第68話 崩し方
第三クォーター開始前。
スコアは18対22。
4点ビハインド。
ベンチの空気は少し重い。
「このままだとじわじわ離されるな」
蒼が呟く。
凜空も唇を結んだままコートを見ている。
そのとき、高橋先輩がホワイトボードを軽く叩いた。
「作戦を変える」
全員が顔を上げる。
「今までは個人で崩そうとしてた」
「でも相手はそれを読んでる」
少し間を置いて続ける。
「これからは“動かして崩す”」
「動かす……?」
こむぎが小さくつぶやく。
桃華も首をかしげる。
彩花先輩が説明するように言った。
「ボールだけじゃなくて、人も一緒に動かすってこと」
「相手の守備をずらして、隙を作るんだよ」
「なるほど……」
こむぎは真剣にうなずいた。
第三クォーター開始。
悠真がボールを運ぶ。
いつもよりゆっくり。
焦らない。
「凜空」
パス。
すぐに戻す。
別の場所へ展開。
青嶺高校はすぐに反応する。
しかし、少しずつ動かされていく。
完璧だった守備に、わずかなズレが生まれ始めた。
「遥斗先輩」
ボールが入る。
遥斗先輩は一度止まる。
相手が寄る。
その瞬間。
「逆だ」
パスが反対側へ飛ぶ。
「蒼」
空いたスペース。
迷わずシュート。
シュッ!
リングが揺れる。
20対22。
「今の……!」
こむぎが思わず声を出す。
彩花先輩が静かにうなずいた。
「そう。ほんの少しだけズラせた」
青嶺高校はまだ崩れない。
すぐに修正してくる。
だが、確かに“遅れ”が出ている。
攻撃が続く。
悠真がボールを回す。
凜空、蒼、遥斗先輩。
そして湊先輩がスクリーンで道を作る。
「今だ」
凜空が抜ける。
ディフェンスが遅れる。
シュッ!
22対22。
同点。
「やった……!」
桃華が思わず立ち上がる。
こむぎも嬉しそうに手を握る。
だが青嶺高校もすぐに修正してくる。
また元の“崩れない形”へ戻してくる。
第三クォーター終了。
26対26。
同点。
ベンチに戻る選手たち。
息は上がっているが、誰も下を向いていない。
高橋先輩が静かに言う。
「見えたな」
全員がうなずく。
「あと一歩だ」
「崩せる」
こむぎはコートを見つめる。
(ここからが、本当の勝負なんだ)
空気が変わる。
準決勝は、まだ終わらない。




