第54話 教室と部活の顔
朝の教室。
窓から差し込む光の中で、授業が淡々と進んでいく。
「ここテストに出るぞー」
先生の声が遠く感じるくらい、教室は少しだけ眠い空気だった。
その中で、こむぎは静かにノートを取っていた。
(授業……普通に進んでる)
黒板の文字を丁寧に写す。
その横では、クラスメイトが小さくざわつく。
「なぁ、こむぎってさ」
「バスケ部入ってるんでしょ?」
「しかも男子と同じ寮なんだって」
こむぎの手が一瞬止まる。
(……寮のこと、もう広まってる)
「すごくない?」
「普通に浮いてそうじゃね?」
そんな声が後ろから聞こえる。
「別に普通じゃね?」
前の席の男子がさらっと言う。
「部活やってるだけだろ」
その一言で、少し空気が変わる。
こむぎは何も言わず、ノートに視線を戻した。
(気にしない……)
昼休み。
廊下は一気ににぎやかになる。
「おーい!」
蒼の声。
「今日も部活だろ?」
「うん!」
凜空が笑う。
悠真は静かに通り過ぎる。
佐久もその後ろを歩く。
真斗は廊下の端で何か話している。
「こむぎさん昼いるかな」
「まず授業行け」
颯馬のツッコミ。
その様子を、少し離れた場所からこむぎが見ていた。
(……みんな、もう“部活の顔”だ)
放課後。
チャイムが鳴ると同時に、空気が変わる。
ガタッ。
机が動く音。
「行くぞ!」
蒼が立ち上がる。
「勝手に仕切るな」
凜空が笑う。
こむぎと桃華もカバンを持つ。
「今日も部活だね」
「うん」
校門。
そこにはもう何人か集まっていた。
「遅いぞー」
「まだ時間前だろ」
いつものやり取り。
悠真と佐久も無言で合流する。
真斗と颯馬は騒がしく走ってくる。
遥斗は少し遅れて静かに歩く。
「じゃあ行くか」
蒼の声で、一斉に動き出す。
寮と体育館が見えてくると、自然と足が速くなる。
学校の顔から、部活の顔へ。
こむぎは小さく息をつく。
(また“あの時間”が始まる)
体育館の扉が開く。
バスッ、バスッ──
ボールの音。
声。
空気。
すべてが一気に“バスケ部”に変わる。
「集合!」
部長の声。
全員がコートへ向かう。
放課後は、もう完全に“別の世界”だった。




