第十六話
六角の部屋から脱け出た綾音は、その足で収容所の三階へと向かった。そして、当番の刑務官の一人に、授業中の雪乃を呼びに行かせ、今や遅しとその到着を待った。
ほどなく、雪乃が急ぎ足に戻ってきて、二人は所長室に入った。綾音はスカートのポケットからスマホを取り出して、雪乃に手渡した。
「私に代わって、すぐに中身を洗ってください。あなたの方が、これの扱いには慣れてるでしょ」
「フッ、本当に盗ってきたか。お前やっぱり、太い奴だな」
幸い、ロックは掛かっていなかった。メールのやり取りを見ることも、例のフリマサイトに例のアカウントでログインすることも自在に出来て、確かめたかった証拠はすぐにいくらでも見つかった。綾音は憲兵隊の隊室から備品のデジカメを持ってきて、それらを次から次といちいち撮って収めた。
夕食前の時刻、綾音は憲兵隊の部下でなく、雪乃から人員を借りて率いて、六角の部屋を襲った。六角は細い身体に似ず、凄い大声を出して、その不当と無礼を責めた。さすが常務委員というだけあって、その威はたいていでなく、誰もがひるみを見せた。
しかし、綾音がプリントアウトした証拠の数々を突きつけると、六角は途端に顔色を青くして、ぶるぶると震えだした。綾音の号令と共に、人員が一斉に飛び掛かり、彼女は縄で大袈裟に縛り上げられた。収容所へ連行する道中、あえて多くの人目に晒すよう、綾音は人員にわざと騒ぎ立てさせた。
その翌未明には、憲兵隊の隊長の舟橋を逮捕した。容疑は収賄である。彼女は、六角が捕まった時点で既にこれあるを予想していたらしく、綾音たちがその居室に踏み込んだ時、もう起きて、身支度も終えていた。
「抵抗しないから、縄で縛ったりせず、このまま静かに連れてって」
「罪人風情に指図されるいわれはないわ。さあ、みんな、構わないから、やっちゃって」
六角の派閥に属する者たちへの粛清はその後三日間に渡って続き、最終的にその対象となった人数は十指に余った。六角はここにその勢力を完全に失い、彼女自身には卒業式前日までの懲役刑が言い渡された。
六角が管掌していた経理部の業務は、すべて雪乃が監ることとなり、元より収容所長でもある彼女の権勢は、残り三人の常務委員の中でも頭一つ抜き出たものとなった。綾音も繰り上がりで憲兵隊長に昇進し、今回のその活躍から人は彼女のことを鬼高辻と呼ぶようになった。




