第36話 私のこと?
翌日の昼休み。
「こむぎ、お昼食べよ!」
桃華に呼ばれ、こむぎはお弁当を持って席を立った。
「今日は中庭にしない?」
「いいよ。」
二人はのんびり歩きながら中庭へ向かう。
途中、すれ違う生徒たちが小さく会釈をしてきた。
「こんにちは!」
「……こんにちは。」
こむぎも笑顔で返す。
「あ、返してもらえた!」
そんな声が後ろから聞こえた気がして、こむぎは振り返る。
でもそこには、楽しそうに話しながら歩いていく女子生徒たちの姿しかなかった。
「どうしたの?」
桃華が尋ねる。
「ううん……なんでもない。」
中庭のベンチに座り、お弁当を開く。
「いただきます。」
「いただきまーす!」
いつものように二人で食べ始める。
すると、少し離れたベンチに座っていた女子たちが、ちらりとこちらを見て微笑んだ。
「……?」
こむぎが首をかしげると、その子たちは慌てて話題を変えていた。
「ねぇ桃華。」
「ん?」
「最近……知らない人と目が合うこと、多くない?」
桃華は一瞬だけ動きを止める。
「そう?」
「うん。」
こむぎは少し考える。
「悪い感じじゃないんだけど……なんだろう。」
桃華は曖昧に笑った。
「テストで1位だったからじゃない?」
「それだけで?」
「ほら、初めてのテストだったし!」
「そうなのかな……。」
納得したような、していないような表情を浮かべる。
そのとき。
「おっ、ここにいた。」
声をかけてきたのは、凜空だった。
「隣いい?」
「うん。」
凜空は向かいのベンチに腰を下ろす。
少し遅れて悠真もやってきた。
「……ここだったか。」
自然と四人で昼食を食べる形になる。
その様子を見ていた少し離れた場所の女子たちが、小さく盛り上がる。
「今日は四人そろった!」
「レアじゃない?」
「あとで報告しよ!」
声は風に紛れて、こむぎたちには届かない。
食べ終わり、教室へ戻る途中。
こむぎはもう一度だけ後ろを振り返った。
また目が合った。
知らない女子生徒。
目が合うと、にこっと笑って軽く手を振ってくる。
こむぎも反射的に手を振り返した。
するとその子は、とても嬉しそうに友達のところへ駆けていく。
「やった!」
「手振ってくれた!」
そんな声がかすかに聞こえた。
「……?」
こむぎは足を止める。
「どうした?」
悠真が不思議そうに聞く。
「今の子……。」
「知り合い?」
凜空も振り返る。
こむぎはゆっくり首を横に振った。
「……知らない。」
でも。
知らないはずなのに、向こうは自分を知っているようだった。
その不思議な感覚が、こむぎの胸に小さく残る。
(もしかして……。)
まだ答えは出ない。
でも、「何かがある」という確信だけは、昨日よりも少しだけ強くなっていた。




