第98話 小さな変化
夏休みのある日の夜。
東雲悠真は、自分の部屋で机に向かっていた。
やることは終わっている。
教科書もノートも片付いている。
いつもなら、もう寝る時間まで静かに過ごすだけだった。
……なのに。
「……。」
なぜか、今日のことを思い出していた。
勉強会。
四人で集まって、問題を解いて。
桃華が分からないところで悩んで。
凜空が笑って。
こむぎが楽しそうに笑っていた。
(……楽しかったな)
そう思った瞬間、少しだけ驚く。
楽しい。
そんな言葉を、自分が自然に思ったことに。
昔から、一人でいる時間が多かった。
誰かと長い時間一緒にいることも、そこまで好きではなかった。
でも。
「……変わったな」
小さくつぶやく。
何が変わったのかは分からない。
ただ、最近は。
こむぎや桃華、凜空といる時間が嫌じゃなかった。
むしろ、少し楽しみになっている。
特に。
「……。」
そこで考えるのを止めた。
暁月こむぎ。
気づけば、よく目に入る。
笑っているところ。
困っているところ。
真剣に考えているところ。
なぜか気になってしまう。
(なんでだ)
考えても答えは出ない。
昔からの知り合いだから。
同じクラスだから。
そういう理由なら、納得できる気がした。
「……まあ、いいか」
悠真は椅子から立ち上がる。
時計を見る。
もう寝る時間だった。
部屋の電気を消す前に、ふと窓の外を見る。
夏の夜。
静かな時間。
でも、以前とは少し違う。
一人の時間なのに。
どこか寂しくなかった。
(明日も、会うか)
そんなことを考えた自分に、少しだけ違和感を覚える。
けれど、その理由を考えることはしなかった。
まだ名前のない気持ちを抱えたまま。
悠真は静かに眠りについた。




