第88話 飛び込みプール
「思ったより高いかも……」
こむぎは飛び込み台を見上げながら、小さくつぶやいた。
一番低い飛び込み台でも、水面から見上げると意外と高く感じる。
「私は一番低い所からやってみたい!」
桃華は目を輝かせながら受付の方へ向かった。
「桃華、怖くないの?」
こむぎが尋ねる。
「楽しみの方が大きい!」
そう言って笑う桃華を見て、こむぎも少しだけ緊張がほぐれた。
係員から説明を受け、四人は一番低い飛び込み台へ向かう。
「一人ずつお願いします」
その言葉に四人はうなずいた。
「じゃあ、私から!」
桃華は元気よく手を挙げる。
階段を駆け上がる姿に、三人は思わず顔を見合わせた。
「さっきまで泳げないって言ってた人とは思えないね」
凜空が苦笑する。
「勢いだけはあるから」
こむぎも笑った。
飛び込み台の先に立った桃華は、一度大きく息を吸う。
「いっきまーす!」
勢いよくジャンプすると、大きな水しぶきが上がった。
「ぷはっ!」
すぐに顔を出した桃華は、満面の笑みを浮かべる。
「楽しいー!」
「大丈夫そうだね」
こむぎは安心したように笑った。
「次、俺行く」
凜空は軽く手を挙げ、階段を上っていく。
台の先まで行くと、一度だけ水面を確認する。
「それっ」
余計な力の入っていないきれいな飛び込み。
水しぶきもあまり上がらず、すっと水の中へ消えていった。
「おぉ……」
こむぎは思わず感心する。
少しして浮かび上がった凜空は、笑顔で親指を立てた。
「気持ちいいよ!」
「さすが凜空」
桃華が拍手を送る。
「悠真も行く?」
こむぎが尋ねる。
「ああ」
悠真は静かにうなずき、飛び込み台へ向かった。
無駄のない動きで先端まで歩くと、一瞬の迷いもなく踏み切る。
すっと伸びた姿勢のまま水へ入り、ほとんど音を立てずに飛び込んだ。
「……すご」
凜空が思わず声を漏らす。
「めちゃくちゃきれいだったね」
こむぎも目を丸くする。
「テレビで見るみたいだった!」
桃華は目を輝かせながら言った。
悠真は水面から顔を出すと、何事もなかったかのようにプールサイドへ戻ってくる。
「普通だよ」
「いや、普通じゃないって」
凜空が笑う。
三人の視線が、一斉にこむぎへ向く。
「……え?」
こむぎは少し後ずさった。
「次、こむぎだね」
桃華がにこっと笑う。
「だ、大丈夫かな……」
飛び込み台を見上げたこむぎは、小さく深呼吸をした。




