第4話 犬系女子との昼休み
昼休みは、思っていたより平和だった。
……いや、正確には「平和になろうとしている途中」って感じかもしれない。
「こむぎー!こっちこっち!」
教室の後ろから、元気な声が飛んできた。
振り向くと、朝比奈桃華が机をバンバン叩いている。
「早く早く!一緒に食べよ!」
「そんな急がなくても行くってば」
私は苦笑しながら立ち上がる。
その瞬間。
また視線が集まった。
(……まだ完全には慣れられてないな)
桃華はそんなことお構いなしに、私の腕を軽く引いた。
「ほら、行こ!」
「ちょ、引っ張らないでよ」
廊下に出ると、少しだけ空気が変わる。
桃華は歩きながらずっと喋っていた。
「ねえねえ、今日の授業さ〜」
「先生ちょっと面白かったよね!」
「こむぎってさ、給食パン派?ご飯派?」
「質問多いな!」
でも不思議と嫌じゃない。
むしろ、静かになる隙がないのがありがたいくらいだ。
ふと横を見ると、桃華は普通に笑っている。
距離が近い。やたら近い。
(この子、ほんと犬みたいだな)
(いや……犬というか)
(犬そのものじゃない?)
頭の中でそんなことを考えていたら、桃華が急にこっちを見た。
「なに?今なんか変なこと考えてた?」
「考えてないけど」
「絶対考えてたでしょ!」
即バレだった。
購買でパンを買って、屋上へ向かう。
扉を開けると、少しだけ風が強い。
「ここ、いいね!」
桃華はすぐに座り込んだ。
「毎日ここで食べよ!」
「毎日は飽きるって」
「えー!」
私は隣に座って、パンをかじる。
ふと、空を見る。
なんでもない昼休み。
でも、昨日までの私にはなかった時間。
「ねえこむぎ」
「ん?」
桃華はパンを口に入れたまま、こちらを見た。
「こむぎってさ、やっぱりちょっと特別だよね」
一瞬、手が止まる。
「耳とか尻尾とかじゃなくてさ」
「なんか……雰囲気?」
「普通じゃないのに、普通に笑ってる感じ」
私は少しだけ目を細めた。
(普通じゃない、か)
その言葉は、昨日も聞いた気がする。
「別に、普通になりたいだけなんだけどね」
軽く言って、またパンをかじる。
桃華は少しだけ考えてから笑った。
「じゃあさ」
「私が普通にしてあげる!」
「どういう理論?」
でもその言葉は、ちょっとだけ嬉しかった。
尻尾が、ゆっくり揺れる。
今度は隠さなくてもいいみたいに。




