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怪しいイケメンより心の友!!  作者: 咲川 夏雪
16/16

夜が来る前に 危ない☆ランデブー(2)



 4月30日 午後2:30 ドコカノ街




 私は何故か、この乙女ゲーム世界に飛ばされてから一ヶ月も経っていないというのに、

爽やかな、しかし、たまに仄暗ほのくらい笑顔の好青年と、昼食をとりに行くところだった。

そこら辺で買い物&うろうろしてる所為せいで、大分だいぶ遅めになりそうだ。




 しっかし本当にチンピラに教えられた店でいいのかな。

スイーツを甘味かんみと呼ぶ奴だったからなあ。




 隣のイケメン(ジゴロ君)は何も言わない。

私達はただ黙々と坂を上がっていた。太陽が照りつける。暑い。

金持ちならハイヤー頼めよ。と思うが、この世界は異様に車が少ないのだ。理由は知らん。

登るにつれてどんどん日本家屋にほんかおくが多くなってくる。

もしかして、実は向かってるとこ全然お洒落しゃれなカフェとかじゃないって落ち?

まあいいや。こんな暑い日はオリーブオイルたっぷりのパスタより、さっぱりした和食の方が良いに決まってる。




 「着いたよ。ここで間違いない」




 ジゴロ君は落ち着いた口調で言ったが、その額には汗が伝っている。




 店はやはり周りと同じで日本家屋。開かれた大門から少し奥まったところにあり、

屋号かんばんは門の脇に提灯が二つ下がるばかり。普通ここを通るだけの人は家か店か分からないだろう。

腕を大きく伸ばすクスノキの影は涼やかで、勿体もったいぶりながら揺らす花魁の飾り櫛の様なふじかぐわしくさかっている。




 私の体は好奇心でうずうずしている。

しかし、ジゴロ君は私の頭半個分大きいというのに、怖気づいてしまっているので、からかいたくなった。




 「お入りにならないのですか?」



 

 「や、先、入ってよ。レディーファーストだから」




 ニヤニヤしながら言う私の目も見ずに、肩をびくつかせながら言った。

怯えながらも、紳士である自分を崩さない。そんな必死さが微笑ましい。

背中を押しあいながら一悶着ひともんちゃく終えた後、結局私が戸を開けた。

暑かったので、間違っていてもいいから、とにかく休みたかった。

しかも、ここまで来たんだ。引き下がる訳にはいかない。長い坂を登ってきて、腹も減っている。




 入ると、少し先の右手には程良く使いこなされた、大胆な一枚板のクスノキのカウンターがあり、その上のレトロな重々しいレジを支えている。

そこには、藤を混ぜた様な藍染めの作務衣さむえを着た、三十路前みそじまえ位で、身体つきのしっかりとした強面こわもての男が立っていた。




 「いらっしゃいませ。お食事ですか。宿泊ですか」




 「え、と、食事です」




 客の異様な若さも気に留めず、にこりともせずに言う。

その無愛想ともいえる店側に、やはり私も深く考えない事にした。




 連れは、どこ見てるのか分からなく、頭が真っ白になっている様だ。

役に立たん奴の事はもう諦めた。

チッ。これだからボンボンはよぉ。図太さが足んねえんだ。図太さが!




 「では、襲芳しゅうほうの間へご案内致します」




 「え?あの、食事だけなのですが・・・」




 「襲芳の間は、お食事なさるお客様用の部屋なっております」




 「あ・・・ハイ」




 鷹の様な眼をした男に、思わずひるんだ。

あまり接客に向いた人でもないが、何故だか悪い気はしない。




 広い玄関で靴を脱ぐ時、ジゴロ君は手を伸ばした。

支えてくれると解釈し、礼を述べてから、その大きくて温かい手にすがった。

向き合った若葉色のきつく編まれたソファと、その間に小さめながら足元が優美に彫られたローテーブルのある応接間を、

屋敷中グルグル回ったらきっと、ゲシュタルト崩壊を起こしそうなふすまの嵐を通り抜けた。

それほど距離がある訳ではないのに、緊張で目が回る。




 「では、ごゆっくりお過ごし下さい」




 私が混乱している間に部屋に着いた様だ。

男は土下座(と言うと響きが悪いがそのようなポーズ)をして、襖を閉めて去って行った。

部屋は全体的に畳張りで、中央に低くて広い和式テーブルと、それを挟む様に座椅子が置いてある。

床の間には、花弁はなびらが少し深い青で、しかし、奥と五本筋だけが紫の昼顔が特徴的な葉と共に、一際部屋を印象付けている。

私には読めないが、流れのある字(多分漢字?)の入ったいびつな形の徳利とっくりにささっと生けてあるのだ。




 「じゃあ、何を戴こうか」




 男がいなくなったら、ジゴロ君はすぐにケロッといつもの調子に戻った様子で「御品書おしながき」を開いている。

私も反対側から身を乗り出して覗く。

懐石料理だけかと思っていたが、蕎麦も丼物もちゃんとある。どれもいいお値段だが。

しかし、こだわっている様で今一こだわってないこの感じが好きだ。種類も豊富で楽しい。

現実世界であまりこんな店入った事ないからなあ。




 「では、私はこの天ぷら蕎麦の冷がいいです」




 「じゃあ、俺は普通に懐石~水流丸つるまる~にするよ」




 またあの坂を下らにゃならん。出来るだけ身は軽い方がいい。

しかし、ジゴロ君はガッツリ食う様だ。懐石を普通とか言うな!ばっかもん!!




 少しすると、仲居さんが冷えた緑茶を持って注文を尋ねに来てくれた。

私はその香りと咽喉を通る冷たさと仄かな苦みを楽しみながら、丸い障子窓に映る光と影を見つめている。

ここは良い意味で時間をゆっくり感じさせてくれる。



 

 そうしていると、ジゴロ君はおもむろに自分の腕時計を外し始めた。

食事の邪魔になるからだろうか。

そう考えてたら、結構早めに料理が出てきた。冷たいお蕎麦と揚げたての天ぷら。待ってましたー!!

無駄にごちゃごちゃしていない、数字の読みやすそうな時計。

しかも、中の歯車が見えていて、レトロで、凄く好みだ。いいなあ。

でも、それならやっぱ懐中時計っしょ。

私は気まぐれな事にちょっと褒めてみた。




 「素敵な時計ですね」



 

 「ああ。ありがとう。一昨年の誕生日にファンクラブの子達から貰ったんだ。去年は財布だったなあ」




 やっぱジゴロじゃねえか!!きっと普段も相当貰ってんだろうなあ。

バレンタインとか・・・・・ゴクリ。うう。考えるだけでも恐ろしい。

私は学校中を駆け抜ける女子生徒達と、机から溢れ出る包みの数々を想像し、身震いした。

いや、待てよ・・・。




 「一昨年って言うと、確か中等部二年生ですよね。王生いくるみ兄弟と同じで、中等部の頃から『惑生会わくせいかい』に入ってたって事ですか?」




 「いや。惑生会には入ってない。厳密に言うと、ファンクラブがいつの間にか作られてただけ。学校会員の多分全員がそうだよ。

そこまでならなきゃ、入れる見込みが無いんだって。中等部生でも正式な会員である、王生兄弟すごいなって思うだろ?」




 「ア、ハイ。ソーデスネ」



 

 双子に関しては、棒読みで答えた。




 「惑生会に入ると、学費免除、月一の会合と言う名の雑談、学校行事のリーダー、となる。

生徒会の仕事は主に、惑生会員の取り決めの修正、制裁が仕事」




 なるほど。図書館の文献よりも、聞き込みの方がよく知れるな。

それにこの男、訊いてない事までぺらぺら喋ってくれる。




 「じゃあ、最後に一つだけ。遠足の目的地は何処ですか」




 ズバリ!!それを知りたい。

しかし、やっぱりジゴロであったジゴロ君はムッと顔をしかめた。ヒイッ!

え、何?LHRラージホームルームをサボタージュしたの、まだ根に持っているのかい?しつこいねえ、君も。




 「・・・・・近くの山に登山だよ!山へはバスで向かう。5月12日金曜日、聖宮学園正門に8:00集合。

持ち物は弁当、折り畳み傘、おやつは5000オカーネーまで。御馳走様ごちそうさま!」




 ぶっきらぼう☆に答えた。

登山とか嫌だよ~。よりによって登山!?ここは普通にセレブらしく行こーよ~。

因みにこの世界のお金の単位はオカーネー。万国共通、扱いは円と殆ど同じである。

イケメンが真顔でオカーネー(笑)。つか、おやつに5000オカーネーって高くね?何でそこだけセレブ使用なんだよ。




 今食べ終わったジゴロ君(食休みしなくていいの?)と、とっくに食べ終わってた私は、あの強面男のいるカウンターへ向かった。

その時、一人の男性とすれ違った。中性的な顔立ちの、色白の青年。桑の実色の簡素な着物を身に付け、動きが洗練され、優美。

アメジストの瞳を細め、薄い桜色の唇を延ばし、微笑んでくれた。

すれ違いざま、私は振り向き、軽くなびく艶のある黒髪と、色っぽいうなじに見とれていた。




 「星宮、ああゆうのが好みなのか?」




 ええ、まあ。好みではあるのだが・・・。とにかくオーラが凄いのだ。

主要キャラの匂いがプンプンするぜえ!!

あー、もうヤダ。私は元いた世界に帰りたいだけなんですぅ。これ以上話をややこしくすんな!!




 今いた美青年は頭のタンスの奥の奥の奥にしまって、会計を済ませた。

二人とも自家用車を呼ぶ間、強面の男に了解を得て、応接間で待っていた。

陽が西へ傾くにつれて、客入りも多くなってくる。

それにしても、きちんとした身なりの人が多い。場違いではないが、相応とも言い難い。

訳の分からぬ緊張に再び襲われる。硬直しながら会話もなしに、ただ待っているだけ。か、帰りてえ~。




 「す、すまないな、星宮。また学校で。今日は楽しかった」




 「え、ええ。本日は色々とお教え頂き、ありがとうございました」




 唯一の安全地帯であったジゴロ君は、すぐ迎えが来て、表面だけ丁寧な別れの挨拶を交わす。




 こんの裏切り者~!!

私は恨みがましげに、涙目で彼の後ろ姿を睨みつけた。




 「少し、よろしいでしょうか」




 よくねえよ。

ジゴロ君の代わりに、先程の色艶テッカテカ美青年がそこにいる。随分と早いお出ましで?

頭のタンスの奥の奥の奥からぽぽぽぽ~んとやって来たのだ。

私はてっきり、学園で再会するものだと思っていたよ。






 





 










 

ジゴロ君、セレブの割にちょっと庶民臭いですね。

主人公、毎度毎度、口が悪くてスミマセン。

次話も宜しくお願いします。


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