第二十二話
年度が変わり、生徒会の役職の多くが入れ替わった。綾音は新たに収容所長に任命され、なおかつ、常務委員の一人に選ばれた。この異動に伴い、憲兵隊長の役は解かれたが、後を継いだのは、彼女が自ら引き上げて馴らした忠実なる元副隊長の白川弥生という女で、今後も憲兵隊が綾音の手足であり続けることに変わりはなかった。
これにより綾音は生徒会において、今度すべて新たになった四人の常務委員の中でも、一番の実力者となった。しかも、他の三人の常務委員より顔が綺麗なせいか、代表権を持った方の生徒会長である広幡邑子から妙に気に入られたらしく、公用私用の別なくその公邸に呼び出されることが頻繁である。今日もまた綾音は特に用もなく呼び出され、お茶の相手をさせられていた。
「ごちそうさまでした。ではこれで、お暇させていただきます」
「あら、まだいいじゃない。ゆっくりしていきなさいよ」
「そうしたいのはやまやまですが、そろそろ授業に戻らないと」
「何の授業?」
「世界史です」
「だったら担当は伊藤教諭ね。わかった。それじゃ後で彼女をここに呼んで、一緒に授業を受けましょう」
皮肉なものだと綾音は思う。スパイとして生徒会に潜入した自分が、何の間違いか、その敵組織において、位人臣を極めてしまった。いまや生徒会の命運は綾音が握っていると言っても過言でなく、これを生かすも殺すも彼女次第だ。
しかし、綾音はここに来て、自分がどうすべきかわからなくなっていた。当初の目的に従えば、もちろんそれを解体すべく、直ちにも動き出すべきであろうが、本当にそれで良いのか。
もし、今の生徒会が倒れれば、おそらく、綾音の本来の所属である解放戦線が、それに取って代わるだろう。しかし、現今の解放戦線は例の望月粛清の一件以来、何やかやとゴタゴタ続きで、いまだ新しい議長も決められずにいるような体たらくだ。そんな頼りない組織に、この学校の未来を託して、本当に大丈夫なのか。あるいは、それならいっそ、この私が――
「何を考えてるの?」
「あっ……いえ、何でも……」会長の声に、綾音は我に返った。
涼しげな美しい目が、綾音をじっと見ていた。綾音は思わず、赤面してしまう。この女は敵だとどんなに自分に言い聞かせても、一度火照った頬はなかなか冷めなかった。




