誕生日は、292日先に伸ばされた。
◇
甲板部員達はフル稼働だが、俺たち司令部、改め外政部は暇だ。
時間が出来た俺たちは、エディ=マーカス中佐、元副艦長、現レギウス村村長代理、を留守番に残し、オの国へ向かった。
■■■
白い部屋。
床も壁も天井も白く、部屋の中に置かれたテーブルと椅子、天蓋付きの豪奢なベッドも白い。
外のテラスから吹き込む緩やかな風が部屋の中に届き、青空からは暖かな日差しが差し込む。
バサァ
そのテラスの脇に巨大な身体を寄せて、オレンジドラゴンが現れる。
その首を伝い、テラスに一人の女性が降り立つ。
「ありがとう。」
彼女はオレンジドラゴンの首をポンポンと叩き、その瞳に笑顔を向ける。
テラスを進む彼女の身体を光が包む。
彼女の茶色の服装と茶髪茶瞳の姿は、白髪金瞳の痩身の裸体となって白い部屋へと入ってきた。
彼女の金色の瞳が、白いテーブル上で点滅する青い光を捉える。
椅子に腰掛け、テーブル上のポッドから熱い紅茶をカップに注ぎ、一口。
ふぅ。
改めて、彼女の視線が青い光に向けられる。
彼女がその指を青い光に翳すと、テーブル上の空間に映像と文字が表示された。
彼女はその映像を見、しばし動きを止めた。
「レギウス軍の宇宙船が、消えた?」
う~ん。
しばし黙考する。
「ナノマシンが分解した?いえ、それにはもっと時間が掛かるはず。
だとすると、どこかに飛んで行ったのね。」
さらに黙考する。
「まぁ、私の邪魔をしなければ、いいか。」
彼女は紅茶を飲み、ベッドに潜りこんだ。
次回49話「オの国再び」
引越しのご挨拶です。




