第二十七話
六月十七日に開かれた常務委員会において高辻綾音の生徒会追放処分が決定された、との告知が出た。一方、綾音の側も、詐欺罪、監禁罪、不敬罪の容疑で入江、山本、堀川の三人の常務委員に逮捕状が出たと触れまわり、ここに生徒会の分裂は一般生徒たちのあいだにまで、早くもあまねく知られるところとなった。
十九日の昼前のこと。警備部と公安部の連中が束になって、収容所に押し寄せてきた。口々に、不法占拠を止めて今すぐ建物を明け渡せ、と怒鳴っている。
彼女らは玄関を破り、階段を駆け上がってきた。しかし、三階手前の踊り場まで来たところで、消火器の一斉噴射を受け、パニックに陥った。
白川憲兵隊長の号令が下り、すべて水中眼鏡とマスクを掛け、汚れても構わない服装(多くは体操着だが、一部、スクール水着も)をした隊員たちが、雪崩を打って突入した。ほとんど目を開けられず息もままならない警備部と公安部の女たちは、みな一方的に蹴られ叩かれ、それぞれ咳き込みながら、ほうほうの体で逃げていった。
「一昨日の仕返しが出来て良かったとは思いますが、後始末が……」白川憲兵隊長が、いまだ白く視界の濁る中、ほうきを使いながら言った。
「うん、ちょっと大変すぎるわね。どうせ奴らも、次は対策してくるでしょうから、もう消火器を使うのは止めて、何か別の方法を考えましょう」綾音が、小山を成した消火剤をちりとりで受けながら言った。
その翌日の暮れ方、また同じ者らが攻めてきた。皆、昨日の敵を真似て、マスクと水中眼鏡を付けている。これに対して憲兵隊は、今度は小細工なしで、正面からぶつかった。
初めは、攻め手が優勢に見えた。数において劣る憲兵隊の方がどうしても押されてしまう(攻め手は四十人ほどで、守り手は三十人ほど)。
しかし、前線が階段の上へ上へと徐々に移り、三階前の踊り場まで来た時、様相が一変した。どこからか高い笛の音が鳴って、一階と二階のフロアから、急にわんさと人が湧いて出てきたのだ。
それは、収容所の看守に率いられた囚人たちだった。昨日の内に綾音が指示し、急遽、部隊を編成したのだ。働き次第で即時釈放も可能だと聞かされた彼女らの奮闘ぶりには鬼気迫るものがあった。攻め手はこれに圧倒され、またもや退却を余儀なくされた。
「今、全員とおっしゃいましたか?」勝利の歓声に沸く中、看守長が訊き返した。
「ええ。罪の軽重にかかわらず、全員を釈放して。そして、空いた監房には、今後は一般の宿舎として、憲兵隊員たちを住まわせるから、そのつもりで準備して」綾音が言った。
「彼女ら全てを寮から引っ越させて、ここの警護をより堅牢にするわけですね」
「そう。それに、彼女ら自身の福祉の為でもあるわ。寮はこれから段々と、食事が出なくなったり、電気が止められたりするかもしれないから」
綾音は戦の首尾を報告に、邑子の籠る所長宿直室へと廊下を戻っていった。勝利の報告を聞いた邑子は、綾音の手を取り、喜んだ。
「ごくろうさま。疲れたでしょ。お風呂、沸いてるから、入っていきなさい」
「いえ、今日は消火剤をかぶることもなく、昨日ほど汚れてはいませんので」
「でも、汗かいたでしょ。流さなきゃ。そうだ、一緒に入りましょうか。背中の洗いっこしましょ」
「まさかそんなわけには……そういえば、私、まだ仕事が残ってました。ではまた後で」
綾音は顔を真っ赤にして、そそくさと部屋から逃げ出した。自身の意気地の無さを、あとでひどく呪った。




