第39話 みんなが隠していたこと
放課後。
夕日が教室をオレンジ色に染めていた。
教室には四人だけが残っている。
暁月こむぎは、机の上に一枚の紙を置いた。
そこには、
『非公式 こむぎファンクラブ』
と書かれている。
しばらく誰も口を開かなかった。
最初に話し始めたのは、朝比奈桃華だった。
「……ごめん。」
「え?」
「実は、少し前から知ってたの。」
こむぎは驚いて目を丸くする。
「桃華も?」
「うん……。」
今度は東雲悠真が口を開く。
「俺も知ってた。」
「悠真くんまで……。」
「最初は噂だけだった。でも、テストが終わった頃には結構広まってた。」
「俺も。」
そう言って笑ったのは朝倉凜空だった。
「女子が『ファンクラブ』って話してるのを聞いてさ。」
「でも、まさか本当にあるとは思わなかった。」
こむぎは三人を見つめる。
「……どうして教えてくれなかったの?」
桃華は困ったように笑う。
「こむぎが気にしちゃうと思ったから。」
悠真も静かに続ける。
「悪いことをしてる集まりじゃなかった。」
「だから、様子を見るしかなかった。」
凜空が腕を組む。
「実際、俺も何回か話しかけられたんだ。」
「『こむぎちゃんってどんな子?』とか。」
「『仲いいの?』とか。」
「全部『普通の友達だよ』って答えてた。」
「私……そんなに見られてたんだ。」
こむぎは小さくつぶやく。
桃華は首を横に振る。
「見られてるっていうより……。」
少し考えてから笑う。
「みんな、こむぎのことが好きなんだと思う。」
「優しいし、勉強もできるし、困ってる人を放っておかないし。」
「だから応援したくなっちゃったんじゃないかな。」
こむぎは少し黙り込む。
思い返せば、知らない人が手を振ってくれたり、笑顔で挨拶してくれたりした。
あれは全部、このファンクラブがきっかけだったのかもしれない。
「でも……。」
こむぎは顔を上げる。
「私、特別なことは何もしてないよ?」
悠真は小さく笑う。
「そう思ってるのは、お前だけかもな。」
凜空も笑ってうなずく。
「普通にしてるところがいいんじゃない?」
「だから人気なんだよ。」
桃華がこむぎの肩を軽く叩く。
「安心して。」
「みんな応援してるだけ。」
「もし嫌なら、ちゃんと伝えればきっと聞いてくれるよ。」
こむぎは机の上の紙をもう一度見つめた。
「……そっか。」
まだ少し恥ずかしい。
でも、不思議と怖くはなかった。
「ありがとう。」
三人はほっとしたように笑う。
その頃、教室の外では——
「どうだった?」
「怒ってなかったかな……。」
ファンクラブのメンバーが、ドアの向こうでそわそわしていた。
誰も、中の様子をのぞこうとはしない。
ただ一つだけ願っていた。
「嫌われていませんように。」




