11話 時速300kmチャレンジ
4日目。
俺は作業に掛かる前にメティスに時間管理について相談した。
「メティス、第四惑星は一日28時間45分だったな。船内時計とどれぐらいずれているんだ?」
『はい、第四惑星は28時間45分19秒で自転しております。
赤道上での恒星運動情報がありませんので、標準時は設定できません。
現地での観測情報も1日分しかありません。
また、本船には外部気象情報の収集センサーも備わっておりません。
よって、正確な現地時刻を設定することができません。
よって、船内時計との時差をお伝えすることはできません。
申し訳ございません。』
しまった!
適当な質問で答えられないような状況を作るとAIは混乱する。
気を付けなければ。
「いや、すまない、俺の質問が悪かった。
ブルードラゴンの次の来訪時刻の予測を知りたかったんだ。」
『はい、ブルードラゴンが前回同様に日の出の20分後に現れると仮定した場合、次の本艦上空への到達予定時刻は本日2220頃と推定されます。』
やっぱり夜か。
俺は外部映像を見た。
外はまだ明るい。雨はあがった様だ。
これから日が暮れて夜になる。
まだ4時間ぐらいは明るいのか。
「ホーク、リサ、外が明るい。1200までは船外活動を中心に活動しよう。
暗くなり次第、船内に戻る。資料解析は午後だ。」
「了解。」
「それと、今夜はブルードラゴンの来襲に備える。夕食後は個人用ポッドで2時間の仮眠をとる。」
「了解。」
俺たちは再びスタンガン等を装備して、近くのエアロックへ向かった。
これは船外活動用の出入り口に使うものだ。
工作機1機の出入りにも使えるように、通路も減圧室も広く作られている。
手順を踏まないと通常は外部扉は開かないが、減圧ステップを省いて外部扉を開けた。
地上までの距離は約30mぐらいか?
「高いな。」
「大尉、飛びますよ。」
そういってリサが飛んで行った。
「常識が壊れていきますね。」
ホークも飛び出した。
「まったくだ。」
俺も体を浮かせて外に飛び出した。
だが、俺の中のイメージは飛び降りるイメージが強かった。
よって、俺の飛行方向は下方へ向いていた。
「か、風を、強風が下から吹いてその風圧で減速!ふんわりと着地!」
俺はあわてて右手を振り風を起こした。
心臓に悪い。
ふんわりと着地できたが、風圧で巻き上げられた砂が頭上から降り注ぐ。
砂をはらいながら、辺りを見渡す。
ここは艦の北側だ。
前方に続く低木地と草地に砂浜、海岸線は徐々に右手前方、東に続いていく。
左手の西側は内陸だ。遠方には山の稜線が見える。ブルードラゴンのねぐらは山の中か?
右手は海が広がっている。
青く美しい。
雨上がりの空も青く輝いている。遠方には黒い雨雲が見える。
着地地点はまばらに木が生えている草地だ。
砂が多い。
右手に200m程行くと砂浜にでる。その砂浜には海底から引き揚げられた外部装甲と運搬してきた工作機2機がいる。
夜を徹しての回収作業をしたようだ。
上空を見上げると船体の外壁がそびえている。
大気圏突入の影響を受け、銀色に光輝いていた外殻装甲は鈍色となっている。
火災跡や剥離跡が一面に広がっている。
ここからは見えないが60m程上に脱出艇の格納庫、穴が開いている。
外壁をそこまで持ち上げないといけないが、リサが居れば魔法で持ち上げてしまうんだろうな。
だが、今はナンドゥールの作業指示で動いている。
クレーンでも組み立てて、ワイヤーで吊りあげるだろう。
そんな事を考えていると上空からホークが飛び降りてきて、工作機2機の方へ飛んで行く。
あいつは面倒見が良い。
任せておこう。
リサは飛んで行ったきりだな。
まぁ時速300kmチャレンジだ。
なにかあれば、連絡してくるだろう。
一応船体の周囲を見廻っておくか。
内陸側の陸地は低木地が続くが船首は森林の奥に入り込んでいる。
樹高はそれほどない、5mを超えないくらいか。
ここでは船体と距離がある、
船体に近付きながら、船首方向へ足を運んでいく。
羽虫というのだろうか?小さな物体がブンブンと羽音を立てて周囲を飛び交っている。
途中、前方の砂地で何かが動いた。尻尾の様な長細い陰が見えたが、すぐに草むらに隠れてしまった。
小動物か?
そうか、歩いていくと動物と接触するな。
見廻るなら、10mぐらいの高度でぐるりと一周しよう。
高度を上げて視界が開けて行くと、遠方を見たくなった。
船体を超え、高度100mぐらいまで上がる。
北方に山岳地帯。
森林が続いているが、川か池が多いようだ。湖沼地ってやつか。
西方は丘陵地帯だろう。樹の峰が波打っている。
南方も丘陵地が続く、その先には平地もあるのかな。
現地人の集落があるのは、あの先だ。
緑が続いている。特に目立つものは見えなかった。
望遠レンズが要るな。
メティスが船外環境情報収集機器の不備を訴えていた。
宇宙船の感知能力では当然だ。
近距離センサーと言っても、宇宙空間での測定範囲は1000km単位だ。
ナンドゥールに頼んでみよう。
船体上部に望遠カメラ、動体検知センサーは周囲1kmで対象物の大きさを人間大にするか。
天体観測と気温情報も必要なんだろう。
(通信オン、ナンドゥール、聞こえるか?)
(おう、大尉。聞こえるぞ。)
対応が甲板長そっくりだ。
(船体周囲の情報収集機器が欲しいんだ。作成を頼みたい。)
(ホーク中尉から既に周辺カメラ12機分を依頼されている。光学カメラと赤外線カメラのセットに動体検知レーダーを組み合わせたものだ。)
(そうか。動体検知レーダーの感度設定はできるか?)
(センサーの区画設定が1m単位、対象物の移動速度は1秒単位で設定できる。射程は50m以上3000mだ。)
(了解。他に、天体観測用機器と外気温度等の気象観測センサーも一式欲しい。)
(わかった。作成リストに追加した。機能要求はあるか。)
(いや、標準機能でいい。)
(了解した。40時間後の機器作成完了予定だ。その後に設置作業に移る。システム側の構築についてはメティスに連絡した。)
(ありがとう。通信を切る。)
俺は船体上部に降下して、改めて周囲を見渡す。
この船体はでかい。
遠方からでも目立つ。
いずれ見つかるだろうな。
俺は砂浜に降り立った。
さて、魔法の練習だ。
足元には砂があり、その下は大地だ。
海の水は豊富だ。
土壁作って、水鉄砲で穴をあけて、でかい水流で押し流す。
楽しくなって来たところで暗くなってきた。
リサも戻って来た。
時速100kmまでは成功したらしい。
十分すごいよ。
風の力では限界があるので、方法を考えないと、といって船内に戻っていった。
ホークを探すが、先程まで船体周囲を飛び回っていたが、今はどこにいるんだ。
(通信オン、ホーク、聞こえるか。)
(はい、大尉。聞こえます。)
(暗くなってきたので、そろそろ船内に引き上げる。リサはもう戻った。)
(了解。私は現在甲板におります。1130に中央指令室に戻ります。)
(わかった。通信を切る。)
ナノマシン通信は、やっぱり便利だな。
◇
運動場で魔法練習を再開した後、中央指令室に戻ると、リサが自席のモニターに齧り付いていた。
「何だ、リサ、勉強中か?」
「大尉、そうなんですよ。風に乗って速度を上げると、私の身体が抵抗になるんですよ。
そこで私の周りに無風の固定フィールドを作って、それで時速100kmまでは来たんですよ。
ここからが難しくて。」
「メティスに聞かないのか?時速300kmが可能だって言ってたろ。」
「はい、メティスに聞けば正解なんでしょうけど、ここは、私が頑張りたくて。
風に乗って空を飛ぶのって、子供の頃の夢だったんですよ。
だから、頑張ります。」
「そうか。」
俺は自席に着いた。
ホークも指令室に戻ってきた。
「そうだ、リサ、士官教習で習った推進器の歴史って覚えているか。」
「えっ、えーと、重力子機関以前の、えーと、ロケット推進とかでしたっけ。」
「そうだ、一番最初はプロペラ推進だ。」
「それは、確か人類が最初に空を飛んだ時の。そっかぁ!ありがとうございます、大尉。」
「おう。」
子供の頃の夢か。
俺の夢は宇宙船の操縦士だった。
夢叶う。ってやつだが。
仕事にしてしまうと、だんだん色褪せて。
いかん、愚痴ってしまった。
■■■
はい、リサ=メンフィスです。
惑星に不時着。タイムジャンプ。これからどうなるの!?
などなど訳のわからない事態ですけど、とりあえず放っておきます。
なるようになる、です。
それより魔法ですよ。魔法!
レギウス本星で過ごした幼年学校時代。
男の子たちの多くは戦闘艇のパイロットとして宇宙を飛び回ることを夢見ていましたが、私はちょっと違いました。
私の夢は、私自身が風に乗って、レギウス本星の青空を飛び回ること。
それが、実現しました!
感激です。
不謹慎ですが、惑星不時着もタイムジャンプも、この夢の実現のためであったならば許容範囲内です。
もう許した。
私、この世界で空を飛んで生きていきます。
さて、今は輸送艦の通信主任をしていますけど、私だって、ちゃんと戦闘艇パイロット教習は受けています。
飛行において重要なのはスピードと機動力です。
仮想敵はドラゴン。
あの巨体で時速300kmで飛ぶのであれば、こちらはそれ以上を目指さなければいけません。
実際に空を飛んでみましたが、スピードを出すと問題だらけです。
まず、息ができません。
目を開けていられません。
身体、特に顔が痛いです。
そして、寒い。
これは身体の周囲に固定フィールドを形成することで解決しました。
固定といっても空気の流動性は確保しているので、呼吸できますし、身体も動かせます。
固定フィールドという空間を創出し、その内部に侵入すると運動エネルギーが減少する感じですね。
詳細はナノリサに任せました。
あっ、ナノリサというのは私の体内ナノマシンたちの総称です。
メティスのように体内ナノマシンにも名前を付けました。
かわいい子たちです。
さて、ナノリサの全面協力の下で行われた飛行訓練でしたが、最高時速100km超までは実現しました。
それ以上は無理。
中央司令室に戻って、改めてブルードラゴンの飛行映像を確認します。
敵に関する情報収集と分析は重要ですからね。
大きな翼に、長い尻尾、胴体はがっしりしていてスリム、首は細長いですね。
なるほど、大きな翼で多くの風を受けて速力を出しているようです。
しかし、大きな身体では抵抗も大きくなるのでは?
カッシーニ81の上空を旋回している映像では、細長い首と長い尻尾が飛行軌道に沿って弧を描いています。
この首と尻尾は機動制御をしているようですね。
この身体の構造が高速飛行に適しているのかな?
うーん。
わかりません。
ナノリサに聞いてもわかりません。
メティスに聞こうかな。
でも、もうちょっと考えてみよう。
固定フィールドをドラゴンの形状にできるかな。
ナノリサの回答は否でした。
体内ナノマシンですから、その影響範囲は私の身体の周囲3cmまでの空間が有効範囲でした。
狭くない?
あれ?そうすると風を起こしているのは誰?
ああ、それは外部の周辺ナノマシンなのね。
ナノリサは固定フィールドの形成と維持に努めつつ、周辺ナノマシンの制御をしているのね。
強風が起こるのは気圧差が原因なのね。
私の進行方向の気圧を下げる。
空気を避けて、抵抗も少なくなる。
それをしてくれているのが、周辺ナノマシン。
だけど、速度があがると、その作業が間に合わない。
さらに進路変更したら、周辺ナノマシンが大変。
うーん。困ったね。
風に乗るのは、ふんわり、ゆったりかぁ。
いろいろ考えているところにカン大尉から声が掛かった。
なるほど、推進機関の歴史か。
温故知新。
さすが、頼れるリーダー。
つまり、ドラゴンが風を使っているからといって、私も風に乗ることにこだわる必要はないわけですね。
さて、そういうことならば、戦闘艇ですよ。
重力子機関。
カッシーニ81を持ち上げた重力子球で機動制御すれば、時速300kmも高速機動も可能じゃない?
そうよね、体内には保持できないよね。
でも固定フィールドの境界線上に配置して、固定フィールドとその内部の身体を一まとめに機動することは?
可能。
でも問題あり?
えっ、体内ナノマシンが足りないから補充の必要あり、なの?
そうかぁ、じゃあ、どうすれば補充できるのかな?
あれ?ナノリサ、その知識はどこから手に入れたの?




