第六話
刑期を終えた綾音が寮の部屋に戻った時、三人のルームメイトの内の二人がまだ居て、朝の支度を急いでいた。
二人は綾音を見ても、おかえりも何も言わなかった。共に視線をすぐにそれぞれの机の上の鏡に戻し、また髪を梳かしだす。前科者とむやみに関わり、いらぬ疑いを掛けられることを恐れているのだ。逆の立場ならと考えてみて、自分もそうするだろうと綾音は思う。腹を立てる資格のないことを自覚して、彼女は一人、みじめさを噛みしめた。
しかし、綾音はまだ完全には失望していなかった。今ここに居ないルームメイトの一人は、例の綾音と相愛の一人で、彼女はまたこの二人とは違う態度で自分を迎えてくれるだろうと信じている。とにかく今は、一刻も早く彼女に会いたい――綾音はその一心で、無視されることを予測しつつ、構わず二人に訊いてみた。
「莉々華はもう登校しちゃったようね。珍しいわね、一人で先に行くなんて。日直か何かかしら?」
「……彼女なら、団員寮に移ったわよ」
「えっ……」返事が来たこと自体意外だったが、その内容はもっと意外だった。「いつのこと?」
「あなたが連行されていった翌日にはもう」
団員寮というのは、施設も食事も何もかもが綾音らが今住んでいる一般寮よりも一段まさるプレミアム寮で、正確には、鵬泉青年団団員寮という。鵬泉青年団には、この学校の名声を外に広げるにあたり、特に有用と目される生徒のみ加入が認められ、その数はおよそ、全生徒数の十五分の一ほどにあたる四十人といったところか。要は、特に学業が秀でていたり、スポーツや芸術の大会で輝かしい成績を収めていたり、親がたくさんの寄付金を納めていたりするエリートたちの交流団体といった性質のもので、学級委員長になったり、生徒会の中で役職に就いたりしているのは、すべてこの団体の団員たちであった。
さて、その青年団に、親切で顔が綺麗ではあるが、他にこれといって芸もなく裕福でもない莉々華が加入できたというのは、どういうわけであろう。綾音が逮捕された翌日にはその寮に移ったというが、それとこれと何か関係があるのか。
「私が言いたいこと、わかるわよね」
「……ええ」
ルームメイトが示唆しているのは、「きっとあなたは今でも、誰が自分をチクったかと疑心暗鬼でいるだろう。でもそれは、状況証拠的に莉々華に違いなく、少なくとも私たち二人のどちらでもない。だから間違って、私たちのことを怨んだりしないように」ということだろう。
しかし、綾音には、莉々華がそんなことをするとは信じられない。自分に対して向けられていた彼女の好意が偽物だったとは、とてものこと思えない。そもそも、人一人を売ったぐらいで入れるほど、青年団の門戸は広くないはず。
いずれ、彼女に直接会って話を聞けば、すべての不審は消えるだろう。綾音も、懐かしく感じる制服に急いで着替えて、およそ二カ月ぶりの登校の準備を急いだ。




