夜が来る前に 双子の現実逃避城(2)
4月28日 午後3:05 図書館二階
私は今日、7時限目をサボり、後ろめたさに打ち拉がれながらも
二人の声を支えにここまでやってきた。
紅く重々しいが、内側に金糸で細かく蔦や可愛らしい小花や蕾の
刺繍が施されたカーテンで隠れながら
窓から外を覗ける二階部分でターゲットの双子を待っている。
因みに三階は視聴覚室。
「もうすぐだね」
私がケータイに向かって話したら、なっちゃんの声がした。
「でも、どうするの?双子が来たらどうやって、
どういう理由でここに来たって説明するつもりなの?」
ああ。なっちゃんだけに、すんごいまともな事言ってきた。
「なっちゃぁん・・・」
我ながらなんて情けない声出してんだ。
「何も考えてなかった・・・」
「はあ!?」
うわ、優梨様がお怒りだ。
これ目の前に優梨いたらぜってぇチョップされてた。
でも今はそのチョップも有り難い、してほしいとさえ思ってしまうのだ。
「ごめん。もう、話す時間は無いみたい」
ファンに見つからないためか、ターゲットの双子(らしき人物)は
辺りを警戒しながらこちらに向かっている。
「ここからは玲一人の戦いよ。健闘は祈っているけどね」
「頑張ってね。玲なら何とかなると思う」
「うん。ありがとう」
ケータイを切り、すっくと立ち上がり、スカートを叩いて
「っし!」と拳に力を入れる。
念のため録音機をポチッ。
休日中に買っておいて正解だったぜ。
星宮玲よ。沢山お小遣い残してくれててありがとさん。
瞬間、ドアが開く音がした。戦いは既に始まっているという事か。
一歩、一歩、階段を踏み締めた。
額と背中には、だらりだらりと気持ちの悪い汗が伝う。
いつか、私は茫然としている双子の前に立っていた。
「貴方達・・・」
その次の言葉なんて全く考えてもいない。
でも、何か言わないといけない、そう強く思って目を瞑り、叫んだ。
「図書委員なら昼休み中女子生徒を静かにさせて下ひぁい!」
うっぁあああああああああ!!
噛むなよ!最後!最後だったろ!!もおチョイ頑張れよ!!
落ち着け私!
何も反応が無い双子の前で軽く深呼吸をした後、
自分の胸の上辺りに右手を押しつけて威厳たっぷり(自分では)で咳払いをした。
今さらだろうけど。意味無いだろうけど!
「図書委員なら昼休み中女子生徒を静かにさせて下さい」
上手く言えたので少し綻んでしまった。
ま、先程の事は水に流そうではないか。
「あの・・・それが要件ですかぁ」
双子の片割れが恐る恐る言いだした。
「え・・・ええ。そうです」
戸惑いはしたものの、とりあえず敬語で応対した。
星宮玲はしっかり落ち着いた敬語キャラだからな。
もう冷静という認識はされなくなったと思うが、まあ、一応。
沈黙の後、双子が手を組んで許しを請うように微笑って言った。
『ごめんなさぁ~い』
「でもぉ、昼休み中ここに来たって事はぁ~」
「何かしら用があって来たって事ですよねぇ~」
このガキ共、私を試してやがるな。
あ、でもホントはコイツ等より年下なんだっけ。
橋宮玲=中学二年生、双子=中等部三年生。
ん~、今私は星宮玲=高等部一年生だから。
・・・年下だよね。うん。年下。
「私、高等部編入生なんです。
だから、少しでも学園の事が知りたくて図書館に本を探しに来たんです」
自分で納得してから、どうせなら双子を利用してこの学園を、
あと少しばかり私の家についても調べてみようと思った。
よく考えてみりゃ、図書館の文献はまだ調べてなかった。
聞き込み調査ばかりしていたからね。あんまり当てにはならなかったけど。
高校にも慣れなきゃだったしね。
『あ~!あの噂のぉ~』
「不知火先輩が言ってましたぁ。
俺の手首を掴んで、もうすぐ投げ飛ばされそうだったってぇ~。
あんな度胸ある女はこの学園では珍しいってぇ~」
「金城先輩が言ってましたぁ。
この令嬢には興味ある。勿論、恋愛感情抜きでってぇ~」
拙い。拙い。拙い。
噂ってどこまで広がってんの?
私が流して欲しいのは惑生会の中だけ。それ以外はお断り!
「あ・・・そうなんですか」
あはは・・・と、困惑、苦笑いで応えた。
『で、どっちなんですかぁ~。』
ん?何が?という表情をしてみた。
『どっちが先輩の本命なんですかぁ?』
お互いを見つめてニヤニヤする双子。
その質問にはっきりと、星宮玲らしく先輩風を吹かせて答えた。
「いいえ。どちらも好きではありません。
好きな人もありません。人の事情に首を突っ込むのではありません」
『えぇ~』
双子は落ち着くまでぶーぶー言ってから、
「まあ。お詫びに学園についての文献を持ってきますねぇ~」
と、一人は一階、もう一人は二階で文献を集め始めた。
次は現実逃避城(3)になります。
双子回は(3)で終わりですね。ぜひ、次話も!




