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第3話 初めて普通に話せた人

2日目の朝は、昨日より少しだけ教室の空気が軽かった。

 ……気がするだけかもしれないけど。

「おはよ、暁月さん」

 席に着いた瞬間、後ろから声がした。

 振り向くと、昨日より少し距離が近い男子が立っていた。

「おはよー」

「今日も……その、耳とか尻尾とか普通なんだな」

「普通って言われるとちょっと複雑なんだけど」

 私は軽く笑って返す。

 昨日みたいな騒ぎはない。

 でも視線は、まだ少し残っている。

 “見慣れようとしている視線”。

 そのとき。

「ねえねえ!」

 教室の空気を一気に変える声がした。

 振り向くと、元気そうな女子がこちらに駆け寄ってくる。

 距離感が、やたら近い。

「昨日から気になってたんだけどさ!」

 彼女は私の前に立って、じっと見つめてきた。

 悪気はない。むしろ興味しかない顔。

「耳、触っていい?」

「え、いきなり?」

「だめ?」

「だめじゃないけど……」

 断る前に、もう手が伸びていた。

 ぴょん、と軽く耳に触れられる。

「わぁ……ほんとにある……あったかい……!」

「そりゃ生きてるからね」

 思わずツッコミが出る。

 その子は目を輝かせたまま、今度は私の尻尾を見た。

「尻尾も本物だよね?」

「うん」

「うわ、動いてる!」

 勝手に尻尾が反応してしまう。

(やめてほしい、この正直なやつ)

 そう思った瞬間。

 ふわっ。

「今、ちょっと嬉しかったでしょ」

「してないし!」

「してるって」

 即バレだった。

 その様子を見ていた周りが、少し笑う。

 さっきまでの“距離”が、少しだけ消えた気がした。

「ねえ、名前なんていうの?」

「暁月こむぎ」

「こむぎ!私は朝比奈桃華!」

 元気いっぱいの声で名乗られる。

(この子……)

 私は少しだけ目を細めた。

(なんか……犬みたい)

(いや、犬というか……)

(犬そのものじゃない?)

 しっぽがあったら絶対動いてる。

 いや、むしろ見えないだけで動いてる気がする。

(しっぽ生えてるって言われても納得しそうなんだけど)

「ねえねえ、今日一緒にお昼食べよ!」

「え、もう?」

「だめ?」

「だめじゃないけど」

 気づけば押し切られていた。

(この距離感の近さ、すごいな)

 でも、不思議と嫌じゃない。

 私は小さく息を吐いて、笑った。

「……じゃあ、よろしく」

 尻尾が、今度ははっきりと揺れた。

 さっきよりも、ずっと自然に。

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